地方自治体の首長(クビチョウ)や地方議会の議員といえば、その地域でも有数の名士。では、給与はどれくらいもらっているのでしょうか。待遇はどのようなものなのでしょうか。銀行員、そして大学教授を経て故郷の市長となった著者が日経プレミアシリーズ『役所のしくみ』(久保田章市著)から抜粋・再構成して解説します。
市長の給与は、その市の人口規模で決まる
首長と地方議員の待遇について、「市」を例に少し詳しくお話しします。市長や副市長、教育長の給与は、浜田市(島根県)の場合、市長が諮問する報酬等審議会で協議・検討されます。審議会からの答申に基づき、市長が市議会に諮り、承認されることによって決定されます。市長の給与は公開情報であり、オープンにされています。市の広報紙にはもちろん、毎年7月頃、新聞各紙で報じられます。
市長の給与は、市によってまちまちですが、平均給与で見ると、おおむね人口規模に比例しています。
一般市の中で、最も数が多い人口5万人未満(297市)の市長の平均月額給与は80万6000円です。次に数の多い人口5万人以上10万人未満(236市)は86万8000円です。そして、10万人以上15万人未満(99市)が92万2000円、15万人以上(55市)の98万8000円と続きます。さらに人口の多い施行時特例市(23市)の給与は99万円、中核市(62市)は104万1000円、指定都市(20市)は116万2000円です。
市の数の7割を占める人口10万人未満の市長の平均月額給与はおおむね80万円台、年収で1300万円前後です。この水準、皆さんは多いと思いますか? 少ないと思いますか?
年収1300万円前後というのは、大企業の部次長クラス、金融・保険業界の支社長・支店長クラスの年収です(ちなみに、私がかつて勤務していた大学の教授も同程度の年収です)。
確かに中小企業の多い地方にあっては、この給与は多いほうかもしれません。しかし、市長は、市政のすべての責任者という重い責任を負っています。もし、災害が発生したら陣頭指揮を取らなければなりません。土日祝日もほぼ公務があります。それに一般会社員とは異なり、政治家ならではの支出もあります(冠婚葬祭に出席、後援会や支援者との会合の参加費、選挙関係費用の支出など)。これらは基本的に給与から捻出しなければなりません。私は決して高くはないと思いますが、いかがでしょうか?
「市長給与の削減」を公約に掲げて選挙に立候補する人もいます。市民の中には「厳しい財政状況の中、市長の給与は少ないほうがいい」との考えの人もおり、おそらく、給与の削減を訴えれば、選挙を戦う上で有利との判断によるものだと思います。
しかし、冷静に考えてみれば、市長給与を削減しても、市の財政支出に占める比率はごくわずかです。多くの市民が市長に望んでいるのは、給与の削減ではなく、市民生活の向上や市の発展のために、「給与に見合うだけの仕事をしてほしい」ということではないかと思います。
市政は、誰が市長になるかによって大きく変わります。現在、他業種にいる有能な人材、中央で活躍している人材などに首長を目指してもらうためにも、私は、市長給与はある程度の水準は確保しておくべきだと思います。
地方議員の「議員報酬」も人口規模に比例
地方議員に支給される議員報酬は国会議員に支払われる歳費とは異なります。国会議員は、憲法で「国庫から相当額の歳費を受ける」とされています(憲法49条)。その額は、国会法で「一般職の国家公務員の最高の給与額より少なくない額」と規定されています(国会法35条)。
最高給与額の国家公務員は、通常、省庁トップの事務次官です。つまり、国会議員の毎月の歳費額は、事務次官の給与と同等以上とされているのです。国会議員にはこの他に、調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)が月100万円支給され(国会法38条)、電車の特殊乗車券や国内航空券なども支給されます(歳費法10条)。
これに対して、地方議員に支払われる議員報酬は国会議員の歳費とは、位置づけも金額も大きく異なります。
議員報酬は、2008年の地方自治法改正によって制度化されました。改正前には、地方議員が受け取る金銭については、非常勤職員である行政委員会委員(教育委員会委員、監査委員など)と同じ「報酬」とされていました。地方議員が議会本会議や委員会に出席したり、公務出張したりした場合への対価と解釈されていたのです。
