「第四のメガバンク」SBIと比較してわかった、地方銀行のヤバすぎる現状

決算説明会資料にその差が現れている

投資家に情熱を持って語りかけられるかどうか

もうここ数年来のテーマではあるが、地銀経営が本当に行き詰まっている。去る5月19日には東証などに上場する地銀や複数地銀がホールディングスにぶら下がる金融グループ77社の3月決算が出揃ったが、その半数弱の36社で最終利益の減少、赤字が発表された。

また、経営統合への動きも加速化していて、5月14日には共に青森県を地盤とする青森銀行とみちのく銀行が経営統合に向けた協議に入ったことが発表された。

かつて地銀といえば、県庁や電力会社と並びUターン志向の強い学生には燦然とした輝きを持つ就職先と考えられていた。その地銀がなぜ行き詰まったのか、IR活動の視点でその原因を探ってみたい。

photo by istock
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筆者の私的な勉強会での議論にはなるが、説明会が奏功して高騰していた株価が適正な水準に戻った(要は下がった)場合は、長い目で見てそのIRは成功だったと言えるだろうし、むしろ平時の決算前のIRが効いているならば、決算発表がサプライズを呼んで株価を騰貴させる(要は爆上げさせる)筈はない、という議論もある。

その議論からすれば、決算発表というイベントが、通常見られる株価の振幅の幅を大きくしない会社こそが、IR巧者と言えるはずだ。

一方で、私が地銀のIRが総じて「いいIR」ではなく、「残念なIR」の事例だと論ずるその評価軸は、5月2日の記事〈株価「爆上がり」の日本電産と「伸び悩む」パナソニックの間にある「明確な差」〉に示してある。

つまるところ、パナソニックのIRは結局は「受託者責任の解除」を主とする受動的な優等生のIRで、「我が社にぜひ投資してください」と投資家に情熱を持って語り掛ける、日本電産のような「航海者」としてのIRではない、と論じたまさにそれが評価軸だ。

主観的な判断が入ってしまう領域ではあるが、そこにアニマルスピリッツが見えるのかどうか、が重要だ。地銀について言えば、起業家というのではなく銀行家として、それでいいのか、良かったのか、という軸ともいえる。

また、本稿では特定の地銀の説明会を取り上げるが、あくまで地銀の活動全体を問題意識に据えている、と最初に断っておく。

地銀本来の役割を示すシナリオが見えてこない

では地銀のIRの何が問題なのか、結論を言えば、地銀のIRに欠けているのは「その地域の経済を語り、地域経済の主として自分たちが、どのような産業をその地域に興し、その産業の繁栄を受け取ろうとしているのか」というシナリオがまったく見えないという点である。

我が国の地銀は預貸の利鞘だけでなく、長くその地域で集めた預金を、中央や国に還流させ、その運用益でこそ潤ってきたという歴史を持つので無理はない。だが、せっかくの決算発表や説明会の場を使って「自分たちの地域にぜひ投資して欲しい、自分たちが融資するこの地域には明るい未来がある筈だ」というメッセージを地域経済の代表者として伝えきれていないのは問題だ。

今年の大河ドラマでは日本資本主義、株式会社の父と称される渋沢栄一が取り上げられているが、彼が興した最初の株式会社は第一国立銀行だったのは象徴的だ。銀行こそが、産業を興すその中核であり、なによりも銀行家(バンカー)とは、未来を見据え、やむにやまれぬ企業家精神、アニマルスピリッツに促され、次の産業を興そうとする起業家を金融の側面で支援し、その成長を助ける役割を担っていたのではないか。

とすれば、地銀の一番の役割は、地銀は中央の投資家に都市を基盤とする企業に融資や投資として還流する資金の提供者としてだけではなく、せっかく与えられた決算発表の場を、自らの業績の基盤となるその地域の産業や経済について説明し、様々な回路で中央の投資家が持つ資金をその地域の産業や経済に呼び込んでくる機会としても使うべきではなかったろうか。

