
「audible、加入してみたけど、なんか結局あんまり聴かなくてやめちゃったわ〜」という人がけっこういるらしい。わかる。いや自分自身はそこそこaudibleヘビーユーザーで昨年は70冊くらい聴いたっぽいけど、他の人がそうなりがちな理由はわかる。
まず言っておくと、「audible」、良いサービスだと思う。というか、「本」にまつわるサービス全体で、近年(といっても日本では10年くらい経ったが)開始したものでは、ベストのひとつじゃないかと読書好き勢としても思っている。
「聞く」本という要素をいったん無視しても、audible、そもそも「本のサブスク」として地味に優秀である。聴き放題タイトルは約20万冊で、これは(今調べたが)イオンモール日の出の「未来屋書店」や、エミテラス所沢店の「ジュンク堂書店」の蔵書数に匹敵する。…いや全くピンとこないと思うが(ごめん)、デカいモールのデカいチェーン書店くらいの蔵書数はあるということ。
同じくamazon系の読み放題サービスであるKindle Unlimited(通称キンリミ)は対象が約500万冊なので、数で言えばこっちの方が格段に多いが、ぶっちゃけキンリミははっきりと玉石混交で、ちゃんとした出版社の本から、素人の自己出版まで色々(いや私自身も自己出版したことあるが…)であり、よくいえば多様、悪く言えば「石」も多い。
一方、audibleは母数こそやや小さいが、ちゃんと探せば(自己啓発本やビジネス系ばっかりではなく)歴史や科学や文学など、各ジャンルにそれなりに良書の比重が大きい。特筆すべきはラインナップが全体に新しいことで、書店のランキングで上位にくるようなものも目立つ。こうした本が読み放題になる定額サブスクは知る限りでは他にない(図書館くらいだろうか…←違う)。売れ筋の本を豪華声優や俳優に朗読してもらう、的なパターンも散見され、シンプルに金かけてんなamazon、と思う。会社的にもけっこう賭けてるというか、流行らせたいサービスなんだろう。
実際、みんな配信でポッドキャストとか聴く習慣も強まってる昨今、「聴く本」のポテンシャルはまだまだ大きいと思う。なんとか読書人口を増やして知的文明を崩壊から救うためには(?)いつまでも紙の手触りがどうとか言ってないで、電子書籍だろうが音声だろうが全部使うべきだ、読書バリアフリーも拡大すべきだと常々思ってる身としては、応援したいサービスのひとつだ。
ただaudible、「意外と聞かんかったわ」となる人が多いのも、正直わかる。理由としては大きく2つで、「"聴く読書"の習慣が定着しなかった」と「読む本が見つからなかった」だろう。(あと「月額1500円が高い」もあるかもだが、これは個々人の経済感覚でどうにもならんので置いといて…。)
まず「"聴く読書"の習慣の定着」からひとつ提言を。大事なのは「本の内容をちゃんと"理解"しよう」「集中して一気に聴こう」とか、あまり高い理想を掲げないことだ。「雑に、しかし沢山読む」=乱読を続けることが読書週間の定着にとって意外に大事なのと同じように、聴く読書習慣の定着においては、"雑に聴く"ことも大事である。乱読ならぬ、「乱聴」?(なんかの症状みたいだが…)
ユーザーの中には一般的な本を「読む」のと同じように、audible本も目を閉じながら精神集中して聴いてる人もいるかもしれないが、私は100%「ながら聴き」である。散歩や家事や作業やゲームの片手間として、ラジオやポッドキャストのように本を聴いているわけだ。必然、普通の「読書」よりは集中度も理解度も一段劣る。
またaudible本は一冊の再生時間が、短い本でも3時間以上はあるし、新書くらいでも5時間程度はザラである(長ければ20時間とかも)。5時間の本を「一気に聴く」など通常ありえないし、ほとんどのユーザーが「生活リズムの余白にあわせて少しずつ、ながら聴きする」が基本ではないだろうか。
つまり、audibleによる読書は、多くの場合「微妙に集中してない状態で、細切れで聴く」を繰り返しながら、日数をかけつつ1冊を聴き通していくことになる。中身を忘れてしまうのでは?うろ覚えになってしまうのでは?と心配になる人もいるだろうが、はっきり言って「聴く読書」なんてのは、そういうものと割り切るべきだ。で、それでいい。いったん聴いてみて、もっとしっかり記憶に定着させたいなと思うような本であれば、もう一回聴くなり、改めて文字の本を買ってちゃんと読むなりすればいいのである。腰を据えて「読む」というよりも、本という知識の迷宮世界に浅く広く触手を伸ばすためのギミックとして、audibleを捉えるのが健全だと思う。
