5,500万DLの巨大アプリを「データ」で動かす。LINEマンガで、事業のド真ん中に“食い込む”データサイエンティストの醍醐味
オリジナル作品を多数配信し、国内累計5,500万ダウンロードを超える電子コミックサービス「LINEマンガ」。LINE Digital Frontier株式会社が運営する国内最大規模のこのサービスの裏側には、エンタメ特有の“感情に近いデータ”を扱い、ビジネスサイドと極めて近い距離で分析を意思決定につなげ、プロダクト改善を自ら動かすデータサイエンティストたちがいる。 今回は、LM Data Scienceチームの中心で活躍する菅野友貴(かんの・ゆうき)氏に、日々の業務や事業へのかかわり方、LINEマンガで働く醍醐味など、データで事業を動かす仕事のリアルを聞いた。オリジナル作品を多数配信し、国内累計5,500万ダウンロードを超える電子コミックサービス「LINEマンガ」。LINE Digital Frontier株式会社が運営する国内最大規模のこのサービスの裏側には、エンタメ特有の“感情に近いデータ”を扱い、ビジネスサイドと極めて近い距離で分析を意思決定につなげ、プロダクト改善を自ら動かすデータサイエンティストたちがいる。
今回は、LM Data Scienceチームの中心で活躍する菅野友貴(かんの・ゆうき)氏に、日々の業務や事業へのかかわり方、LINEマンガで働く醍醐味など、データで事業を動かす仕事のリアルを聞いた。

LINEマンガは「圧倒的」ナンバーワンを目指すフェーズへ
——はじめに、LINEマンガの事業について、現在どのようなフェーズにあるかお聞かせください。
菅野:LINEマンガは2013年にサービスを開始し、今では国内累計ダウンロード数が約5,500万件、オリジナル作品を多数配信しています。電子コミックサービスとしては国内最大級の規模になりました。そうした背景があるなか、現在事業として目指しているのは、電子コミックサービスとして圧倒的ナンバーワンのポジションを確立することです。
これまでにない施策やプロダクト改善を強化していくフェーズにあって、私たちデータサイエンティストが果たす役割は大きく3つあります。1つ目は、事業における意思決定の精度を向上させるための分析をすること。2つ目は、ランキングやレコメンドロジックといったプロダクトにかかわる改善。3つ目は、それらを支えるデータ基盤の構築です。
データサイエンティストはどれか1つの役割に固定されるのではなく、強みに応じて複数の領域を横断します。たとえば私は事業における意思決定の精度向上と、データを使ったランキング、レコメンドロジックの開発に深くかかわっています。
データサイエンティストとして事業に「食い込める」環境がある
——菅野さんのこれまでの経歴をお聞かせください。
菅野:私は2013年に「ZOZOTOWN」を運営する株式会社スタートトゥデイ(現 株式会社ZOZO)に入社し、ECサイトの分析業務に携わっていました。当時、「ZOZOTOWN」は注目を集めており、とりわけデータ分析をするポジションは花形のような印象を持たれていました。
ただ、当時の私は意思決定者との距離が遠く、自分の分析がどう事業に活かされているかが見えづらかった。もっと事業に近い場所で、自分の分析が施策や事業につながる環境で働きたいと思うようになりました。
その後、2社目となる広告代理店で分析ツールの提案やデータ分析を経て、2021年からLINE Digital Frontier(以下、LDF)に入社したという経緯です。
LINEマンガは入社前から利用していたので、ユーザー目線での気づきを分析に活かせそうだと感じたことと、今後間違いなく伸びていく業界に身を置くことで、自分の市場価値を高められるのではないかと思ったことがLDF入社の決め手になりました。