しかし、残念ながら多くの地銀は、地域地域の「集金マシン」として機能し、我が国の地方は観光やサービスに活路を見出すという隘路に嵌まり込んでしまった。

そして、皮肉なことに地域経済が没落し多くの地域が観光やサービスに依拠する割合を増やしたことが、新型コロナ感染症とインバウンド需要の一気の枯渇の中で、事業存続にも足掻く企業群を生み、それら企業群への引当金の計上が、地銀の喉元に切っ先を向けているのが、2021年3月期決算を通じた多くの地銀の姿でもある。


拡大画像表示図1出所:静岡銀行HP「2020年度 決算の概要」より
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さて、図1に示したのは静岡銀行が5月14日に行った決算説明会で使われた資料のスライドになる。静岡銀行は千葉銀行や横浜銀行などと並び、預金量や時価総額など様々な地銀のランキングで常に上位を占める名実ともに地銀の雄と言える銀行だ。

アナリストを啓蒙していく努力

ただ、最初に公平に記すが、静岡銀行のIRは、評価できるとは言い難いIRが多い中位地銀などに比べ、さすがに洗練され、その資料もよくできている。ほかにも地銀の雄とされる福岡のふくふくフィナンシャルや京都銀行なども、ここ数年、見違えるような資料を作成し、SDGs対応などにも目を配った活動を行い始めている。

それを認めたうえで、それでもその静岡銀行にして、こういった点に改善点がある、という事例と考えて欲しい。

静岡銀行はこの日、柴田久頭取がプレゼンに立ち、オンライン説明会でここに示したスライドを含め本編40枚のスライドを45分かけて説明している。このスライドはその17枚目のスライドになるが、ここで静岡銀行は長期ビジョンとして「地域の未来にコミットし、地域の成長をプロデュースする企業グループ」を目指すことを宣言している。

そのビジョンは、まさしく地域経済を動かす主役としての地銀のビジョンに相応しいものだろう。しかし、ではその地域経済の特徴は何であって、コロナ禍における現状はどうであって、現状を地域の未来にコミットする銀行としてどう分析し、どう地域の未来をプロデュースするのか、については、本編でもプレゼンでも説明はなされていない。

プレゼンで触れられているのは、ベンチャーファンドへの出資を通じて地域ベンチャーを育てていくという説明がある程度に留まる。そこも他社任せなのか、という感想を持つ投資家もいるだろう。

地域経済については次のような2枚のスライドが、参考資料に付けられている。それぞれ、静岡県の県経済の位置づけと現状、経済規模を示したものだ。

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1枚目については、よく見ると概要ではあっても現状ではない気もするが、本当に投資家に語り掛けるべきものは、この2枚から派生するものではないだろうか。

それが長期ビジョンに示す「地域の未来にコミットし、地域の成長をプロデュースする」銀行の投資家に語り掛けるべきシナリオなのではないか。しかし、残念ながらこの2枚は参考資料であって、実際の説明会でプレゼンされていない。

躍進を続けるSBIのパフォーマンス

もちろん、説明すべきは終わった期の計数であり、システム戦略や商品戦略、山梨銀行とのアライアンスであり、店舗戦略であって、実際に参加者からの質問もその領域に集中する、そうした現実的な反論が返ってくるのは理解できる。

しかし、自発的な決算説明会をそのような場にしてしまい、前例化させてしまったのは、自分たちだったことは自覚すべきだろう。また、確かに日本のアナリストの多くが計数に囚われ、想像性を働かせた質問が少ないことはそれぞれが担当する業界を超えた事実である。

しかし、アナリストを啓蒙し、日本の資本市場を企業価値創造のための市場に変えていく努力もまた、資本市場を使う発行企業の側の責務ではないだろうか。

少なくともこの説明会で、静岡銀行が「地域の未来」をどう創造しようとしているのか、は全く見ることができない。もちろん、この説明会は受託者責任の解除の場としては機能している。

多くの人材豊富な大企業の資料がそうであるように、ESG/SDGsへの取組についても良く理解できる。優等生が合格点を取るために書いた回答として悪いものではない。しかし、そこに溢れるような情熱は感じられない。

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さて、一方で良いIRとして比較の対象として取り上げるのは、その地銀に対して地方創生を旗頭に、「第4のメガバンク」構想に沿って提携戦略を展開するSBIホールディングスになる。