その「触手を伸ばす」目的で見るなら、audibleは良いサービスだ。ただ先ほども「ちゃんと探せば」と言ったように、audibleのランキングとかオススメ欄を適当に眺めても、なんかベタな感じの小説とか自己啓発系とかビジネス系とか、「あ〜こんなもんね」となってしまい、あんまり聴かなくなってしまう人が多いかもな、というのもわかる。
なのでひとつのガイドマップとして、audibleに始めてトライする人にもオススメできそうな、かつ読書好きとしても面白いと思えるような本を30冊ほど紹介してみよう。もちろん私個人の趣味や興味もデカいので、合わない可能性もあるが、まぁ合わなかったら別の本を探してほしい。いいでしょ、どうせ聴き放題だし。
ちなみに私の選んだ2025年のベスト本はこちら↓ 参考までに。
numagasablog.com
一応言っておくとこの記事はamazonに依頼されたPR案件とかでは全然ないが(別に依頼してくれたらやってもいいよ)、ちょうど今「最初の3ヶ月が99円」というキャンペーンがやっているので、対象者の人は気が向いたらどうぞ↓ (1/29までだそうです)

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amzn.to
てなわけでさっそく、淡々とオススメaudible本を紹介していく。対象はaudibleの月額サブスクで聴き放題になっている本のみ(1/17時点)。ジャンル区分は気分。
海外小説
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』
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はい鉄板。映画化も目前(3月)に迫った新時代の鉄板SF小説ですね。おためし期間でいったんこれ読んでみてaudibleとの相性を図る、もアリだと思う。
まぁ上下巻で合計すると25時間くらいあるので長いは長いけど、ドラマ3シーズンぶんくらいの時間を費やしても後悔はしない圧倒的な面白さ。できる限り何も知らずに読んでほしいのであらすじも伏せとくが、絶体絶命にもほどがある状況からのサバイバルSF、とだけ。伏せられた情報カードが1枚ずつひっくりかえって明らかになっていくワクワクするような構造や、会話劇としての魅力など、そもそも実は朗読にとても向いていた作品でもある。井上悟さんの朗読もとても良い塩梅で、原作ファンからも好評でした。
ちょうど昨日、映画館に行ったら予告編が流れて、原作既読勢がSNSでもがんばって隠してた大ネタもどーん!!と出てきたので、まだ何も知らない幸運な人は、audibleでも紙でも電子でもいいからすぐ読んでほしい(もしくは劇場でライアン・ゴズリングが出てきた瞬間に1分半ほど目をつぶって耳を塞ぐ)。ミリしらで楽しんでもらえたら……しあわせ!
『三体』
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以前、ハヤカワさんとのコラボ企画で、『三体』audible版を漫画でオススメする記事を書いたので詳しくはこちらを↓
www.hayakawabooks.com
もう初出からだいぶ時間も経ってしまったが、まぁやっぱどう考えても現代を代表する傑作SFなので、長すぎ&難しそうイメージで敬遠してた人は耳で読んじゃうのもアリですわよ。三部作ぜんぶ付き合うとさすがに長いのでaudible初心者向けという観点からは不適切かな、とは思うが、『プロジェクト・ヘイル・メアリー』完読した人ならイケるのでは(適当な基準)。個人的には特に『三体2』が好きだし、一番わかりやすい面白さなのでなんとかたどりついてほしいな。
『プロジェクト・ヘイル・メアリー』でも『三体』でも、audibleで聴いてみようと思った人に共通のアドバイスなのだが、ちょいちょい挟まれる「むずかし科学タイム」や「ややこし歴史タイム」は、「なるほど雰囲気だけは理解した(理解したとは言ってない)」って感じで聞き流せばいいと思う。どうせ読んでる人の99%はよくわかってない(←SFファンとしてあるまじき発言だが、真実)。どうせフィクションなんだから気楽に読め!
