新卒採用をしていると、いろいろな気づきがあるものだ。
特に、率直な疑問をぶつけられたときの収穫は大きい。
先日、新卒の内定者から「今から身につけておいたほうがいい重要スキルって、何かありますか?」という質問があった。
会社の役員たちは、専門的なスキルを様々回答していたが、真剣に考えていくと、最も汎用的で、最も人生を通じて役に立つスキルは「時間を扱うこと」に対するスキルではないかと感じた。
というのも、多くの人が指摘するように本質的には時間とは、すなわち人生だからだ。
「一瞬一瞬の時間の使い方を積分したものが人生」だという事実は、気づきにくいが本質である。
今日、やるべきことをやらなかったら、そのぶん人生を無為に過ごしたことになるし、「充実した今日」を積み重ねれば、それは「充実した人生」と同義である。
もちろん人生に何も望まない、という人もいよう。
そういった方に関しては、時間の使い方に関して云々するのはそれこそ時間の無駄であろうが、
・認められたい
・幸せになりたい
・良い伴侶・友人を得たい
・裕福になりたい
・楽しく仕事をしたい
など、能動的であることが必要なテーマにおいては、全てにおいて大きな時間を投じることが要求される。
充実した人生は、コンビニで気軽に買えるようなものではない。
例えば、中島敦の著作「山月記」の中には「人生は何事をも為さぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短い 」という一言が出てくる。
ピーター・ドラッカーの洞察も
成果をあげる者は、時間が制約要因であることを知っている。あらゆるプロセスにおいて、成果の限界を規定するものは、もっとも欠乏した資源である。それが時間である。
スティーブ・ジョブスも
あなた方の時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。
(出典:https://www.nikkei.com/article/DGXZZO35455660Y1A001C1000000/?df=3)
有名な自己啓発書でも、
本当に重要で効果的なことは何かという視点に立って時間を使う考え方、パラダイムを、自分の中に植えつけられる。
スキルについて研究する学者たちですら、同じことを言う。
多くの人がエキスパートになるために努力してきた長い伝統と歴史のある分野で成功するには、長年にわたるとほうもない努力が必要である、ということだ。それがきっかり一万時間であるかは別として、多くの時間を要することはたしかだ。
チェスやバイオリンではすでにそれが確認されており、それ以外の分野でも研究者が次々と同じような結果を得ている。
作家や詩人が代表作を書くまでには通常一〇年以上の歳月がかかり、科学者が初めて論文を出版してから主要な業績と呼べる論文を出版するまでにもたいてい一〇年以上かかる(しかも最初の論文を出版するまでの研究期間はここには含まれていない)。心理学者のジョン・R・ヘイズによる複数の作曲家の研究では、音楽を勉強しはじめてから、彼らが真に傑作と呼べるような曲を創るまでには平均二〇年かかっており、一〇年未満ということはまずない
結局、人生の質を左右するのは「時間の使い方」なのだ。
「何をするか」を決めることは、「何をやらないか」を決めることと等価
シリコンバレーで尊敬を集める、元インテルCEOアンドリュー・グローブは「何をするか」を決めることは「何をしないか」を決めることと等価であると言う。
時間は人間にとって有限の資源なのであり、あることに対し「イエス」と言ったら、必然的に他のことには「ノー」と言っていることを忘れてはならない。
彼の言う通り、「やるべきこと」は慎重に決定する必要がある。
だが、以前書いたように決定を行うための「集中力」は消耗資源である。
「なんでこんなに仕事が手につかないんだろう?」と悩む人に読んで欲しい話。
さまざまな研究によって、自己管理が心身を消耗することが証明されている。
たとえば、ウェディング・レジストリ(訳注/アメリカで、結婚時に新郎新婦がつくる結婚祝儀の〝ほしいものリスト〟)の作成や新しいコンピュータの購入など、複雑な選択や検討をさせられた人々は、させられていない人々よりも集中力や問題解決能力が落ちることがわかっている。
ある研究によると、病気の動物を描いた悲しい映画を観るときに、感情を抑えるよう指示された被験者は、自由に涙を流した被験者と比べて、その後の身体持久力が低下することがわかった。
実際問題として、「やるべきこと」は無数の選択肢があり、その意思決定だけでも消耗してしまうことも多い。
また、事前に「何が無駄」で「何が正解」かを判断することは非常に難しい。一見無駄に見えるようなことが、成功につながることも多々あるからだ。
したがって、時間の使い方を議論するときには、日々の意思決定を少しでも楽にするために「やらないこと」を予め決めておくことは有効だ。
例えばオバマ元大統領や、マーク・ザッカーバーグ、スティーブ・ジョブスらは「服選び」はしないという。(出典:https://www.businessinsider.jp/post-34279)
彼らは「重要な決定」を担っているので、服を選ぶことのような些末な決定を極力減らしているのだ。
同じように「少なくとも、これは時間の無駄なので絶対にやらない」と決めておくことで、より密度の高い意思決定をすることができる。
例えば、個人的には以下のようなことを「やらない」と決めている。
1、お金のために無理して人と付き合うこと
不愉快な人と我慢して付き合うくらいなら、別にお金を稼ぐ方法を考えるほうがずっと人生を有意義に過ごせる。
今の20代、30代の起業家たちを見ていると、「気の合う仲間とやっていく」ことに強い執着をしている人がいるが、時間の使い方を考えれば、合理的である。
お金より時間、すなわち人生を有意義に過ごすほうが、圧倒的に重要なのだ。
2、不得意なことを「人並みにする」ように改善しようとすること
思い返すと、20代に「〜ができないとあとで苦労するよ」と言われたことの殆どは、組織内で生き延びるために必要、という程度のものだった
不得意なことを無理して改善している時間はない。
どうせ不得意を克服しても、ようやく「普通」のレベルになる程度なのだ。組織に身を捧げる人は「普通」が大事かもしれないが、成果を追求するならば「普通」を強化することにあまり意味はない。
3、論争すること
敵を攻撃して屈服させるのが楽しい、という人は別だが、論争は時間を使って敵を作るだけで、得るものは何もない。
4、行列に並ぶこと・満員電車に乗ること
行列に並ぶことで幸福になる人は別だが、私はそういう人間ではないので、並んでいる時間がもったいない。
昔、「ディズニーランドはファストパスが買えないので行きたくない。ユニバーサルスタジオはファストパスが買えるので、もっぱらユニバーサルスタジオの方を愛用している」という人がいた。気持ちはわかる。
また、満員電車も同じように時間の浪費だ。40年間、年に300日乗れば、12000時間を満員電車に使うことになる。1日に起きている時間を18時間とすれば、約2年分だ。
5.人に過度の期待すること
人に大きな期待をしても何も得ることころはない。
ドラッカーの指摘する通り「将来性」を見込まれていた人の多くは、口が上手いだけだったことがすぐに分かる。
結局、現在のアウトプットだけを見て判断するほうが、人と付き合いやすい。
6.意欲のない人に、意欲を出させること
人の心はコントロール出来ないし、思うように動かしたほうが良いとも思わない。
*
繰り返しになるが、「時間の使い方」=「人生の質」であることは間違いない。
「今日」を疎かにすることは、人生を疎かにすることと同じことなのだ。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
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(Photo:Lauri Heikkinen)