核兵器禁止条約が発効して5年を迎えた。署名または批准した国・地域は99となり、国連加盟国の半数を超えた。ただ肝心な核兵器保有国は取り込めておらず、実効力の発揮となると、見通せない。

 この5年、核超大国ロシアによるウクライナ侵攻などを背景に、世界の核軍縮の機運はしぼんでいる。もう一つの核超大国米国は、力ずくで他国をねじ伏せようとする。ほかの保有国も「核の近代化」を進め、質的な軍拡競争は激しさを増している。禁止条約の前には、厳しい現実が立ちはだかっている。

 だが、立ち止まってはいられない。この節目に、条約が生まれた背景と意義を再確認し、核兵器廃絶への力にしなくてはならない。

 核と人類は共存できない―。禁止条約は、核兵器使用の結末を身をもって示してきた被爆者たちの訴えを原動力として生まれた。核兵器の保有、開発、製造、威嚇、使用の一切を禁じる画期的な条約である。「核兵器は違法」であると、明確に世界に突き付けた意義は大きい。

 核軍縮を巡っては、日本政府が重視する核拡散防止条約(NPT)の枠組みもある。NPTは米国、ロシア、中国、英国、フランスの5カ国のみに核保有を認める。不平等なのに国際社会が受け入れているのは、保有国に対して核軍縮に誠実に取り組むよう義務付けているからだ。しかし、過去2回の再検討会議は決裂し、その義務は果たされていない。危機感を募らせた非保有国が中心となって生まれたのが、禁止条約である。それを忘れてはならない。

 ことしは4月下旬からNPT再検討会議、11月末からは禁止条約の初めての再検討会議が開かれる。核軍縮から退行する世界の潮流を、押し戻せるかが問われていよう。

 禁止条約の再検討会議では核実験などのヒバクシャの援助と損なわれた環境を修復するための「国際信託基金」の運用が議論される予定だ。こうした議論は、核兵器は使用に至らずとも、人類の健康や地球環境に大きな被害をもたらし、開発・保有した国はその責任を負うのだと、示すことにつながるはずである。

 条約を真に実効性あるものに育てるのは容易でないが、核兵器をなくすため各国が集い、知恵を絞る貴重な枠組みだ。その声を、世界に発信していく努力も求められる。

 広島市長が会長、長崎市長が副会長を務める平和首長会議はおととい両市長の連名で共同アピールを発表した。条約を「現下の憂鬱(ゆううつ)な国際情勢の中の希望の光」とし、全ての国に署名・批准を要請した。国内の地方議会では、日本政府の核兵器禁止条約への参加を求める意見書採択も広がる。市民生活に近い自治体から声を上げ、各国政府を動かしていくボトムアップにも期待したい。

 「希望の光」は手放すまい。核兵器の脅威の中で生きるのか、核なき世界を目指すのか。私たち一人一人に、未来の世界への責任があることを、5年の節目に、しかと胸に刻む必要がある。