『春にして君を離れ』
海外小説(ざっくりすぎる括りだが…)からもう1冊だけ。audibleはアガサ・クリスティーの小説がたいへん充実していて、(少なくとも有名どころは)全部あるのではという勢い。クリスティー没後50年ということで、個人的にもこの機会にまとめて読んで(聞いて)みようかな〜と思っている。
www.hayakawabooks.com
なんであえて『春にして君を離れ』を推すかというと、まずシリーズものではないことと、約80年前の小説でありながら、いまだに読者を震撼させるほどの普遍的かつ強烈なパンチ力に満ちた本だから。クリスティーの中でも異色作だけどベストにあげる声もよく見かける。特に中年以降の方はちょっと覚悟いるかもだが…ぜひ。
audibleのクリスティー作品、調べたら36作あって、長編の総数が66なので、半分以上あることに。豊富ですな
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こういうガイド本(audible版はないが)を読んで玄人の推すオススメ・クリスティーを漁る手もあるぞ↓ 手厚い
国内小説
audible、なんだかんだ国内小説がいちばん充実してるという傾向はあり、直木賞も芥川賞も本屋大賞etcもわりかし揃ってるため、国内小説をよく読む層には一番オススメしやすいかもしれない。
『ババヤガの夜』
今回の記事でもイチオシ枠。2025年、世界最高峰のミステリー文学賞「ダガー賞」翻訳部門をめでたく受賞したことでも記憶に新しい本作が、さっそくaudibleに来ている。こういうリーチが早いのは「売ってこうぜ」という気概も感じるしサービスとして感心するところ。元の小説が短いので、audible版もキレよくスパッと終わるのもヨシ(といっても4時間半くらいあるけどね)。
暴力を愛するイカツめな女性主人公の物語、というのが画期的なポイントだけに、暴力描写がムリだとやや厳しいかもだが、まぁいうて文章だしね…という意味でも広めにオススメしやすい方かな。
さらになんと朗読担当が大好きな甲斐田裕子さんだった、という私得(わたしとく)案件でもある。これが完璧な人選で、全く異なる特徴の登場人物を巧みに演じ分けてて凄かった。とある大仕掛けもあって朗読がけっこう難しいタイプの小説だと思うけど、さすがプロだな〜と。
王谷晶さん&甲斐田裕子さんの対談もあった。
book.asahi.com
王谷先生のコメント↓
ただ、最初の段階から「一人の方による朗読形式」と聞きましたので、人様に、それもプロの声優さんに読み上げさせていい作品なのだろうか、という気持ちが多少はありました。登場人物も多いし、男性も女性もいる、年齢もバラバラ、さらに言うと口にするのもはばかられるような非常によろしくないセリフが何度も出てきますから(笑)。
たしかにヤベーことしか言わない悪人が出てくるので「甲斐田さんになんてセリフを言わせとんねん…!笑」とファン的にはハラハラしたが、好きな声優さんの声をぶっ続けて4時間半も聴けるとは贅沢な話である。今後も、人気声優や役者の起用で、本と新規読者の橋渡しができるなら、どんどんやってほしいと思う。
『BUTTER』
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いま海外で大人気の日本の女性作家の代表作つながり(長い)でもう一冊。
美貌もないし若くもないのに、その危険な魅力で男たちを騙して財産を巻き上げた、アンチフェミニストな女性詐欺師という強烈なヴィラン(?)を巡る、柚木麻子氏によるサイコサスペンス的な小説。現実の事件を元にした物騒な話ではあるが、タイトル通り「バター」をはじめ食の要素を巧みに織り交ぜることでオリジナリティを獲得。国際的にも高く評価されている代表作なだけあって面白いのでぜひ。
もっと気軽に読める(聴ける)感じだと短編集の『あいにくあんたのためじゃない』とかも面白かった。ラーメン評論家が炎上する話とかとても今っぽいし痛快。
『推し、燃ゆ』
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宇佐見りん氏のベストセラー。朗読が玉城ティナさんで、低めなボイスが作品世界にぴったり。「人生の全てを注いできた"推し"がファンを殴って大炎上してしまい…」という話。甘くない現実を淡々と綴るのだが、ジャニーズ問題その他諸々、筆頭に芸能界まわりで色々ありすぎた後、今こそ多くの人の心に染みわたるかも。「推し」という言葉が流行りすぎて若干どないやねんという文脈で使われ始めた昨今に刺さる作品でもあり、着眼点の切れ味を感じる。(書いた時、若干21歳とはスゴイね)
生き辛い人生にただひとつ輝く「推し」への情熱と愛に根本的な危機が訪れた時の、人の心の動きを丁寧に執拗に追いかける小説で、何か問題が解決したりも全くしないが、だからこそ、ショッキングな事件があったりした時、長年の愛や情熱をもつからこそ途方にくれている人にも届く力があると思う。