——事業の意思決定に近い場所で働きたいという想いは実現できていますか?
菅野:はい。正直、ここまで事業に食い込めると思っていませんでした。分析結果がそのまま施策に採用され、サービスが改善される事例を目の当たりにしています。データサイエンティストからの提案を歓迎してくれる風土があるので、やりがいがあります。
「感情に近いデータと向き合う」エンタメ分析の難しさとおもしろさ
——データサイエンティストの皆さんが日々扱うデータにはどのようなものがあるのでしょうか?
菅野:ユーザーの閲覧ログや作品情報、作品に対する「いいね」などのリアクションやコメントといった反応まで、幅広く扱います。
特におもしろいと感じるのは、オリジナル作品にどうユーザーが定着していくかをデータから読み取れる点です。それぞれの作品が毎週どれくらい読まれているか、課金のタイミングはどこなのか、どの話で盛り上がっているのか。そうしたユーザーの感情の動きを可視化できるのは、エンタメならではのおもしろさですね。
一方で、感情を定量化する難しさもあります。分析結果を作品作りやアプリの体験改善にどう活かすかは、チャレンジの余地がある部分だと考えています。
——分析に取り組むテーマはどのように決まるのでしょうか。
菅野:ビジネスサイドから依頼されることもあれば、データサイエンティスト側から「こう改善できそうだ」と提案することもあります。最近は、キャンペーン効率化やパーソナライズの強化が大きなテーマですね。キャンペーンの最適化、ユーザーごとのレコメンド精度向上など、分析が成果に直結しやすい領域が増えています。
——LINEマンガならではの分析のおもしろさをどういったところに感じますか?
菅野:ユーザーがどのような作品に惹かれるか、その感性をデータから読み取りビジネスに活かすという部分ですね。
一例を挙げると、作品のサムネイルを最適化する取り組みがありました。たとえば、アクション作品であれば、アクション性の強いシーンをサムネイルにすればいいと思いますよね。ただ、作品のなかにはアクションだけでなく、恋愛やヒューマンドラマの要素もあります。作品が持つ複数の魅力で、どの切り口がユーザーに刺さるのかの分析に取り組んだときには、データとクリエイティブが交差する「LINEマンガらしい」おもしろさを感じました。

「キャンペーンコストの最適化」データで事業を動かす取り組み
——これまで最も事業インパクトにつながったと実感できたプロジェクトは何でしょう?
菅野:マンガコイン還元キャンペーンの最適化です。これまでは売上を上げることがキャンペーンのメインの目的でしたが、現在はいかに売上を維持しつつコストを抑えるかというフェーズに変わってきています。
マンガコイン還元キャンペーンは、ユーザーが作品を購入するときに利用したマンガコインが後日還元されるという仕組みです。ただし、すべてのユーザーが対象になるわけではなく、還元の対象となる作品であること、一定額以上マンガコインを利用することを条件として、上限金額までのマンガコインを還元します。
プロジェクトでは、キャンペーンを構成している要素のどこを調整すれば、ビジネス上の課題となっているコスト面の最適化を図れるのか、という変数の整理から始まりました。どの変数をどういじれば事業インパクトが出せるか、企画担当者と話しながら分析を進めていきます。
このとき、企画担当者はいろいろなパターンを試したがるのですが、テストの検証期間内ですべてのパターンを試すことは不可能です。そのため、どの変数を触るか優先順位をつけてテストをしていきました。
過去のキャンペーンの結果をもとに事前シミュレーションを立てて、それをもとに特定のターゲットに対してキャンペーンを実施してテストをしていく。コスト面で効果的でありつつも、サービスとして訴求力が高いものかどうかを何回も検証していきました。
その結果、ターゲットを決めずすべてのユーザーにキャンペーンを打っていたときと比べて3割ほどの効率化が実現できました。
——まさにデータで事業を動かした瞬間ですね。
菅野:そうですね。事業の推進役としてのデータサイエンティストの役割を果たせたと思っています。ほかにも、ユーザー数を増やすために「どんな作品をリリースすればよいか」という議論が出た際に、作品ごとの定着率を分析し、定着率の高い順にレコメンドをするロジックを開発して、ユーザー数を増やすことができました。
——事業インパクトとひと口に言っても、さまざまな切り口があるのですね。あらためて、菅野さんが考えるデータサイエンティストとしての事業貢献とは何でしょうか。
菅野:事業フェーズを正しく理解して、何を分析し、どの指標を設計し、どうアクションに落とし込むか。それを言語化することがデータサイエンティストの本質的な価値だと思っています。
データ分析は、分析結果をもとに行動変容を起こしてこそ価値が出ます。行動を変えてもらうために何が重要かというと、分析結果からわかること・わからないことを伝えて意思決定しやすい状況をつくること。そこを意識できるようになったことが私自身の成長だと思いますね。
意思決定や行動につながる分析でデータドリブンな経営に貢献
——プロジェクトを進めるうえで、他部門とどう連携をされましたか?
菅野:基本的に、プロジェクトごとに開発チーム、企画担当者、マーケティング、データサイエンティストなどが1つのチームを立ち上げます。ただ、課題を解決しても施策の改善は一度では終わりません。分析結果をもとにネクストアクションをすり合わせて、それを実行していくという、改善のサイクルがずっと回っていくイメージですね。
データの準備から最終的な報告、意思決定まで、データに関わる一切を請け負うのが我々データサイエンティストの業務上の特徴です。それに付随するコミュニケーションが至るところで必要となりますね。たとえば、施策の目的や効果が見込める理由については、企画担当者と同じくらいの解像度を持ったうえでコミュニケーションすることが求められます。

