1.はじめに
著者の下地寛也さんは、コクヨで「働き方とオフィスのあり方」を提案することに従事されています。コクヨと言えば、言わずと知れたCampusノート。かつては自分でも、今でも娘が使っていて、定期的に買いに行かされています。
本書は、タイトルの「しやすい」に鍵カッコがついているところが、初版発行時に店頭に並んだときからとても気になっていて、ようやく購入し読むに至りました。
以下では、いつもの通り、個人的に特に印象に残ったところをまとめていきます。
2.内容
(1)「しやすい」を邪魔する5つのバグ
- 「その他」のものは、「整理しにくい」を生み出す元凶になる。何事もイレギュラーなモノゴトを考慮に入れるとオーバースペックになってしまう。
- 「しやすい」分け方を考えるときにフォーカスすべきポイントは、あくまでも「分ける目的」。その目的をしっかりと押さえておけば、バグに対してどう対処し、どう割り切って考えればいいのか見えてくるだろう。
(2)「しやすい」を作る3ステップ
- 目的が「ワクワクしやすい」であれば分けないという選択肢が有効。これによって客は掘り出し物を見つける「宝探し」の感覚を味わえるし、店側にとっても整理の手間を省けるので、コストを抑えられるメリットがある。一方、目的が「探しやすい」であればサイズや形ごとに分けるという選択肢が有効になる。厳しい目を持つ日本の消費者に対して信頼と安全をアピールすることもできる。
- 分け方を考える行為はその対象物によって異なる考え方はすべて同じ。
- 分けたいもの(対象物」をすべて書き出す
- 分け方を思いつく限り書き出す
- 何のために分けるのか(目的)を考えて、解決の糸口につながる分け方を1~3個選び、検討する
- 心の中では不便だと思いながらも、やり方を変えず、そのまま放置していないだろうか。そうしているうちに、気づけば50年経っていた、などということも起こりえない。そんなことにならないためにも、「何のために分けるのか」という「目的」は何かを強く意識してほしい。
(3)「わかりやすい」の作りかた
- 限られた資源を分配する方法は以下の3つ
- 必要原理:必要としている人に多くの資源を分配する方法
- 平等原理:必要性や貢献度にかかわらず、資源を均等に分配する方法
- 公平原理:その人の「貢献度」に応じて資源を分配する方法
- 3つに分けると選びやすい。雑多はものは「その他」という4つ目の箱を用意して、ひとまずこちらへざっくりと入れてみよう。大切なのは主要の3つ。目をつぶりたい情報は「その他」の箱に入れたことは認識しつつ、視界の外に出してしまう。それが「わかりやすい」につながる。
- 仕事をこちらに任せてほしいときには、あえて3つにしぼらず、5つや7つにして複雑化させる。「わかりやすい」より「わかりにくい」がいいこともある。「わかりやすい」分け方をせず、あえて「覚えきれないけど、何か大切そうだな」と思わせる、ちょっと複雑な分け方にすることが有効な場合もある。
(4)「動きやすい」の作りかた
- 集団を集団として捉えるのではなく、いくつかの属性に分けて視覚化することによって、解決の糸口が見つかる。
- セミナーの座席を「2席ずつ分ける」とうまくいく。この分け方の最大の利点は「端」しかないこと。そもそも、後ろより前の方が文字は「見やすい」。それでも前に座ろうとしなかったのは、座席の快適性が低いことが原因の1つ。この快適性を担保することで、人の気持ちは積極的になることが多い。
- セミナーに応募人数以上に来ることはない。100人の応募だからといって、最初から座席を100席置かないほうがいい。はじめは70席くらい置いておき、多く来た場合には、あらかじめ用意しておいたイスを、急遽足したように並べていく。こうするとお客さんは前のほうの席から座っていくことになるし、大盛況ぶりを演出しやすい。
(5)「整理しやすい」の作りかた
- ネットで整理整頓という言葉を調べてみると、一般的に「整理」とは「いるものといらないものを分けて、いらないものを捨てる」こと。「整頓」とは「いるものを、取り出しやすいく戻しやすいところに置き、その状態を保つ」こと。