『ナチュラルボーンチキン』
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金原ひとみ氏の小説なのだが、ちょっと珍しいのは、audibleが初出という点。「オーディオファースト作品」という企画らしく、オーディオ本→書籍の順番で出る。最初から「聴く本」を前提として書かれただけあって、一般的な小説よりも「聴きやすい」形で工夫して書いたりしているのかもしれない(実際かなり聴きやすい)。今後もしこの形式が普及していくと、また小説の文体に地殻変動が起きたりするのだろうか。
内容も面白いのだが、なんといっても朗読が敬愛する日笠陽子さんである(やっぱ当て書きなのだろうか…)。テンションが著しく低い45歳独身の女性が主人公なので、個人的に一番好きなタイプの低めな日笠ボイスが7時間も収録されていて、甲斐田版『ババヤガの夜』にも匹敵する私得作品であった。
朗読なので、もう一人の主役ともいえる破天荒な出社拒否ギャルもむろんCV日笠陽子である。正反対の2人(CV日笠陽子)が築く不思議な友情と関係性が本作最大の見所だ。
新作『YABUNONAKAーヤブノナカー』も未読だが気になってる。聴かねばな
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『テスカトリポカ』
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メキシコ麻薬カルテルの支配者が、逃亡先のジャカルタで日本人の元医師と出会って"斬新な"臓器ビジネスを企てる中、川崎で育った巨大で強靭な少年が血塗られた運命に巻きこまれていく。アステカ王国の伝説や神話を織り込んで綴る血と暴力の犯罪小説。
日本発の国際クライム・サスペンスとして面白いし、上野の「古代メキシコ展」行っといてよかったな!と思える小説だった。アステカ神話ガチ勢のヤバい麻薬王の言ってることにも「あっメキシコ展で見た!」と思えたので、博物館学習は大事である。
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『国宝』
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まだ読み(聴き)終えてない本をここでオススメするのも恐縮だが、映画『国宝』をすでに観た(そして映画自体にはけっこう言いたいことも多かった)勢としても、この原作はかなり楽しめているので載せておく。長い(上巻だけでも21時間!)ので読み終えるのはだいぶ先になりそうだが…
特筆すべきは尾上菊之助の朗読で、原作小説の講談みたいな語り口がまさにベストマッチで、すでに映画で大筋は知っているのに、聞いてるだけでもワクワクさせられる。
映画もびっくりするほど大ヒットしたし、今後しばらくaudible日本版のキラーコンテンツになるかも、というポテンシャルを感じたので、映画ファンもぜひ。
『成瀬は天下を取りにいく』
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「聴いてみたらけっこう面白かったベストセラー」枠の代表選手として本作を。タイトルよく見かけるけど、買うほどではないかな?くらいの興味感だったが、audibleに入ってるので気軽に聴いてみたら、気持ちの良い面白さでヒットするのもわかるなと(なお野球の話ではない)。聴き放題サービスの気楽さのメリットを享受できた読書体験となった。
他にも『同志少女よ、敵を撃て』の著者の『歌われなかった海賊へ』もそんなノリで聴いたけど面白かった。ナチ体制のドイツで、若者たちは悪行に立ち向かえるのか…というスリリングかつ真摯な物語で、前作より好きかも。
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大ベストセラーといえば『窓ぎわのトットちゃん』もaudible版があるのだが、なんと…っていうか、普通に朗読担当が黒柳徹子その人である。逆に他の誰がやるんだよという感じでもあるが…。
マジで傑作であるアニメ映画とあわせて聴くのもオススメ。(レビューも書いた↓)
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ノンフィクション(いきもの系/サイエンス)
『僕には鳥の言葉がわかる』
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シジュウカラ専門家・鈴木俊貴先生の昨年のベストセラー『僕には鳥の言葉がわかる』もさっそくaudibleに入っている。
「シジュウカラが20以上の単語を組み合わせて文を作っている」という研究で、鳥類の音声コミュニケーションへの理解に新たな光を投げかけた著者さんの本。注目すべきは、audible版ではシジュウカラ本人(?)が声を担当していること、つまりシジュウカラの鳴き声のリアル音声が使われている。こういう工夫ができるのはオーディオブックの楽しいところ。