——他部門と連携するとき、何か意識していることはありますか?
菅野:相手に対して完ぺきを求めないことですね。依頼者自身が課題を整理できていないことが多いので、一緒に言語化し、目的や必要なデータを整理するところから伴走します。
そもそもLINEマンガには、データドリブンな文化が根づいている印象があります。それは先人たちがビジネスサイドからの信頼を積み上げてきた結果だと思っています。依頼者と同じ目線で施策を理解し、データをどういう形にすれば意思決定しやすいか、行動に移しやすいかを考え抜ける分析者が多かったこと、勉強会などを通じてリテラシーを高める取り組みをしてきたことが、その一因ではないでしょうか。
データ分析で未来のユーザー体験を作りたい
——あらためて、LINEマンガのデータサイエンティストとして働くおもしろさは、どこにあると思いますか?
菅野:業界内で圧倒的ナンバーワンになるために、今後はオリジナルマンガで有名作品を生み出したり、未来のユーザー体験をつくったりと、これまでにない取り組みをしていきます。今までにない価値をつくり上げる過程にデータサイエンティストとして携われるというのは、他のサービスでは経験できない魅力ではないでしょうか。
もう1つ、今後は最先端の技術を用いた取り組みも加速していくと思われます。LDFは、アメリカに拠点を置くWEBTOON Entertainment Incのグループ会社です。WEBTOON Entertainment Incグループは韓国で「NAVER WEBTOON」という電子コミックサービスを展開しており、ビジネス分野でのAIを利用した作品推薦などを実施しています。近い将来、より日本国内に閉じない、世界的な技術トレンドを追っていけるような環境になっていくでしょう。
——今後、データの力でLINEマンガをどのように成長させていきたいと思っていますか。
菅野:データを活用して、ユーザーに最適な作品やキャンペーンを届け、マンガが好きな人を一層増やしていくことで、LINEマンガを圧倒的ナンバーワンにしたいですね。私自身、事業の推進役となるデータサイエンティストを志していますし、会社からもそれが求められていると感じています。
また、Netflixが試みているように、データ分析の結果をマンガ制作に還元していくような取り組みにも関心を持っています。LINEマンガにはデータ分析で価値を出せる分野がまだまだ眠っているので、それらを掘り起こして事業を圧倒的に成長させたいと思います。同時に、私自身も成長していきたいですね。

取材・文=鹿野 恵子(プレーンテキスト)
撮影=刑部 友康
※所属組織および取材内容は2025年12月時点の情報です。








