法華狼の日記

他名義は“ほっけ”等。主な話題は、アニメやネットや歴史認識の感想。ときどき著名人は敬称略。

通販サイトの駿河屋が、いったん消したアダルト商品を購入できるよう復帰させている一方、ひっそり完全に消えた一般向け商品があることが気になっている

 事前のアナウンスがなく一律に全面的にアダルト商品ページが消えたため、注目されてWEBニュースにもなった。
大手通販ショップ「駿河屋」で一時成人向けPCゲーム/同人ページにアクセス不可に―相次ぐ規制の波が押し寄せたかと戦々恐々も「システムメンテナンス」【UPDATE】 | Game*Spark - 国内・海外ゲーム情報サイト
 公式の説明はサイトのシステムメンテナンスとされていた。
 メンテナンス中のまま復帰しない可能性も語られていたが、一般向けと決済方法を変えることでアダルト商品もふたたび購入できるようになった。
駿河屋、10日ぶりに一部商品の出品再開 成人向け商品のクレカ決済は一時停止 - ITmedia NEWS
 とりあえずは良かった、と考えていいだろうか。


 しかし今件と関係あるのかどうかわからないが、少し気になっていることがある。
 少し前……といっても数年前になるが、駿河屋の商品ページに自主規制や萎縮と感じさせる動きに気づいた。
 それは2017年に公開された、伊藤計劃の同名小説を原作とするアニメ映画『虐殺器官』だ。
『虐殺器官』 - 法華狼の日記
 原作はSF小説としては人気があるので、もちろん小説やコミカライズやなどの商品ページは存在する。
www.suruga-ya.jp
www.suruga-ya.jp
 アニメ映画の存在そのものが抹消されているわけでもなく、パンフレットや映像ソフトの特典BOXのページはある。
www.suruga-ya.jp
www.suruga-ya.jp
 しかし映像ソフトはセーフサーチをOFFにして品切れ商品をONにしても、サイト内検索では商品ページが引っかからない。
https://www.suruga-ya.jp/search?category=3&search_word=%E8%99%90%E6%AE%BA%E5%99%A8%E5%AE%98&searchbox=1&is_marketplace=0
 駿河屋は新品も販売しているが、基本は古本屋であるためか、いったん入荷してから商品ページが作られることもある。
 しかし大ヒットとはいかないまでも、アニメ映画としてそれなりに注目を集めた作品が現在まで入荷されないことは考えづらい。


 そもそも、一時期は駿河屋でも映像ソフトの商品ページは存在した。
 たとえばgoogleで「虐殺器官 DVD site:www.suruga-ya.jp」などの単語で検索すれば商品ページが検索で引っかかる。
 しかしリンク先に飛んで、そのページを実際に見ると、「The requested page could not be found.」と表記される。
https://www.suruga-ya.jp/product/detail/428056802
https://www.suruga-ya.jp/product/detail/128067741
 そうした商品ページが過去に存在した記憶も私にはある。なおかつ、タイトルの「虐殺」という表記が一部伏字になっていた。
 ただし「虐殺」と表記される映像ソフトを販売停止したわけでもないようで、それをタイトルにふくんだ他の商品ページは多数ある。
www.suruga-ya.jp
www.suruga-ya.jp


 ちなみに感想エントリでも書いたように、アニメ映画自体も制作途中で会社が倒産して公開がのびたりと、トラブルに見舞われた作品ではある。
制作会社マングローブ倒産の報 - 法華狼の日記
 しかしAmazonでは下記のように新品でも購入できる。出荷元も販売元もAmazon.co.jpなので販売に問題があるわけではなく、制作会社や版権のトラブルが響いたとは考えづらい。

 ただしAmazonでもプライムビデオでは視聴することができないようだ。伊藤計劃3作品をアニメ映画化する同じプロジェクトの別作品はどちらもページがあり、レンタルで視聴できるのに。

 もちろん、他の配信サイトでは広く視聴できる作品のページがプライムビデオで存在しないことは珍しくないし、先述した制作遅延のため公開時期も大きくずれた作品なので、こちらは不思議とまでは思わない。
 国内大手の配信サイトU-NEXTでは半年前という直近から見放題で配信しているので、やはり公式的なトラブルが関係しているとは思えない。
虐殺器官(アニメ / 2017) - 動画配信 | U-NEXT 31日間無料トライアル
 いずれにしても駿河屋から映像ソフトの存在が消されている理由はわからないままだ。

『キミとアイドルプリキュア♪』第17話 プリルンの決意!キラキランドへレッツゴー!

