承前。(中年の異常な執念、あるいは私は如何にして大腸内視鏡検査を受けるようになったか)
おれは2か月前に、「こんど大腸内視鏡検査を受けるよー!」という記事を書いた。「―!」というくらいにお気軽な雰囲気だ。
検査そのものや、検査前の食事制限について興味津々という感じ。ぜったいに大きな病気にかかっていないという気持ちで書いているのが自分でもわかる。それが、どうなったのか?
食事制限4日間
木曜日からの4日間の食事制限。きちんとカレンダーに書き込んでおいた。
なにを食べていいのか、食べてはいけないのか。医者でもらった案内以外にも、ネットでいろいろ読んでみた。
いろいろなクリニックが、それぞれに情報発信をしている。情報量は多い。基本的には消化に良いものを食べろ。ただし、食物繊維は禁忌だ。野菜はダメだ。
いろいろ考えて、おれが選んだのは冷凍うどん、コンビニのサラダチキン、たまご、豆腐。これである。
これにめんつゆをぶっかける。これを昼と夜に繰り返す。土曜日の昼はそうめんを240g食べた。もちろん薬味はなしだ。
薬も飲む。薬は毎食後にジメチコン(ガスコン)を1錠。胃腸内のガスを消す薬。飲んでも効果は感じられない。ただ、喉が渇くような気がする。
就寝前にはビーマスを6錠。そんなタイミングで下剤を飲む。眠れないんじゃないかと思った。しかし、これも効いている気はしない。ちなみにビーマスは製造が中止されている薬だ。クリニックでは「この薬局で取り置きしてもらっているので」と、処方箋をもらうときに指定された。
この食生活と薬。どうなったのか。全体的に便秘気味だった。毎日野菜ばかり食べているおれには、繊維が足りない。こんなに出なくて大丈夫かと心配になった。おれはふだん、1日にだいたい3〜4回は出している
前夜そして当日の朝
検査前夜、日曜日の夜。早めの夕食はレトルトのおかゆ2袋にした。
そして、モビプレップ(経口腸管洗浄剤)の袋に水を入れる。500mlのペットボトルで2杯、また2杯。ちょうど2L、……になるはずが、溢れた。溢れた一杯はカップにしてラップして冷蔵庫に入れる。もちろんモビプレップ本体も冷やす。
就寝直前にピコスルファートナトリウム。ビーマスも飲むのに、さらに下剤だ。水に溶かす。少し甘い。さすがに寝られないのではないかと怖い。しかし、すぐに効果はなかった。
朝6時ころ目が覚める。効果が出た。トイレに行く。しかし、出る量は少ない。食べてきたものと見合っていない気がする。モビプレップに賭けるしかない。そして朝、なにも食べていないのにジメチコン1錠。まだ必要なのか。
……というか、おれはほんとうにいろいろな病院、クリニックの大腸内視鏡検査の情報を読んだが、4日前から食事制限が入り、泡消しと下剤を飲ませるところはほかになかった。おれの行くクリニックはそうとうに徹底している部類だろう。もちろん、おれはおれの医者に従うだけだ。
午前8時くらいにモビプレップスタート。最大の関門。
味は「梅ジュース味」、「しょっぱいスポーツドリンク味」とネットで見たが、そんな感じ。おれには飲みやすい。冷やしておくのは正解だろう。
モビプレップを2杯飲んで、1杯お茶を飲む。1杯は180mlだ。180mlがどのくらいかわかるだろうか。ワンカップ大関1杯分だ。おれはワンカップ大関のカップでモビプレップを飲んだ。写真を撮ってXに投稿などする。余裕がある。
モビプレップ4杯、30分くらいかけたか。便意が起きない。すぐにネット調べる。すぐに出てこない場合もあるという。
その後、一回目のトイレ。小のつもり。……いきなり黄色い液体が出る。なにが起きたかよくわからない。さらに2杯飲んで、二回目。ほとんどカスもないのでは?
