1.はじめに470. 前回は、マルセル・モースの人格パーソン論文*の前半部を紹介しました。氏族クラン社会の仮面劇における役柄人物ペルソナージュから、ラテン人の先祖の仮面ペルソナを媒介にして、ローマ法の下での法的人格としてのペルソナまでを辿ったわけです。 注*: マルセル・モース「人間精神の一カテゴリー ――人格パーソンの概念および自我の概念」、マイクル・カリザス他編『人というカテゴリー』厚東洋輔、中島道男、中村牧子訳、紀伊國屋書店、1995年所収。 471. 今回は、同論文の後半部、ストア派の哲学と初期のキリスト教を経て、近代の心理学的な人格パーソン概念に到達する過程を検討します。ただし、その前に、ひとつ気づいたことがあるので、その点を確認しておきます。 2.近代文明の〝逆説〟について472. 前回、「私が私であることは社会的役割の遂行である」ということは「一個の逆説にほかならない」