 無力さを痛感したプリルンはキラキランドにもどり、メロロンもついてきた。そしてふたりは大切なものを対価にする必要があると知らされながら、ハートキラリロックをつかってプリキュアを助けることを選ぶ。
 一方、はなみちタウンのフェスでライブをおこなおうとしていたキュアアイドルたちの前に、ふたたび巨大ロボ化させられた敵幹部カッティーが登場。プリキュアたちは既存の技で対抗するが、少しずつ押されていく……


 山田由香脚本に、小川孝治と河原龍太の共同コンテなど、あまりメインではないスタッフで新プリキュアの登場と活躍を描く。
 これまでと比べて頭身が高めの新プリキュアだが、今回は浄化技を披露しただけで格闘や変身はいっさい描写せず、そのデザイン以上のアニメーションとしての魅力は今後のエピソードで描いていくのだろう。番組最後にファンサレッスンするキュアズッキュンの3DCGも質感がこれまでと比べて簡素で、あまりスケジュールやリソースが足りていないことがうかがえる。
 すでにデザインや名前がプレスリリースで公開されていた新プリキュアだが、今回のEDクレジットで声優は隠しているし、本編映像や次回予告でも正体を明示する描写はいっさいない。配色から正体はほとんど明らかなものの、情報を徹底的に遮断していることで、助けられたキュアアイドル視点では正体がわからないことが理解しやすい。それゆえ、その謎めいた魅力にキュアアイドルが心ひかれていく展開も視聴者としてついていきやすい。
 プリルンとメロロンをシリーズの妖精のなかでも精神年齢を幼く描写してきたことが、今回のギャップ描写につながったということも意外な楽しさがあった。同時に、変身前を隠してドラマの連続性を断っているためキャラクターとしてはどうしても軽くなる新プリキュアのかわりに、敵幹部の心を救ったプリキュアはこれまで対峙してきたキュアアイドルたちだというドラマを描いて、連続ストーリーを販促の都合で無視しない良さもあった。

『スクライド』雑多な感想

 近未来の日本の一地域ロストグラウンドで謎めいた事件が起きるが、刑事は捜査を放棄する。謎の災害によって孤立したその地域では、アルターという特殊能力をもつ子供たちが生まれ、自治がおこなわれていた。そしてアルター能力を管理する社会に反抗する青年カズマと、治安組織ホーリーで厳しく自他を律する青年劉鳳が衝突していく……


 2001年に2クール放映されたTVアニメ。『無限のリヴァイアス』につづく谷口悟朗監督、黒田洋介脚本、キャラクターデザイン平井久司という体制のサンライズ制作のオリジナル作品。

 ひさびさに見ると、巨大ロボットのアルター能力、ハイパーピンチの登場こんなに遅かったんだと思った。ラスボスの無常の出番も1クールたってから。逆に君島の退場など主人公カズマを孤立させる展開は序盤から多い。そもそも1クールの決戦で時間が飛んで新展開というのは『装甲騎兵ボトムズ』というか『蒼き流星SPTレイズナー』か。
 音楽はジャズっぽいし、BGMの使用そのものが抑制されているし、戦闘などで挿入歌が流れるのも後半から。いわゆる熱血アニメの多くがそうであるように、それそのものをじっくり視聴すると意外と熱血らしい熱さがない。谷口監督らしいミソジニーホモソーシャルは感じるが*1、視点の配置がうまいのであまり気にならない。
 ロボットアニメパロディは先述のハイパーピンチだけだがシナリオメタキャラは複数回登場するし、男子に作られた都合のいい女性も中盤で活躍して、当時の深夜アニメ需要をメタに見た異能アクションといった感じもある。


 映像は意外と記憶より低位安定というか、良いアニメーターを集めつつ作画枚数は少なめで、描き込みも少なめ。エフェクト作画やアルター作画はさすがに良好だが。
 主人公の坊ちゃん刈りが熱血アニメの主人公のようになるデザインギミックは良い。ただ何よりも、美少年や美少女でも鼻や顎をきちんと複雑な立体で作画しようとするデザインの挑戦が目を引いた。顎がとがっていないし、眼窩はくぼんでいる。デザイナーの平井は『機動戦士ガンダムSEED』で一挙にいのまたむつみ風のデザイナーとして定着してしまうので、いったんこの流れは断ち切られてしまうのだが……おそらく断続的な挑戦の到達点として『銀河機攻隊マジェスティックプリンス』第1話の、3DCGのような印象すらある特異な立体感のキャラクター作画がある。