……これでいいのか? 調べる。基本、その状態になればやめてもいいが、最低でも1Lらしい。徹底的にやるためには、2L全量飲んだほうが確実というクリニックもあった。
飲み始めてから2時間。テレビでは石破首相退陣表明と阪神優勝のワイドショー。見飽きたので大河ドラマ『べらぼう』の録画など見る。飲み続けて、トイレに行きつづける。やはりもう完全に液体しかでない。液体を出すのは少し癖になる。
さすがにいいだろう。1.5L。もう出る気配がないのを確認して出社。少し仕事をして、昼休みはルイボスティーを飲む。
いよいよ検査
15時15分。クリニックに行く。予診のときは満員だった待合室が今日は無人。
べつに「検査のため外来休み」でもない。どういうシステムだろうか? 受付をすると、検査を終えたらしき人が出てくる。
実は一つ忘れていた。出かける前のジメチコンを飲み忘れていたのだ。
しかし、受付から出てきたのはコップ1杯の泡消し薬。飲みにくいと言われたが、緊張で喉がかわいていたのか、ごくごく飲んでしまう。
予定より15分遅れで診察室へ。
医師は丁寧だが早口だ。事前準備の確認。ジメチコン1錠忘れ以外は万全のはず。
予診で採血された肝炎の結果も渡される。肝炎も梅毒もない。「これは歯医者さんとかで必要になることもありますので」と結果表を渡される。
看護師さんに案内され、着替え室へ。用意されていたのはユニクロのXLのTシャツと使い捨てパンツ。ユニクロのTシャツもこういう場で着ると検査着に見える。パンツにはもちろん、後ろスリット。
検査室。ベテラン風の看護師さん(ひょっとしたら女医さん)が、「今回の検査は?」と聞いてきたので、「血便があって」という。「色はどうでしたか?」というので、たぶん痔だとは思うのでという意味を込めて、「明るい赤色でした」と答える。「そうですか、それなら……」という雰囲気。
先に胃カメラ。歯医者で使うのと同じ麻酔を使いますが大丈夫ですか? と言われる。大丈夫というと、のどにシュッシュとやられる。すぐに口の中が麻痺してくる。座っていた椅子が変形してベッドに。横向きにさせられる。足の姿勢をなおすとき、攣りそうになってあせる。
医師が検査室に入ってくる。マウスピース装着。すぐに注射。注射は怖い。「緊張していますか?」。「しています」。つばは飲むな、垂らせという。おれはそのまま意識を失ったりするのだろうかと思った。おれの意識は失われなかった。
つばは出ることはなかった。意識があるまま胃カメラが始まった。最近は鼻から入れるとか、自分もモニタを見ながらやるとか聞いていたが、姿勢的にモニタは見えなかった。よくわからないままに胃カメラは終わった。
次は大腸内視鏡。仰向けになる。今度はモニターが見える。意識はきわめて明瞭。ただし、メガネがないので視界はぼんやりしている。
正直おれは、意識を失い、気づいたら終わっているようなものを想像していた。あとから説明文書を読んだら「その時の条件で、軽く意識レベルが低下する場合から熟睡まであります」と書いてあった。鎮痛剤の静脈注射を、コンシャス・セデーションを信じすぎていた。
なにやらゼリーのようなものを塗られて検査開始。痛みはないが、管が入るのといっしょに空気を入れられてお腹がパンパンになる。言ったほうがいいのか迷う。けっきょく我慢する。出すものはないのに、出したらいけないと我慢する。
カメラはどんどん進んだ。くねくねとおれの腸の中を進んだ。一番奥まで行き着いたのだろうか。今度は戻ってくる。
戻ってくるときに医師が言った。「入口あたりだよね、ああ、あった」。
うっすらとポリープらしきものが見える。なにかべつの管を入れられる。なにをしているのかはよく見えない。管入れを2回やったので、2個ポリープがあったのかと思う。
検査が終わる。内視鏡が腸から去った。去っても、お腹が張ってたいへんだ。そのタイミングでまた注射を打たれる。ぼーっとしてくる。まさかこれからが本番ではなかろうな? そういうわけではなかった。終わったあとに打たれるとは聞いていなかった。
注射は刺しっぱなし。針が刺さりっぱなしなのだ。あとから調べたら「トンボ針」、「翼状針」というもので、短時間の点滴に使うものらしい。
おれは注射が嫌いだ。注射が嫌いなので、緊張で足はピーンとなり、手には汗がたくさん。その様子を見て、看護師さんから「気分は大丈夫ですか?」と聞かれる。おれはもうそれは悲痛な声を出して、「実は、注射が大の苦手なので……」と答える。答えたところでどうなるわけでもない。そのまま放置される。
刺さりっぱなしの注射が気になってしかたない。看護師さんは装置の洗い物を始めている。手に当たらないのか気になる。ようやく医師が来てくれた。
「はい、抜くとき、ちょっと嫌な感じがしますよー」と言う。ほんとうに嫌な感じがしたが、注射からは解放されて一息つく。
看護師さんに支えられながら、ゆっくり立ち上がる。それほどふらふらしていない。トイレへ案内される。空気を出すように言われる。空気が出る。今のおれの腸には空気以外入っていないのだ、と思う。ただ、血のかけらが見えた。
着替えて、待合室へ戻る。今度は人がたくさんいる。しばらく待っていると、お腹が気になってくる。「出てくるのは空気ですから」と言われていたが、人前で音を出したりするのは恥ずかしい。
受付の人に断って、一回トイレに行く。座って空気を出していると、ノック。「大丈夫ですか?」。なにかあったと思われたか。「大丈夫です」。
当日の結果
戻ってしばらくして、診察室に呼ばれる。モニタにおれの胃や腸が映し出されている。胃はたいへんきれいだと言われる。
「ふだんの食生活がいいのでしょう」。え、あんなに酒を飲んでいるのに? 逆流性食道炎は「グレードM」。悪くないらしい。そして、ピロリ菌もないとの印象。
そして大腸。奥の奥まできれいだったらしく、「食事制限がんばりましたね」とか言われる。悪くない。
「見たところ癌などの大きな病気はなさそうですね」。悪くない。ただし、ポリープの写真が映し出される。素人目には大きく映る。これは悪い……のか?