キャベツだけを食べて森で暮らした日々の話など、鳥にそれほど関係ない部分も読み応えがある(キャベツだけを食べて暮らさない方が望ましいとはいえ…)。動物学者の人は動物のフィールドに分け入る暮らしをしてるだけあって、なかなかシビアな暮らしをしがち。『バッタを倒しにアフリカへ』もだが…(これもaudibleにある↓)
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『動物たちは何をしゃべっているのか?』
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類書の新刊で、こちらもオススメ。シジュウカラの「言葉」の秘密に迫る鈴木俊貴先生と、ゴリラ研究の第一人者の山極寿一先生が、動物のコミュニケーションについて懇談。自然の中に分け入り、動物といっしょに長い時間を過ごした二人ならではの洞察に満ちている。対談形式はそもそも喋り言葉だからオーディオブックと相性良いんだよね。
(ルー大柴がヒントになったという)シジュウカラの「文法」の謎から、森でばったりゴリラと会った時のためのゴリラ語入門など、タメになる内容も多い。専門家にも軽んじられがちだった動物の「言葉」の謎に迫る中で、ひるがえって人間のコミュニケーションのあり方についても考えていく。
哺乳類と鳥類の専門家の異種対談(いやどっちも人間だけど)である点も見どころ。どっちも音声コミュニケーション(≒しゃべり)への依存度が大きいのは見落とされがちな共通点である。
『はじめての動物倫理学』
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audible、本書がラインナップにあるのは動物好きとしても「おっ」となる。よく一読をオススメしてる新書で、タイトル通り動物倫理学の入門書となっている。動物と人間の倫理的な関係を巡って考えるべきテーマは、動物園やペットや競馬など色々あるのだが、現代における最大の焦点となるのがビーガニズムである。しかしビーガンといえばSNSで無条件でバカにしていい存在みたいな扱いになっていて、ネットだけ見てても(自分では中立なつもりでも)どんどん偏っていくだけであり、こういうちゃんとした本をメジャーな出版社が出すのは大事だと思う。
帯にあるように「肉を食べない」を個人がどれくらい実践できるかはともかく、食肉という身近な営みが(ささいなことでは全くなく)動物倫理や搾取、環境問題、そして気候変動のような複数の重要な問題が交錯する、現代社会のド真ん中といっていい「格」をもつ問題であることは、間違いなく認識しておいたほうがいいだろう。
『ダーウィンの呪い』
www.audible.co.jp
もう一冊、よくオススメするシリアスめなテーマの生物学関連のaudible本を紹介。
生物学の歴史上最大の「やっちまった」案件のひとつである優生思想に、ダーウィンの進化論が「呪い」のごとく関わってくる(てかズバリ「社会ダーウィニズム」って用語あるけど)…というしんどいテーマの本なんだが、特に生物学に少しでも関わる人はみんなこの歴史や経緯を頭に叩き込んでおくべきだし、どうして生き物好きは全員ひとり残らず差別に反対すべきなのか、ということを学ぶための大事な一冊でもある。もちろん別に生き物興味ない人も一般常識として知っておいてほしい。
中盤以降のダーウィン進化論を巡る詳しい歴史のくだりは、耳で聴くだけだとちょっと理解と記憶が追いつかない可能性もあるが、先述したようにオーディオブックとはそういうものなので(私も文字の本と併用してる)あまり気にせず、最後の数章だけでも聴いてくれれば幸いだ(時間あれば改めて詳しいブログ記事でも書こうかなと思ってる)。
『運動の神話』
www.audible.co.jp
面白いサイエンス系ノンフィクションとして文句なしにオススメできる本。たしか数年前のベスト本に選んだが、せっかくaudibleに来たので聴き直そうかなと思っている。ユーモラスな筆致なので気軽に聴くのも楽しいと思う。
「健康のために運動する」という現代人の状況がそもそも人類史上でも珍しい、という事実から始めて、スポーツ・走る・座る・眠る・闘うといった人間の運動全般にまつわる「神話」(思い込みや嘘や偏見)を片っ端から解体していくという内容。
たとえば「現代人は原始的な人類に比べて座る時間が長すぎる、したがって不健康である」という俗説が一種の神話だと喝破するくだりも面白い。筆者がアフリカで実地調査した結果、「いわゆる文明的ではない暮らしを送る健康な人々の集団も一日の大部分はめちゃめちゃ座ってる」ということがわかった。(ただし細かく体を動かしたりはしている)。こういう思い込みを覆されるのは読書の醍醐味。神話を解体し、すこやかに生きよう。
それこそ散歩中に聴くのにぴったりな本かもね。
『科博と科学──地球の宝を守る』
www.audible.co.jp
