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水曜日の映画館

週の真ん中にほどよく心地よい映画を届ける連載企画、第4回「舟を編む」。

今週も水曜日がやってきました。水曜日の夜は静かに過ごしたい。誰かと会うよりも今日はのんびり家で過ごそうか、という気分の時におすすめの映画を、今月も紹介します。

この「水曜日の映画館」では、特に最新のものや流行りのものに限らず、App Storeのエディターが“水曜日の夜に合いそうな気がする”と思う映画を独断と偏見で選んでいます。もしも映画が気になる内容だったら、チケットを買う代わりにアプリの中で、どこでもあなたのリラックスできる場所で映画鑑賞を楽しんでください。

毎月1回、新しいラインナップに切り替えながら、その映画にまつわることを、そこはかとなく書きつづっていきます。

辞書や辞典の編纂(へんさん)という仕事に、幼い頃から憧れを抱いていました。人類の英知を集めて、読む人に届きやすいように紙面に情報を編んでいく。そこに記された知識を、いつ、誰が読むのか、どう役に立つのかはわからないけれど、未来の誰かのために、可能な限り正確を極め、そのために表現に悩み、言葉にしていく。編集という仕事は、責任と喜び、そして何より創造のロマンに満ちている、と感じていました。

「舟を編む」という映画は、まさに辞典の編集者の生涯を追った、静かで人と知への愛に満ちた物語です。

大学院で言語学を専攻していた馬締 光也(まじめ みつや)は、玄武書房の営業部に配属されるも、社交辞令が通じず、人の言葉をそのまま真に受けてしまう性格から、対人コミュニケーション能力の低い、仕事のできない人間だと周囲に見られていました。ある日、入社以来38年、辞典編集一筋で定年を迎えようとしている荒木 公平(あらき こうへい)に、言葉と向き合う才能を見いだされ、新しい中型辞典「大渡海(だいとかい)」の編集部員の一人となります。

かつて自分もまだ若手編集者だった頃に、とある出版社の大型辞典の編集者で、あ行の編集中に入社して、か行の途中で定年退職した人がいた、という話を聞いたことがあります。言葉は生き物なので、概念を定義しようと書き出し、悩み、ようやく書きあげたそばから、もうその言葉を人々が新しい意味で使いはじめていたり、誤用が定着していったりと、変化してしまうことも多々あります。辞典の編集には終わりがなく、大型の辞典になれば、その一部に携わる間に、人の一生の就労時間など使い終わってしまう。「舟を編む」の映画でも、「大渡海(だいとかい)」の刊行企画が通った1995年から、12年に渡る編集の日々が描かれています。

馬締は、心を動かされた仕事に日々、誠実に向き合います。デジタル化が着々と進行していく平成の世の中で、紙の中型辞典の刊行を目標に、目の前の業務を丁寧にこなしていきます。そして、辞典に携わる人々の思いを静かな情熱で受け止めながら、不器用なりに守るべきもののために、少しずつ成長をしていきます。

映画の中で印象的なものの一つが、馬締が仮住まいしている古い日本家屋です。木造の家の中には、本棚が並び、そこに古い文庫本が膨大に収められています。それらの本を自由に読んでいい、というのが馬締がその家に住もうと決めた理由でした。家というよりは、小さな図書室の中に住み込んでいるような建物の中は静かです。変化を続ける東京の街中に静かに佇むその建物は、時代の変化に急きたてられがちな人の心を、穏やかな日常という普遍的な安らぎにつなぎ留めてくれるようです。