「直腸の出口付近に一つだけポリープがありました。15mmくらいですかね。色もいいので脂肪かもしれませんが、一応検査に出しておきます」。
え、切除したのではないの。生検検査なの。2週間後に結果が出るという。胃と腸の写真4つずつがプリントアウトされたものを渡され、次回予約をして病院を後にする。
おれは、検査が終わったら牛丼でも食べようかと思っていた。ところが、「生検検査のために少し切除しましたので、これから24時間は絶食ですね。飲み物と、ゼリーはいいですよ」と言われてしまった。
さらに、1週間は「消化の良いもの」を食べて(野菜はかまわない)、アルコールも禁止された。おれは、絶食と禁酒を、ちょっぴり破った。
生検検査の結果
いかがでしたでしょうか。こんな感じです。注射が怖くなければ楽勝。癌だったらまたつづき書きます。……と、原稿は終わるはずだった。
しかし、原稿は終わっていない。「生検検査の結果まで書こう」と思った。そう思ったときは、脳内で「……となると、あの血便は痔ですかね?」、みたいな会話をするのだと想像していた。
が、一つ気になることがあった。「脂肪かもしれない」と言われて調べてみた「大腸脂肪腫」。症例写真を見ると自分のものとそっくりだし、害もないという。しかし、割合は3%だとかいう。おれが3%を引けるのか? という疑問が浮かびはしたのだ。
とはいえ、おれは結果を聞きに職場を出るときも、「ちょっと癌の宣告受けてきます」というくらいの余裕はあった。
あったのだが……。結果からいえば「癌疑い」だった。
前回と同じような説明をサッと追えたあと、2枚の「病理検査報告書」の写しが出てきた。
「検査に2つサンプルを出したところ、1つは問題なかったんですが、もう1に問題があって、再検査したところ癌の疑いという結果になりました」
報告書の説明を受ける。生検材料2個(1個2個と数えるらしい)で、(1)にはあまり問題がないということが書かれている。問題がないわけでなく、炎症みたいなものはある。
問題は2個目だ。1枚目の報告書には症状のあとに
「……中分化型管状腺癌を思わせます。ただし、異型のない陰窩上皮下に病巣が見られますので、カルチノイドなどの除外のため、免疫組織学的に検索し、再報告いたします」
とある。カルチノイドは癌に似たなにかだ。癌に似たなにかは癌ではない。
が、2枚目の再検査の結果である。「カルチノイド腫瘍が疑われましたので、免疫組織学的にクロモグラニンAの検索を行いましたが、陰性でした。中分化型管状腺癌疑いとしますが、確認のため、再検を希望します」。
つまり、癌に似たなにかは「陰性」であり、「癌疑い」とされたのである。
え、マジ? と、思う。2枚目の決定日はこの結果を聞いている前日になっていた。
え、昨日わかったの? と、思う。思っていると、間髪入れず、「市大病院への紹介状を書きましたので、こちらにご予約の電話を入れてください。18時半まで受け付けているので、今日もまだ大丈夫ですよ」と医師がいう。
おれは「え、浦舟ですか?」と聞き返す。「はい、浦舟です」と医師はいう。
「それでは、また内視鏡ということになると思いますが、市大病院には腕のいい方がおられますので」。
診察室を出る。ちょっと待って受付に呼ばれる。封筒が用意されていた。
封筒には手書きで
「公立大学法人 横浜市立大学附属 市民総合医療センター 消化器病センター 内科(大腸)担当先生 御侍史」
と書かれていた。「御侍史」の意味をあとで調べようと思った。
……というわけで、おれは職場に戻ると、「マジで癌疑いでした」と告げ、予約受付の番号に電話した。
おれの癌(疑い)はまだ始まったばかりだ。
つづく(といいですね)。
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【著者プロフィール】
黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
Twitter:黄金頭
Photo by :Marcelo Leal