 しかし作画よりも目を引いたのは、当時とりいれたばかりのデジタル撮影技術を実験的に活用して映像に変化をつけていること。出崎統演出風の止め絵をはじめ、コンポジットで色彩をいじった表現も多いし、アルター能力も既存のプラグインをそのまま使用したような*2表現が多い。水面もほとんどCG処理だから、画面の過半がCGなレイアウトも多い。少し前にひさびさに見てアナログな作りにおどろいた『serial experiments lain*3とは逆にデジタル感が強い。簡素なフォントのテロップをデジタルで動かす谷口監督らしい演出も、この作品でいろいろ実験したことで作風になったのかな、と今さら思った。
 毎回細かく変えているOPも、デジタル撮影で格段に編集の労力は減ったことで挑戦してみたという感じで、よく見るとカット単位のつかいまわしは多いし止め絵も多い。アナログ撮影が基本だった『ガサラキ』でもやってはいたが。
 デジタル移行期のアニメとして記録的な価値を新たに感じるとともに、実験的な活用は多くてもコンセプトは一貫させているから、そういう表現として現在でも視聴にたえる。こうして見るとスタンダードサイズも悪くない。

*1:女性キャラクターが、男を支えるタイプか男を待つタイプしかいないよう徹底しているところがすごい。よく見るとトップの指導者としてふるまう女性がひとりもいない。

*2:素人なので実際はどうかはわからない。

*3:『Serial experiments lain』雑多な感想 - 法華狼の日記

『終りに見た街』

 あまり売れていない脚本家の田宮太一は、プロデューサーになった知りあいから終戦80周年記念スペシャルドラマの脚本をまかされる。得意ではないとして断ろうとする田宮だが、先にまかされていた脚本家が降板したという。しかたなく自宅で資料と格闘しながら脚本を書こうとした田宮。しかし衝撃で目ざめると、普通の住宅街にあったはずの自宅がなぜか森のなかにあった。そこは第二次世界大戦で敗戦する直前の日本だった……


 宮藤官九郎脚本の2時間ドラマ。脚本家の山田太一による同名小説を原作とした3度目のドラマ化で、テレビ朝日開局65周年記念ドラマプレミアムとして2024年9月に放送された。

 原作は未読だが*1、2005年放送の2度目のドラマ化は情報をもたないまま視聴したことがある。よくあるタイムスリップ反戦ドラマかと思いきや、主人公たる父親が気づかぬ間に現代人の子供が軍国主義と一体化していたクライマックスは驚いたし、新たなタイムスリップで強烈すぎる反戦メッセージをつきつける結末も予想を超えたことでフィクションとしてもインパクトがあった。


 2024年版は大泉洋が主人公を演じる。2005年版よりも戦争の記憶は薄れ、メタフィクションのように反戦ドラマに向きあうライトタッチなコメディ色が強い。現代的な一戸建てが突然森の中にあらわれるビジュアルの面白味など、いわゆる「奇妙な味」っぽさがあって楽しい。
 そこから子供たちが軍国主義にのめりこんでいく恐怖や、すべてのドラマを塗りつぶす結末のカタストロフなども、2005年版と同じく反戦ドラマとしての要点は押さえていたとは思う。
 しかし時間改変をめぐる登場人物の努力がかなわない描写や、過去にやってきた主人公たちを観察しているような謎めいた視線など、2005年版では弱かったタイムスリップSFらしい描写もところどころあったのに、それらを登場人物が考察することもなく*2、結末のカタストロフで投げ捨てていったことは釈然としない。ほしい説明を省略しているからこそインパクトのある結末だが、かなり現代的な小道具を登場させた今回は、もう少し説明があっても良かったのではないか。

*1:1981年作品なので国会図書館デジタルコレクションの送信サービスで読めるかと思いきや、まだ公開は図書館内に限定されていた。終りに見た街 - 国立国会図書館デジタルコレクション

*2:当時に実在した流言飛語が実は未来人たる主人公たちの警鐘だったという描写は2005年版と同じだが、脚本のため当時の資料をあつめていた主人公はその符合に思い当っても良かったのではないだろうか。それどころか当時の知識がなければ、多くの流言飛語が実際にとびかっていたことをドラマの視聴者は気づけないと思う。

『英雄王、武を極めるため転生す 〜そして、世界最強の見習い騎士♀〜』雑多な感想

 女神の加護もあって見事な治世をおこなった英雄王だが、老衰の瞬間に今度は武を極めるという自分の夢だけに邁進する人生を送ってみたいと女神にたのむ。そして銀髪の少女として前世の記憶をもって転生した英雄王は、魔術的な知識が衰えたり、飛行する土地から技術をさげわたされる文明にとまどいながらも、強敵との戦いを何よりも優先するが……


