VR(仮想現実)空間では「VRタレント」や「VR建築家」といった職業が生まれている。先進的な企業も宣伝や販売を目的に、VR空間を目指し始めた。新たな経済圏が立ち上がろうとしている。

(「ゆりの日記1日目」は「美少女記者と飛び込もう 24兆円VR市場」を参照ください)
少女「Yuri(ゆり)826」は目覚めた。同じ部屋で寝ていたほかの美少女たちも起き上がり、退室し始めている。隣で寝ていた、青い羽を持つ美少女「mystia(みすてぃあ)777」はすでにいない。もう仕事に行ったのだろう。
みすてぃあは実社会では宇都宮市に住む30代の男性だ。毎晩午前0時を過ぎた頃、一人暮らしをしている自宅でVR(仮想現実)ゴーグルを着け就寝する。世界最大のソーシャルVR「VRChat」の世界に行き、大部屋で皆と一緒に寝ている。朝を迎えるとVRゴーグルを外し、職場に向かうのが日課だ。

VR空間で寝ることを「VR睡眠」と呼び、VRChatの住民の間では一般的な生活習慣になっている。慣れればVRゴーグルを着けたまま熟睡できるようになる。
■主な連載予定(タイトルや順番は変わる可能性があります)
・中年記者が美少女に 24兆円市場に飛び込もう
・亡き母を分身AIで再生したい テクノロジーで乗り越える死の悲しみ
・ 虐待被害者も「今は幸せ」 ヒトより優しいAIパートナー
・「恋人ロボがヒトを救済」米メーカーCEOが拓く共生時代
・「私の妻は初音ミク」 性的少数者はLGBTだけじゃない
・仕事辞めVRタレントで生計 仮想世界に新たな職業と経済圏(今回)
・上司はAI、操られるウーバー配達員 人類の下僕化を回避せよ
みすてぃあにとって夜は、1人でいる自宅よりも虚構の世界の方が安心できる空間だ。「夜中に目が覚め、VRゴーグルを外して天井を見ると、『寂しい光景だな』と思ってかぶり直している」と言う。
職業は「VR建築家」
みすてぃあがVRChatで登録している「フレンド」は360人。その中にはVRChat内での活動で収入を得ている者が少なくない。
VRChatには世界中から入れ代わり立ち代わり、常時2万数千人が参加している。大勢の人がVR空間を暮らしの一部とすることで、独自の経済が回り出している。
みすてぃあのフレンドの一人「リーチャ隊長」は最近、実社会での仕事を辞めた。「VRChatをはじめとしてVR空間に関連する活動だけで生計を立てている」と語る。

リーチャ隊長はVR空間での日常を漫画にしてX(旧ツイッター)で発表している。VRChat内でイベントを主催している人や、商品をプロモーションしている企業からの依頼に基づき、宣伝になるような漫画を描くことで収入を得ている。
そんなリーチャ隊長はVRChatの世界では有名人だ。企業主催の仮想イベントの案内役を務めたり、有名セレクトショップが開催する仮想ファッションイベントに「VRタレント」として呼ばれたりして、収入を増やしている。
東京都文京区のそば店「手打ちそば田奈部」の店主で、VRChatでは3頭身のおじさんの格好をしている「tanabe」も、みすてぃあのフレンドだ。そば店を切り盛りする傍ら、2018年ごろからVRChat内の「ワールド」と呼ばれる空間を制作して収入を得ている。VR空間のいわば建築家だ。自身で経営するそば店の運営会社にVR部門を設けて、制作を請け負う。
プロモーションの一環としてワールドを立ち上げようとしている企業などが建築主となる。VRChatの規約にのっとった形でプロモーションするためのコンサルテーションも提供する。
tanabeは、「VRの世界で遊んでいるうちに楽しくなって、独学でワールドの作り方を習得した。おかげさまで順調に依頼をもらえている」と話す。
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