- とにかく減らしてから、分類する。放っておけば、ものはどんどん増える。増えれば増えるほどハコに収まらなくなる。ハコの大きさより、ものの大きさを小さくしない限り、収まることはない。
- 書類を整理するには「捨てられるものを分ける」から「残すものを分ける」への思考の転換が必要になる。誰かから渡された書類の中から、「捨てられるもの」を探してはいけない。「残すもの」だけを厳選して分けるべき。
- 「使う」を少なくするコツを1つ伝授しよう。それは会議や打合せで配られた書類に直接メモを書かないこと。配布された書類は電子データで再びもらえばいいが、そこで自分が書いたメモを無くすと困るかもしれないという心理が働く。
- 「ポッセ=同志」、「ビッグアイデア・クラウド=知人」、「自己再生のコミュニティ=友達、親友」と言える。周囲との人間関係に悩む場合は、自分とつながっている人たちをこの3つに分類し、それぞれとどのような付き合い方をするか決めておくといいだろう。この3つに該当しない人については優先順位を下げ、失礼のない程度に距離を置くと決めておく。
(6)「話しやすい」の作りかた
- 誰かに頼みごとをする場合は、事前に5項目に分けて書き出してみる
- 具体的な内容(してほしいこと、期限、期待する成果物は?)
- 目的・背景(なぜ頼まなければいけないのか、重要性は?)
- 具体的なやり方(手順、予算、サポート体制、うまくやるコツは?)
- 相手のメリット(評価につながるか、成長につながるか、やりがいは?)
- なぜ、あなたなのか(スキルの視点、他の人よりうまくできるか?)
- たいていの場合、意見のある人は上(前)を向いているし、意見のない人は下を向いている。最悪なのは、下を向いている人に発言を促してしまうこと。こうなると、いきなり会議の雰囲気が悪くなってしまう。積極的に考えさせたい気持ちはわかるが、その人は意見を思いついていないから下を向いていることを理解しよう。
- 会議の発言を「賛成と反対」で分けるのではなく、「メリットとデメリット」で分けることで、若手も上司の前で意見が言いやすくなる。
- ホワイトボードを3分割するように縦に2本の線を引き、左から順に「問題(What)は?」「原因(Why)は?」「解決策(How)は?」と書いてしまおう。
- 板書は、会議の進行役がすべき。この会議をもっとも真剣にリードしていきたいと思っている人が板書したほうが、圧倒的に話をまとめやすくなる。
- 不満が溜まるのは、「自分」にとって大切なことと「相手」にとって大切なことが必ずしも同じではないから。この思考パターンを解消して、相手と「意識を合わせやすく」するためには、「相手にとって大切なこと」を把握することがとても大切。
- じつは、それは相手の「分け方」にあわらわる。ここをよくよく見てほしい。すると相手が「何を大切にしているか」が見えてきて、コミュニケーションの糸口が見つかるだろう。
3.教訓
一番「わかるなぁ」と思ったのは、セミナーの座席を1列複数人にせず、2席にするところです。自分も話を聞くなら前のほうがいいけど、休憩タイムでの移動のしやすさなどを考えて、後ろの端の席を選んだことは何度もありました。
新幹線でも、あえて3人席の通路側を選ぶときもあります。1人乗りの人用に、2人席の窓側から埋まっていき、3人席の真ん中は混雑時以外は空席となることもあって、意外と快適に過ごせます。(ちなみに、一番早く埋まるのは最後列です。気兼ねなくシートを倒せるし、空きスペースにスーツケースも置けます。)
そのような、相手がどういうことを「しやすい」と感じているか、そこに相手が重視している価値観があらわれます。何をすれば相手が動きやすい、整理しやすい、話しやすい、等々を考えていくのがいかに大切であることを改めて気づくことのできる良書でした。頼みごとをするときも上述の5項目を常に意識したいと思います。
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