増え続ける「子どもたちの孤立」〜原因は日本の学校教育と児童福祉の「ズレた構造」にある!

虐待、貧困、施設入所、転校……

[Photo]iStock

施設の子どもがぶつかる学習における「4つの壁」

虐待や育児放棄、貧困などにより親元を離れ、児童福祉施設に来ている子どもたちは、学習面で「4重の壁」にぶつかります。

前回は「4重の壁」のうち、「家庭」と「一時保護所」について説明しました。今回は、「転校」と「児童養護施設」について知ってほしいと思います。

そこには「本人の努力が足りない」「意思がない」という言葉では片付けられない、もっと根深い構造上の問題があります。社会保障、公教育、児童福祉、医療など、あらゆる面で子どもたちが置かれている現状を知ることで、子どもたちが学習面で希望を感じられる環境づくりに必要なことが見えてくるはずです。

前編はこちらからご覧ください。

施設入所に伴う「転校」という壁

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3つ目の壁は施設入所に伴う「転校」です。

児童相談所は保護された子どもたちの措置を決めます。行政で保護し、児童養護施設をはじめとした施設(以下、施設)や里親など、親元ではない新しい生活環境を用意すべきか、それとも家庭に戻すか。親による虐待が改善される見込みが薄く、子どもの安全や健康が危ないと判断した場合、親元には戻しません。

児童相談所が対応した児童虐待数は毎年1万件ペースで増えている一方、施設の数はほとんど変わっていません。また、虐待や貧困等、改善までに長期間を必要とするケースが多くなっているため、施設に入ってくる子どもは増えても、施設から出られる子どもは少ないのが現状です。最近は一度施設に入ったら、そのまま保護期限である18歳まで暮らす子どもたちが多くなっています。

そのため施設の空きを待っている子どもは少なくありません。施設の職員によると、毎週のように児童相談所から「そろそろ空きはありませんか?」と電話がかかってくるそうです。

児童相談所は、子どもがもともと暮らしていた家庭や地域との物理的な距離や相性等を十分に考慮することなく、空きが出た施設にいち早く入所させるために手続きを進めます。その結果、子どもたちのほとんどは、もともと通っていた学校とは離れた場所で暮らすことになり転校が強いられます。東京で保護されて、山梨や茨城の施設に入所するケースもあるといいます。

たとえ一時保護所で学校に行けない期間が生じたとしても、もともと通っていた学校であれば、子どもの事情を理解し、勉強を教えてくれる先生やノートを貸してくれる友人がいるかもしれません。子ども自身も頼りやすいはずです。

しかし転校をすれば、学習面でも遅れをとってしまっているにもかかわらず、学校には頼れる先生や仲の良い友人はいません。ましてや生活環境も家庭から施設に変わるので、学校から帰っても知り合いは誰もいないのです。

親と離れて暮らすことになった現実を受け止められないまま、新しい出会いが次々とやってくる。上手く気持ちの整理がつかず、不登校になったり、保健室登校をする子どもたちは少なくありません。また、学校によって教科書や教え方等も違うため混乱してしまう子どもたちもいます。

私自身も親の仕事の関係で転校が多く、新しい学校に適応することにナーバスになった経験があります。親の仕事や転校の理由をよく聞かれました。虐待などで親元を離れて暮らすことになった子どもたちが、初めて会う人たちから親のことや転校理由を聞かれたら、なおさら心を閉ざし、友人を作りにくくなってしまうでしょう。

日本には留年制度もありません。私はアメリカの高校に一時期通っていたのですが、留年や進級制度に加え、各科目も3~4つのレベルに分かれていました。レベルや教科も自分で選択ができたため、英語や英語圏での教育経験が不十分でも学校生活に適応することができました。

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また、進路面談が定期的に行われ、自分のこれまでの状況や将来の進路と現在のレベルを照らし合わせながら、柔軟に変更することもできました。私の場合、英語が堪能でないことやアメリカの文化を十分に知らないこと、日本人は数学や暗記が得意であることを考慮してもらったり、友だちができやすいように合唱の授業等を選択したりしました。定期面談以外にも、食堂の隣に開放的なキャリアカウンセリング室があり、困ったことがあったらいつでも相談できました。