そもそも科博ってどんな施設なの?と館長が語る貴重な一冊。リピーターズパスも毎年買ってて科博しょっちゅう行ってるのに(&コラボ展もさせてもらって!)なんだが、意外と知らなかった事実も沢山ある。科学を重んじる社会にするための起点!のはずなんだけどな〜…というビターな話もあるぞ…。
ちなみに朗読してくれるのはもちろん館長その人!…と言いたいところだが(さすがにそんなケースは稀有だろ)、本書の朗読は電子的に作られたデジタルボイスである。なんだ機械音声か〜と味気なく感じる人もいるかもだが、技術の進歩というべきか、ほとんど全く違和感がない。イントネーションの間違いとかもめったにないので、デジタルとはいえ(AI生成とかではなく)人がちゃんと調整しているんだと思う。なんなら人間の朗読よりクセがなくて聴きやすい、という人もいるかも。
まぁできれば全ての本を人間に朗読してもらえたらベストなのは間違いないが、コストを考えれば(特にこういうちょっと渋めなテーマの本になると)なかなか難しいと思うので、いったんデジタルボイスでもいいからとにかくラインナップを増やしていってほしいなとも思う。
ノンフィクション(人文/実用)
『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む』
www.audible.co.jp
読書習慣が全然なかった30代のライターがいきいきと読書する、オモコロの人気コーナーが書籍化、したものがさらにオーディオブック化。読書チャレンジャーみくのしん氏と優しいかまど氏のやりとりに癒やされる。ある意味、ゲーム実況みたいなノリで本を紹介するという取り組みと考えると新しい。
この企画がaudible向きだよなと思うのは、たぶんオーディオブックの朗読で聴く速度感が、本書でみくのしん氏が色々な本を熟読する速度とけっこう近いんじゃないかな、と思うから。
というのも(私含む)読書慣れ勢って早食べみたいな勢いで文を読むスピードが早すぎることが多くて、それはゆっくり読んでるとまどろっこしくなってくるからだけど、そういう読書玄人の雑な読み方で見落とすものも多いんじゃないかっていう(たぶん本人は意図せずの)問題提起として読めなくもない本でもあるんだよね。
オーディオ本の「読書」としての良いところは基本のスピードが熟読なことかもしれない。せっかちな人ほど「耳で聴く」べきかもね…
『なぜ社会は変わるのか はじめての社会運動論』
www.audible.co.jp
おなじみの新書レーベル・講談社現代新書もけっこうaudibleに入ってて、ちゃんとした人が書いてる文系ノンフィクションやエッセイ、かつ読みやすい(聴きやすい)本を探している人にとっては狙い目だと思う。つい最近audibleで聞いて面白かったのが本書。
社会は社会運動であふれている、なのにナメられがち。
冷笑や蔑視に晒されやすく、無意味と安易に断じられがちな「社会運動」だが、実際には身近な対象から遠大な問題まで、幅広く多様な社会運動が世の中を変えてきた。その歴史と方法論を噛み砕き、とかく高くなりがちなハードルを下げつつ、社会運動の可能性を知ろう、という希望ある一冊。
ちなみに著者の富永京子さんは『「ビックリハウス」と政治関心の戦後史――サブカルチャー雑誌がつくった若者共同体』の方ですね。こっちも鋭い良書なのでぜひ
『働くということ 「能力主義」を超えて』
www.audible.co.jp
audible、ビジネス系のテーマの本でもよく探すと(いわゆる"ビジネス書"然とした新自由主義バンザイな感じではなく)興味深い本もあったりする。本書は、企業コンサルタントとしてのキャリアをもちながら、日本の労働社会にはびこる能力主義と選抜を批判するという、ユニークな立場の著者が書いた本。
能力の高い・低いを基準にして人を「選び」「選ばれる」という、私たち自身もけっこう当然のように思っているシステムも、改めて問い直してみることで、この社会での生きづらさを解体することにつながる。
『シナリオ・センター式 物語のつくり方』
www.audible.co.jp
「創作入門」っぽいテーマの本も多いaudible。すぐ参考になるかはともかく、創作に関わる人はためしに読んでみてもいいかと。
本書『シナリオ・センター式 物語のつくり方』は作家をたくさん輩出してる有名なシナリオセンター(連ドラ脚本家の70%以上、コンクール受賞者の90%以上らしい)の創作術を気前よく教える。物語を作ってみたいがまず何をどうしたらいいかわからん人はこういう基本から入るのが結局近道なのかもしれない。才能は誰にでもあり、違うのは"技術"だけ…というメッセージは、才能を言い訳にしがちなアマチュアもプロ(まぁ私もだが)もよく覚えておくべきだろう。
『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』
www.audible.co.jp