野村證券出身でソフトバンクで孫正義のもと辣腕を揮い、もう昔話になってしまったが、ライブドアのニッポン放送買収のような局面でフジテレビのホワイトナイトとなったことでも有名な北尾吉孝社長が率いるSBIホールディングスは、ネット証券のSBI証券を中核とした金融グループとして躍進を続けている。

株価は雄弁に何か語る、という意味で、10年前、2011年5月末の株価と2021年5月末の株価を比べてみると、SBIホールディングスが785円から2,763円へと352%、約3.5倍に株価が上昇しているのに対して、静岡銀行は745円から867円へと116%、約1.2倍ほぼ横ばいの状態だ。

また、地銀を代表する東北の雄、七十七銀行は1,565円が1,324円と85%、逆に株価は下降している。ちなみに同じ期間の日経平均はアベノミクスの恩恵を受けて、9,694円から28,860円と、298%、SBIホールディングスほどではないが、約3倍の上昇となっている。

多岐にわたるプロジェクト

業態の異なる企業を比較することに意味はないという議論もあるだろうが、株もまた商品と考えれば、全ての株は同じ土俵で比較可能だろうし、SBIホールディングスと地銀とは同じ金融業態で括れる企業であり、それ以上の絞り込みに、何の意味があるのかは分からない。

株価が語るものは簡単で、SBIフィナンシャルグループが地銀連携の一方の盟主になりつつあることすら、この株価推移が語っている。

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そのSBIフィナンシャルグループは、4月28日に北尾社長がプレゼンテーターとなって決算説明会を行っている。実に188枚のスライドを使って、1時間45分という時間を、ほぼ彼の独演会という形での説明会だ。(参考:https://www.sbigroup.co.jp/investors/library/presentation/pdf/presen210428.pdf)

事業意欲が旺盛で、金融サービスやアセットマネジメント以外に、バイオ事業も抱えているのがユニークだが、ほぼ全てのスライド、プレゼンから溢れるのは、投資家に対しての自社のアピールであり構想であり、その構想の検証になっている。

地銀に係る領域も豊富な材料が説明されているが、いかに地方経済に係るのか、地域経済をプロデュースするのか、という意思の発露としては、大阪・神戸地域にフィンテック企業の集積地を作り、関西以西の地方大学などとも連携し、産業クラスターの形成を推進する、という構想が語られたり、資本業務提携を行った島根銀行の地盤である島根県で、具体的にレストランなどの店舗開発で実績も持つバルニバービ社と組んだ地方創生プロジェクトの展開を行っていくことなどが挙げられている。

アニマルスピリッツに溢れている

地銀各行も本当に語るべきなのは、このような地方創生のシナリオではないだろうか。地方が衰退していったのは、地銀各行がこのような形で語るべきシナリオすら、実は持っていなかったからではないか、だとすれば、構想力を持って地銀再生を図る主体の登場は、日本の地方にとって朗報ではないか、少なくともそう感じさせるものが、この説明会には存在する。

ただ、SBIについては、あまりにその内容が豊富で多岐に亘るのと、1時間45分の説明、188枚のスライドという時間の長さや資料の枚数が、焦点を絞った効果的な活動なのか、という意味では問題があるので、本当の意味での良いIRなのかには議論があるだろう。

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しかし、アニマルスピリッツが溢れているという意味では、日本電産にも負けない説明会が開催されている。YouTubeでも視聴可能なので、地銀関係者はぜひ一度視聴されるといいと思う。

また、図3については、コロナショック以後、京都銀行の株価が好調なのに気づかれるだろう。これは、withコロナの時代にあってテレワーク関連など先端領域に携わる電子部品メーカーの集積地が京都であることに相関性がある。

その地域の経済の盛衰こそが、その地域を地盤とする地銀の盛衰そのものであることが株価推移からもうかがえる。日本の地方創生、いや再生は、地銀の覚醒からしか始まらない。来期の決算説明会ではSBIホールディングスに負けず、地銀各行がそれぞれの地方再生のシナリオを投資家に対して語られることを心から願う。

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