私の学校は一例ではありますが、日本の場合は、個人がどんな事情を抱えていようと、みんなと同じ形で進めなくてはなりません。放課後に先生や補助員が個別にサポートをしてくれたり、習熟度別のクラス分けも少しずつ増えていますが、現場からはそれがネガティブな意味で「特殊」というメッセージになってしまっているという声が多く、1人ひとりの「個性」というメッセージからは程遠い状況だと感じています。

そもそも子どもたちの生い立ちや教育を統一することは難しいので、最低限の保障はしつつも違いが劣等感・絶望になることなく、子どもの個性や家庭環境等に基づいてもっと柔軟に教育を受けられるようにしていく必要性を感じます。

深刻な児童養護施設の人員不足

四つ目の壁は主に児童養護施設の人員不足です。高齢者施設や保育所、学校等、教育・福祉における「人員不足」は大前提になってきている今、児童養護施設をはじめとした児童福祉施設も同じ悩みを抱えています。

家庭で虐待を受け、社会や大人への不信感を抱いている子どもたち。みんなとは違う環境で暮らしている自分を受け入れられないところから施設生活ははじまります。

施設では、まわりの大人、すなわち施設で働く職員は大忙しで話しかけられない。私やボランティアですら、職員の方に声をかけるには勇気が必要です。ましてや、これまで大人にちゃんと話を聞いてもらったり、悩みを打ち明けたら怒られて叩かれたりしてきた子どもたちにとってはハードルが高いでしょう。

なんとか不器用な形でSOSサインを出せた(例えば、意味もなくリビングをうろうろしてみたりした)としても、職員が忙しい時は「食事の前だからおとなしくしててね」、「寝る前だからそろそろ部屋にいっててね」などと言われてしまうケースもあります。

ほとんどの施設が社会福祉法人によって運営されており、財源は国と都道府県からの補助金です。国の基準では、一人の職員が同時に4人~6人の子どもを見られる程度の予算が出ています。厳密には、さらに様々な補助金を追加で申請することで職員の数を増やすことはできます。しかし、人員不足に悩む施設は、補助金を活用するための環境整備をする余裕すらないのです。

極端な言い方をすれば、親一人で4~6人の子どもを同時に見ているような状況なのです。

めまぐるしい施設職員の日常

では、施設職員はどんな生活を送っているのでしょうか。朝は子どもたちを起こし、朝食の支度をし、洋服をちゃんと着たか、持ち物や宿題を忘れていないか、連絡帳にサインをしたかを確認し、学校に行きたくないという子を説得し、子どもたちを送り出します。

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子どもたちが学校に行っている間、洗濯や掃除をして、職員間での情報交換、NPO等の外部団体との打ち合わせ、経費精算や行政に提出する資料作成、アンケート調査に回答する等の事務作業を済ませたところで、子どもたちが帰ってきます。

帰ってきた子どもたちに、宿題を終わらせるよう声をかけ、喧嘩をしてたら仲裁し、学校で大変なことがあった子と話をし、1人ひとりの宿題や連絡帳に目を通したらもう夕食の時間。支度をして、食事中はご飯を残さないよう、ゲームや携帯を見ないようにと伝えます。食事が終わったら、片づけをしながら、順番にお風呂に入れていきます。全員がお風呂に入り終わるともう寝る時間です。

このめまぐるしい日常に加えて、学校で三者面談や保護者会等の行事や部活の試合があったり、病院に連れていったり、新しいボランティアが来たりすると、もう大変です。職員が別の職員に残りの子どもの面倒をお願いし、学校や病院に行ったりもします。そうすると残された一人の職員は10人近くの子どもを同時に見ることになります。それが現実的でない場合には、早番の職員が残業をしてカバーしています。

ここで終わりではありません。施設は24時間体制なので、職員は3交代制で働きます。シフトによっては、時間ごとに担当する子どもが違うこともあります。時間で区切ると4~6人ですが、気にかけている子どもは10人以上になるのです。