法改正にあたって3議長会(全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会)から、「地方分権改革が進む中、地方議会の果たすべき役割や責任も拡大しており、国会議員と同様、歳費とすべき」との要望が出されました。
しかし、町村を含む小規模自治体の議員の場合には「年俸的性格の『歳費』という言葉はそぐわない」とされ、結局、非常勤職員の「報酬」と区別され、「議員報酬」となりました(地自法203条)。では、実際の議員報酬はどれくらいなのでしょうか。市議会議員を例に見ると、市長の給与と同様に自治体の人口規模に比例しています。
市議会議員の議員報酬(月額)は、一般市のうち、最も団体数が多い人口5万人未満は33万6000円です。次いで、人口5万人以上10万人未満は39万9000円、10万人以上15万人未満は45万2000円、15万人以上は49万9000円と続きます。さらに人口の多い中核市は60万5000円、指定都市は79万7000円となっています。
なお、議長、副議長には加算が行われています。一般市や中核市の場合、議長に8~10万円、副議長に3~4万円が加算され、指定都市では議長に約17万円、副議長に約8万円が加算されます。
市議会議員の議員報酬は市長給与のおおむね4~6割と言えるようです。参考に町村議会議員を見ると、町村(926団体)の議員報酬は平均で21万7000円です。議長は加算込みで29万4000円、副議長は23万9000円です。ちなみに町村長の平均給与は72万5000円ですから、町村の一般議員の議員報酬は、町村長給与のおおむね3割程度のようです。
なり手不足対策には議員報酬の引き上げも
首長は、平日はほぼ毎日勤務し、土日祝日も各種の大会や会合、地域のイベントに参加して、ほとんど休む暇がありません。これに対して、地方議員は義務的に出席しなくてはならないのは、議会本会議や委員会と、議員間で取り決められた会合(浜田市の例では、「地域井戸端会」や「はまだ市民一日議会」など)、勉強会、研修会などです。もちろん、この他にも地域の会合への参加、調査研究などの様々な活動がありますが、各人の裁量に任されています。
こう考えれば、議員報酬が首長の給与のおおむね4~6割(町村では約3割)について、「まあ、妥当かな」と思われる人が多いかもしれません。そして、地方議員は兼業(副業)が一般的とも言われますが、実際には、どうなのでしょうか。
全国市議会議長会の「議員の兼業の状況」調査によると、全国の市議会議員(調査対象1万8510人)のうち、議員専業は46.8%で、残り53.2%は何らかの兼業をしていました。最も多いのは農業・林業で9.5%、次いで各種サービス業の8.9%、卸・小売業の5.1%、建設業の3.9%、製造業の3.2%、医療・福祉の3.0%、宿泊・飲食の2.1%と続きます(全国市議会議長会「市議会議員の属性に関する調査」、2023年調査。一部を筆者が加工)。
この調査結果には、人口規模別の内訳は示されていません。確かに、市議会議員全体では議員専業は46.8%かもしれませんが、おそらく人口規模の大きい市、言いかえると「議員報酬が多い市」では議員専業の比率がもっと高く、人口規模が小さい市、言いかえると「議員報酬が少ない市」では、議員専業の比率が低いのではないかと思います。
とはいえ、実際には地方議員の約半数が兼業をしています。時間的にも兼業が可能ということもありますが、議員報酬だけでは生活が厳しいのも、理由の1つだと思います。知り合いの40歳代の市議会議員は、会社を辞めて地方議員になったものの、「子供の教育費もかかり、議員報酬だけでは生活できない」と、物流関係のアルバイトをしているそうです。
今、地方議会では、議員のなり手不足が問題になっています。議員選挙が無投票となっている自治体も増えています。おそらく今後も、議員定数の削減の動きが続くものと思います。議員定数が減れば、議員一人ひとりの役割が大きくなります。地方議会を活性化するためには、若手や中堅にも議員になってほしいと思います。そのためには、少なくとも小規模自治体の議員報酬はもう少し引き上げてもいいと思いますが、皆さんはどう思われますか?
久保田章市著/日本経済新聞出版/990円(税込み)