道なき道を拓き、未だ見ぬ新しい価値を世に送り出す人「起業家」。未来に向かって挑むその原動力は? 仕事における哲学は……? 時代をリードする起業家へのインタビュー『仕事論。』シリーズ。

今回は、「SaaS型 受付システム」を開発し、受付のあり方を変えた株式会社RECEPTIONIST(レセプショニスト)代表・橋本真里子さんが登場。10年余り企業の受付を務めた経験から生まれたサービスと、起業への思いを伺いました。

受付という「プロフェッショナルの仕事」との出会い

──まずは、起業までのキャリアについてお聞かせください。

私はちょうど就職氷河期世代で、就職活動は内定1社取るのも大変な時期でした。いつしか「就きたい仕事」よりも「入社できる会社」がゴール設定になってしまい、そのことに違和感を感じていたんです。

大学卒業後、1年間はアルバイトなどをして過ごしていたのですが、あるとき、企業の受付の仕事が目に留まり「大手企業でビジネスマナーを学べそう!」とチャレンジしたのが、この道に進んだきっかけです。

最初に入ったトランスコスモスでのお仕事は、「受付の仕事」のイメージをがらりと変える体験でした。お客様をお迎えし、担当者につなぐだけが受付の仕事ではない。会社全体の組織を理解していないと務まらないし、お客様が押し寄せる時間でも冷静に対応しなければなりません。

マニュアルをきっちり理解し、言葉遣いや所作はもちろん、各部署について把握し、名前や顔も覚える。

裏では体力勝負の仕事もあります。朝7時半に出社しなければならないときもあり、常に自己管理も問われます。これらの仕事をプロ意識高くこなしているのがトランスコスモスの先輩方で、その働き方は目からウロコでした。

そして、受付には企業のトップの方から就職活動中の学生まで、いろんな方がいらっしゃいます。いろんな価値観に触れることができる業務で、たくさんの刺激をもらいました。

──誰にも見えない 「裏側」の努力が、表の振る舞いを支えているわけですね。その後、いくつかの企業を経てGMOに転職されたことが起業のきっかけになったとお聞きしました。

23歳からはじめた受付の仕事も10年近くなり、そうすると30歳を超えます。当時はまだ、受付は「若い女性の職場」というのが一般的で、「受付に立つのはもうここが最後かな」と思っての転職でした。

GMOはITベンチャーで、提供するサービスはデジタルの最先端でしたが、受付はまだまだアナログだったんです。

たとえば、受付でお名前を紙に書いていただき、1カ月が終わるとその紙をまとめて総務に持って行くような。そこで「受付をITで変えられないか」と思ったのが、この事業の出発点でした

同時に、ありがたいことに正社員登用のお話をいただいたのですが、「私ではない人の方が向いているかもしれない。私は、私にしかできないことをやってみたい」そう思って、退社を決意しました。

今までのキャリアを振り返り「私がやらなければ誰もやらないことは何だろう?」と考えたんです。いくつかできそうなことはあったのですが、自分1人の労働集約型ビジネスは、関わることができる範囲が限られてしまいます

もっと多くの人の役に立ちたいと考えたときに、「自分の分身をつくればいいのでは?」とプロダクトをつくることを思いつきました。いろんな人に相談してみると賛同してくれる方が多かった。そんな方々に背中を押されて、初めて起業を考えました。

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受付で学んだ「経験不足でも起業できる理由」

──いきなり会社を経営することに対して、ハードルは感じなかったのでしょうか?

私が受付をしてきた会社がたまたまITベンチャーばかりだったということもあって、いろんなタイプの経営者の方に接する機会があり、自社やお客様の会社の成長も一緒に見ることができました。

そのなかで、経営者と言ってもいろんなタイプがいて、「こうでなければいけない」という型はない、と気づいたんです。そして、どんな人も社長1年生の時がある。今、日本を代表するトップ経営者の方々も、1年生のときがあったんです。

だから、「経験不足だから起業できない」とは思わなかったですね。

──女性に特に多いとされる、自分を過小評価してしまう「インポスター症候群」など、壁も多いイメージがありますが?

もちろん不安はあったし、自分を過大評価したわけでもありません。ただ起業家の先輩方が背中を押してくれたこと、人生1回きりだと思っていること、何より「自分にしかできないこと」に出会えたことが大きかったと思います。

「これをプロダクトにしなければ」という思いのほうが、不安より大きかったですね。

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デジタルだからこその「おもてなし」
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