「成熟」のロールモデルが見えにくくなってきた今、いつまでも「若者」の立場に固執してないで気持ちよく卒業し、「大人」を実践するとはどういうことか?…という、いま日本社会でけっこうクリティカルかつ重要かもなぁ…と思える一冊。内容はまぁまぁ辛辣なのだが、語りかけるような優しさがピリ辛具合を中和してる本でもあるので、audible向きでもあると思う。個人的にもなかなか身につまされる&心に染みる内容でした。読書感想文はこちらに書いたので興味あれば↓
numagasablog.com
『日本型組織のドミノ崩壊はなぜ始まったか』
www.audible.co.jp
最近読んで面白かった、日本に警鐘鳴らす系(?)ノンフィクション新書。
旧ジャニーズ、ダイハツ、ビッグモーター、自民党の裏金問題、宝塚、大相撲のパワハラ、日大アメフト部、フジテレビなど、有名な組織がなんで近年こうもバラッバラのグラッグラになっているのかという深刻な問題を、「時代の変化」みたいな便利な言葉だけでは片付けず、組織論の専門家が考える。
必ずしも大型組織に限らず、たとえばPTAや町内会みたいな一般市民の自治組織も崩壊や衰退の憂き目にあっているのだが、大小問わずバラバラになっていく組織には共通点がある、というのが本書のテーマ。新時代の組織はどうあるべきか、という前向きな問題提起もあるのでご一読を。
『ドリーム・ハラスメント 「夢」で若者を追い詰める大人たち』
www.audible.co.jp
これも最近読んだノンフィクション系の新書。ワンピースじゃねえんだぞというレベルで大人が「夢を持て!」ばっかり若者に言い過ぎな社会構造を鋭く批判していく。「夢」という圧倒的な綺麗事(ポップミュージックにも音楽の教科書にもものすごい頻度で登場する「夢」というワード)の影で見えづらくなっている、現実との残酷なギャップに追い詰められている若者は想像以上に多いようだ。「夢」が理不尽に若い世代に押し付けられがちな構造が、学校の教育システムと教師の就職過程にかなり支えられている、という指摘など、けっこう考えさせられた。
ノンフィクション(歴史/社会/政治/文化/経済など)
やや内容が学問的だったり話題が専門的だったり、audibleで読むにはちょい固めかな?と思うラインだけど、でも面白いノンフィクション系の良書を別個にまとめておく。内容が専門的になるほど、さすがに耳だけで情報を処理するには限度があるが、audibleと書籍版をいい感じに組み合わせて読むのがベストかなと思う。(文字で読みながら同時にaudibleで聴く、という読書法もアリ)
『国家はなぜ衰退するのか』
www.audible.co.jp
ノーベル経済学賞の受賞も記憶に新しいダロン・アセモグルらの本。「民主主義を守って独裁を防いで搾取や差別をなくさないと経済が死んで国が滅びるんでヨロシクな」というメッセージを、凄い論理的に伝えながら世界に「衰退」を警告するコワい本だが、地球のあちこちでアンチ民主主義者が大暴れしている今、全員読んだほうがいいと思う。特に選挙前の日本人は必読だ…。
経済的に豊かな国(日本含む)に警鐘を鳴らす本であると同時に、いま「貧しい」国が貧しい理由が、地理や文化や気候(やもちろん人種)といった"本質的"な条件ではなく、あくまで「政治体制」という可変的なシステムにあるのだ、と示す点も重要。読むとやる気が湧いてくる「コワイ本」でもある。
同著者陣の『自由の命運』もぜひ。
www.audible.co.jp
『地中海世界の歴史1 神々のささやく世界 オリエントの文明』
www.audible.co.jp
意外と知られてない気もするが、講談社選書メチエの壮大な歴史シリーズとかもaudibleにあるのだった。とりあえずオリエント古代史を語る1巻だけ読んだ(聴いた)けどなかなか引き込まれた。こういう歴史系も耳だけで把握したり記憶しようと思うとかなり厳しいが、若干ロマンチストでたまに遠い目をして「神々のささやきが…」とか呟く博学な教授の講義をのんびり聴く、みたいなスタンスで臨むのがオススメ。
『カラー版 名画を見る眼Ⅰ――油彩画誕生からマネまで』
www.audible.co.jp
美術ジャンルからも一冊。一昨年に亡くなった美術史家・高階秀爾氏の名著。ファン・アイク「アルノルフィニ夫妻の肖像」から歩みを始め、ボッティチェルリをはじめイタリア・ルネサンスの巨匠の名画をおさえ、ヨーロッパの美術史に変革をもたらした絵画をたどり、近代絵画の祖であるマネ「オランピア」にたどりつく。
audibleなので、ネットでも図録でも(もちろん本物でも良いけど!)絵画を「見ながら聴く」のにぴったりだと思う。一種の音声ガイドとして本を使えるというわけ。再生時間5時間の音声ガイドと考えるととても贅沢である。
この本をはじめ、岩波新書はけっこうaudibleに来てるので、語り口こそ少し硬いけど、間違いない内容で短めの本を読みたいという人にはベストなレーベルだと思う。
『ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン』
www.audible.co.jp
