その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は内田舞さんの『 小児精神科医で3児の母が伝える 子育てで悩んだ時に親が大切にしたいこと 』です。

【はじめに】 完璧な親なんていない
子育ての「正解」は、いくら求めてもたどり着けないから

 世の中にはたくさんの育児本が出ていますし、ネットにもたくさんの育児関連記事があがっています。子どもを育てる親の多くが、日々子どもへの対応に悩み、こうした本や記事の中に「答え」を求めた経験があるのではないでしょうか。私もその1人です。

 子育てには不安が付きまといます。「こんな時にはどうしたらいいのか。何を言ったらいいのか」と悩んでも、子どもは待っていてくれませんから、迷いながらもその場を乗り切るしかありません。わが子のことを思い、藁にもすがる思いで本や記事に「答え」を求めるのだと思います。

 実際読んでみると、そこに書かれた「子育てはこうあるべき」「こうするべき」という内容は、自分がこれまでにやってきたこととは違っていることもあります。しかし、子育ては「正解がない」ことも多く、ある子どもにうまくいったことでも、別の子どもにはまったくうまくいかないこともあります。それに、親が子どもに対してやったこと、言ったことが、その子にとって「正解」だったかどうかは、ずっと先にならないとわからないことも多いものです。いえ、ずっと先になってもわからないかもしれません。それでも、本や記事を読んで「私のやり方は間違っていたんだ」「私は良い親ではなかったんだ」と落ち込んでしまったり、「書かれた通りにやってもうまくいかない。一体どうしたらいいのか」と余計に悩みを深めてしまったりすることは、多いのではないでしょうか。

 もちろん、本やネットの中の子育てに関するノウハウや、科学的なエビデンスにもとづいた子育てのヒントには、非常に大切なものがたくさんあり、私自身も9歳、7歳、3歳の息子たちの子育てでは、これらにたくさん助けられてきました。

 私は小児精神科医で脳神経科学者でもありますから、科学的エビデンスの重要性についても深く認識しています。小児精神科医として日々、診療活動に当たる中では、どのような治療方針を採るかを、患者さんへの問診や科学的なエビデンスの中から決めています。しかし、エビデンスというのは大勢の人における“傾向”を示すものですから、そこで提示された治療法が必ず個人に効くとは限りません。エビデンスをガイドにして、予想される治療効果やリスクの説明をして患者さんとともに治療を選び、試してみた上で治療への反応を見て、トライアル&エラーを繰り返す。こうして適した治療にだんだんと近づいていくものです。このように、医療にすら「正解」がすぐにはわからないことも多いのです。

 「こんな場合はこうしましょう」といったヒントが書かれた育児本はとても役立ちますし、子育て中の親に安心感をもたらすことも多いのですが、その一方で、行き過ぎると、「常に“正解”を追い求めなくてはならないのではないか」という不安を与えることにもなりかねないように思います。

 また、「効果がありそうな答え」というのは対症療法的なものが多く、根本的な育児に対する不安の解消には、なかなかつながらないようにも感じています。それどころか、日本の親たち(特に母親)は、ただでさえ社会から「こうあるべき」「これをしないとダメ」と言われ続けているので、ともすれば、本来は育児中の親たちを助けるはずの育児本や関連記事が、「完璧な母親像/父親像」「親のあるべき姿」を提示することになり、さらにストレスを与えて親を苦しめる結果になってしまっている面があるようにも思います。

 子育てに悩む親御さんの力になるためには、どうしたらいいのか。日常の自分自身の経験や、これまでに多くの方々から受けた子育てに関する相談事、友人たちとの会話などに加え、小児精神科医や脳神経科学者としての経験から行き着いたのは、親である私たちが、自分と向き合い、自分の考え方の根底にあるものは何かを知ることの重要性です。なぜ、私たちが子育てに自信を持てないのかを知り、自分の人生を大切にしながら、完璧な母/父でない自分を許して子どもと一緒に成長しようと思えること。それが、親も子どもも幸せになるためのカギになるのではと感じています。それは一見、遠回りに見えるかもしれません。しかし、モグラ叩きのごとく、目の前の悩みを解消しようと焦って動き回り、「成功した」「失敗した」と一喜一憂するよりも、その方がずっと、自分を追い詰めることなく(今よりも)心穏やかに子育てに向き合えるようになるのではないかと思うのです。

 既に頑張っているのにもかかわらず「もっともっと頑張れ」と言われているように感じていたり、「頑張っているつもりだけれど、子育てに自信がない」と悩みを抱えていたりする子育て中の親のみなさんの思いはよく理解できます。それは私自身も感じていることだからです。だからこそ、少しでも「私って結構頑張っているよね」と自分を認めながら、子どもたちに愛情を伝えられるようになるためには、どうしたらいいのか。3児の母親として日々悩みながら子育てをしている同志として、小児精神科医としての専門的な視点も活用しながら、少しでもそのお手伝いができればと思い、この本を書きました。第1部では、おもに親自身の自信のなさ、悩みの背景には何があるか、そして、親子の関係をよりよくするための考え方や心がけをお伝えします。第2部は、寄せられた悩みをもとに、未来を見据えて学業と好きなことのバランスをどう考えるか、スマホ使用のルール作りや性被害からどう守るかなどについて、専門性と実体験から考えてみました。

 子育てがつらい、自信がないと悩んでいる方には、あなたは1人ではないと伝えたいです。この本は「これが正しい子育てです」という答えを提示するものではありませんが、悩みを解消するためのヒントは詰め込みました。みなさんが少しでも頑張っている自分を認め、ほっとするための糧になればと願っています。


【目次】

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