 小説家になろうへの投稿作がHJ文庫で商業化され、2023年にスタジオコメット制作でTVアニメ化。同年は男性が美少女へ性転換する、いわゆるTSFと呼ばれるジャンルのTVアニメ化が不思議と目立った。

 最初のモンスターとの戦いで子供たちを守ろうとドレス姿の母親がそこそこ剣技で活躍するサプライズから、主人公の他も少女騎士ばかり映したOPまでで、どちらかといえばTSよりもガールズアクションアニメを目指した作品とわかる。TSはEDなどの百合っぽい描写の背景設定的なニュアンスもあるだろうかと思ったが、とりあえずTVアニメ化された範囲では主人公自身は色恋に興味がないまま終わった。とはいえ主人公が自身の姿の美しさを楽しむ描写もけっこう多く、TS転生で省略されがちな魅力をちゃんと活用している。


 第1話はおそらくスタジオコメットおかかえの野本正幸の線のニュアンスの拾い方が良い。必ずしも線が多いわけではないし描線は太めだが、全体を通して情報量や作画修正が期待より少しずつ上回っていて満足感がある。斜め俯瞰の顔などが破綻せず作画できている。きちんと布地や革製品の厚みの違いを細かく作画しているので服飾に実在感がある。そこまで細かいニュアンスをとりこぼしていないとなると、作監や原画だけでなく動画までの作業工程もしっかりしていることがうかがえる。モンスターとの戦いでも主人公の強さの基準役となったいずれ聖騎士や領主になる少年が、ここでもうまく敵の狡猾さと限界をアクションを通して表現できているし、狡猾な敵も魔術だけではない技量も最低限あることを物語でも作画でも説得的に表現できていたのが良い。
 第2話で監督コンテなものの演出ノンクレジットで海外作監と原画が多めで、いきなり線が荒くなったがレイアウトは悪くない。第1話の狡猾な青年が予想外に狡猾かつ邪悪になって再登場したり、レオンという男がバランスが良く視野が広い聖騎士かと思えば意外な行為*1をして次回に引いたり、いろいろな思惑がからみあうところに戦闘狂の主人公が強敵と戦うため意図的に危険を引きうけて、作品コンセプトで話の筋がとおって見やすい。それでいてパーティーなどで少女の視点を知って過去を反省する主人公など、意外に真面目にTSFをやってるのも良い。
 第3話と第4話も支配民族による領主ながら優しい穏健派と思わせて邪悪という悪くないがありきたりな展開になるかと思えば、帝国主義の尖兵として自分なりに妥協しようとしているし罪悪感に苦しんでいることも描かれる。対する反抗組織は穏やかに見えた人物の真意は前ふりがあってもけっこう驚いたし、その末路も予想外だった。それでして反抗組織も民衆の被害を軽視しているわけでもなく、必要に応じて共闘もする。第2話で登場したアイテムの再利用から怪獣映画的な構図が味わえるモンスター戦になったことも嬉しい驚き。
 しかし急に第5話でチート能力者によるテスト無双展開になり、驚きも味わいも消え去った。一応は第2話で反抗組織に身を投じた人物の妹が周囲から見くだされる展開などもあるが、群像劇として楽しむには弱く、主人公のまわりがチートで引っぱられるだけの人形化していく。同じ試練をチートでくりかえし突破する茶番が長すぎる。主人公ほどではないが試練に抵抗する人物が何人かいたが、その動きをしっかりアニメーションをつけて魅力的に描けば、もう少し群像劇らしい味わいが出たと思う。
 第6話は異能学園ものとして、突出した主人公に追随するキャラクターの温度差でふたたび群像劇の味わいが出ている。過去を思い出させるパターンの試練で、無理やりチートで横紙破り*2した主人公から、他者の過去の葛藤を知るドラマにつなげたのはうまかった。しかし全体的に作画が弱く、多用されるデフォルメ作画もコミカルというより手抜きの印象が強い。
 第7話以降はこれまで描いてきた要素を受けた連続ストーリー。クローズアップの作画修正はなされているが、デフォルメ作画で気が抜けていくところは同じ。しかし支配者の末端に屈従する王が、支配者の目的が別にあったと知って末端と対立的に動いたり、技術的に限られた空戦能力のため複数陣営の衝突でありながら戦闘に参加する人数が適度にしぼられたり、けっこう要素の整理がうまい。反抗組織の長が仮面で顔を隠したままだったり、視聴者に明かしていない情報は多いが、とりあえずストーリーは一段落しているので独立した作品としてのまとまりはある。

*1:まあ単純に守るためという可能性も考えられるが。

*2:正確には天井破りか。