(社説)DNA型鑑定 不正許さぬ態勢 徹底を

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 供述に頼った捜査が冤罪(えんざい)を生み、再審で無罪になる事例が相次ぐなか、客観的な証拠に基づく科学的捜査、とりわけDNA型鑑定の重要性は増している。鑑定への信頼を揺るがす不正やミスが生じていないか、全国の警察は確認を急がねばならない。

 佐賀県警本部の職員がDNA型鑑定で不正を重ねていたことがわかった。技術職員として2012年に採用され、計632件の鑑定を担当。このうち17年以降の130件で不適切な行為が判明した。

 依頼された鑑定をせず、行ったように見せかけた。上司の決裁を得やすい数値に入れ替えた。書類の日付や数値を改ざんした。鑑定資料のガーゼ片を紛失した――。

 不正は鑑定の過程全般にわたる。驚くべき事態だ。自分の仕事ぶりを良く見せたいとの思いなどから不正に及び、チェック体制の不備もあって発覚が遅れたという。

 県警は保管されている資料を再鑑定し、紛失した事案などでは電子データを調べた。その結果、不正は鑑定結果に影響を及ぼさない範囲に収まっており、検察や裁判所からも捜査や裁判に影響なしと認められたと説明する。

 福田英之・佐賀県警本部長は県議会で謝罪しつつ、有識者からなる県公安委員会が調査結果を確認したこともあげて「第三者委員会の設置は必要ない」と答弁した。しかし、信頼を回復するには調査自体を「外の目」で行うことが不可欠だ。判断を佐賀県警に任せるべきではない。

 DNA型鑑定が国内で実用化されたのは1989年。2000年代前半、現在につながる手法が導入されて精度が飛躍的に向上し、件数が急増するとともにデータベースの運用も始まった。過去10年では、全国で毎年25万~30万件の鑑定が実施されている。

 その歩みを振り返ると、究極の個人情報とされるDNA型の鑑定が「もろ刃の剣」であることが浮かび上がる。

 女児が殺害された1990年の足利事件では、精度が低かった当時の鑑定に基づき無実の男性を「自供」に追い込んだ。その足利事件や97年の東京電力社員殺害事件などで再審無罪への道を開いたのもDNA型鑑定だった。

 だからこそ、資料の収集・保管から鑑定作業、その後の保存と登録まで、適正な対応を徹底する必要がある。

 犯罪捜査でのDNA型の取り扱いに関しては国家公安委員会の規則があるが、抹消の基準など捜査当局の裁量に任された部分が少なくない。海外での先行例も参考に、法制化への議論を始める時だ。

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