ビジネス書ライクな書名だが、オススメの映画本。チャップリンが役者・創作者・経営者として「何がどうスゴイのか」を専門家がわかりやすく語る本で、名作映画の副読本にも最適だと思う。
大野先生の本は『チャップリンとヒトラー』が特に面白くて、数年前のベスト本に選んだりした。『教養としての〜』にもあったが、ヒトラーが人類史上初めて実行したといえる強力なメディア戦略を、全力でハックしたのがチャップリンであり、その結晶が『独裁者』と考えるとアツイのよね。ニセヒトラーみたいなのが世界各地で暴れてる今日このごろだし、文化や笑いを愛する人がチャップリンから学ぶことは多いと思う。
『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』
www.audible.co.jp
日頃ナチスが話題になるとよくオススメする本(あまり日頃ナチスが話題になってほしくないものだが…)。
最近もこちらの読書感想記事で言及しましたね↓ 悪人、PRだけはうますぎ問題
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ざっくりいえばナチスは(大量虐殺なんかするだけあって)言うまでもなく徹頭徹尾ロクでもなく、良いことも何もしていないし、一見した「良いこと」も単に先人の功績をかすめとっただけなのだが、ネットでもどこでもいまだに「ナチスは良いこともした」という人が絶えず、それはなぜなのか、という問題を実証的に探っていく。短くて読みやすく、audible版も5時間程度なのでぜひ。(私の記憶が正しければたしか戦争中はナチス側だった)日本でこそ特に読まれるべき一冊といえよう。
『キャンセルカルチャー』
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「すぐキャンセルされる社会、息苦しいよね」みたいな(日本でもありがちな)単純すぎる切り口の本ではなく、アメリカ社会でそもそも「キャンセルカルチャー」という言葉や概念がどんな感じに根付いてきたのか、そして(主に右派によって)どのように"活用"されてきたのか、という経緯を現地に詳しい人が批評的に論じる興味深い内容。
(audible版では省略されてるみたいだが、「アメリカ、貶めあう社会」という副題で、内容的にこの「どっちもどっち」っぽいタイトルは適切なのか…?とは正直思うが、まぁセールス的な事情もあるんでしょうね)
正直、「キャンセルカルチャー」も普及の経緯を省みればもうそんなに気軽に使わないほうが良い言葉だと思うのだが(その意味では「ポリコレ」や「woke」と同じ枠に入った感)、まぁ左右問わずだいぶ人口に膾炙してしまったようなので、改めて言葉が生まれた過程を知っておくのが良いと思う。
『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か? ; これからの経済と女性の話』
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audible、これ入ってるのエライねと思える枠。スウェーデン発のフェミニズム的視点のある経済本。
アダム・スミスの神格化はけっこうなことだが、やつが研究してる間、身の回りのケアしてたのは誰やねん!?(答え→女性やで)という視点で経済学に切り込んでいく。始まりからして女性不在で、無償の"ケア"を無視してきた経済学の、歪んだ神話やイデオロギーを切り崩す知的興奮は読書の醍醐味。ユーモアを織り交ぜて社会の空隙を突く、パンチの効いた面白い本なので、音声で聴いても楽しめると思う。
番外:ポッドキャスト
『アトロク・ブック・クラブ』~アフター6ジャンクション presents
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audible、オリジナルのポッドキャストもけっこうあって、アトロクのスピンオフ企画である「宇多丸分室」はよく聴く。最近読んだ本とか、それこそaudibleのオススメ本の話題も多いので参考にしてる。「13人しか聴いてない」が決め台詞なのだが(さすがにもっと多いだろ…笑)、みんなもっと聞いてほしいな、と「13人」のうち1人としてお願いしておく。
内容もTBSラジオのアトロク本放送より色々と率直で面白いし、個人的には最近こっちのほうをむしろ頻繁に聴いてるかも。ちなみに探したら私が出た回もあるよ、べつに聞かなくていいけど…笑
もう1万5千字!そろそろ終わろう。1万字オーバーの記事はさすがに避けよう、と新年に掲げたが早くもこの体たらく。今後もaudibleの活用は個人的にも進める&勧めるつもりなので気が向いたらチェックしてほしい。音でも紙でも電子でも、いかなる形であっても本と読書を存続させ、文明を崩壊から救いましょう(決め台詞)
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