また、施設退所者のアフターケアも職員に義務づけられています。これまで自分が担当してきた子どもたちのその後も気にかけなくてはいけません。時々施設を出て1人暮らしをしている子ども(もう子どもという年齢でないですが)から、体調を崩したという連絡がきたりもします。

お気づきのように、施設職員に子ども1人ひとりと丁寧に向き合う余裕はほとんどありません。数ヵ月も勉強が遅れている子どもが施設に入ってきても「宿題やった?」と声をかけることが精いっぱいなのです。ボランティア等外部資源を活用する機会があったとしても、子どもの精神面などが安定せず、トラブルを起こし、その対応に追われることの方が大変だと考え、頼らないケースも少なくありません。

子どもたちはもともと暮らしていた家庭に比べれば、衣食住は整い、暴力や暴言に常におびえている状況から脱することはできます。「家に比べたら施設は天国」という子どもももます。

一方で、多くの子どもたちは、まわりとは違う環境で育っていること、親から虐待を受けたこと、十分に愛されてこなかったこと、それでも親と会ってもう一度やり直したいこと、施設を出た後はどうしたらよいかわからず不安に思っていること……など様々な悩みを抱えながら生活しています。

勉強面でも学校になじめないまま、まわりとの明らかな学力差に苦しんだりします。授業中に手を挙げて、先生にわからないことを聞ける子どもは最低限の自信がある子でしょう。怒られることにおびえている子どもはわからないことを隠そうとします。

学校でも施設でも自分を気にかけてくれる大人がいない中で、「どうせ勉強しても将来どうなるかわからないし」「やってもやらなくても誰も気づかないし」などと思い、諦めてしまうことがあるのです。学習の成功体験がなければ、よっぽど強い意志がない限り、嫌いになるのが当然だと思います。

子どもたちの日々の悩みに目を向けて、手を差し伸べることができるように職員の人員配置をもっと改善していくか、職員以外のたくさんの人が子どもたちと関われる仕組みを(職員にこれ以上負担がかからない形で)作っていくことが急務なのです。

虐待した親を責めるのではなく、子どもたちへの理解を

3keysでは勉強の悩みを抱えた子どもたちと向き合えるよう、学習ボランティアを施設に送っています。そして、子どもたちの小さな成長、変化、悩み、不安に気づき、一緒に考えています。子どもたちが「自分がバカだからできないんだ」といった極端な解釈に陥らず、少しずつ前を向けるようになっていると感じています。

施設からは以下のような声を寄せて頂くこともあります。

初めまして、私は児童養護施設で働いて3年目になります。 私の施設では、最近ようやく学習支援ということに目を向け始めたところです。職員の視点から言うと、日常の業務・支援に加え、学習支援ということを組み込むことはとても困難で労力を要します。

まだまだ世間での児童養護施設に対する理解・認知は低く、現場では人手不足に頭を抱えることもしばしばです。体調が悪くても十分な休暇をとることが難しい職場です。そんな中、3keysさんのように継続的に子どもたちに対する学習支援をして下さることは、本当に助かります。3keysさんのような団体が増えたら・・・と思わずにはいられません。

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私は3keysの活動を通じて、施設で暮らす子どもたちと関わる人を増やすために様々な活動をしていますが、支援している子どもの数はまだ年間120名程です。

児童相談所が対応する児童虐待の件数は年間9万件、虐待で命をなくす子どもは年間140名、施設等親元と離れて暮らす子どもは約5万人。まだまだできていることはほんの一握りです。

子どもたちの未来を明るくするには、もっと1人ひとりができることを増やしていくしかありません。私がこの仕事をして確信しているのは、親も施設も学校も、誰一人として最初から子どもを傷つけようとして傷つけている人や、十分な対応ができていないことに苦しんでいない人はいません。虐待を受けた子どもたちが、それでも大好きな親やまわりの人を責めるのではなく、子どもたちを理解し、自分なりにできることをしようと動く人が少しでも増えていくことを願っています。

 

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