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携帯電話の電波で「人の流れ・多さ」を測定できる――NTTと上智大学が世界初の実証に成功

 NTT(持株)と上智大学は26日、商用電波の同期信号における“電波の揺らぎ”をAI解析し人物を検出する実証に成功したと発表した。6G時代に向け、既存の移動通信システムにセンシングという新たな機能を統合することで用途の拡大が期待される。

 次世代通信技術「6G」では、通信電波を用いたセンシングおよびコミュニケーション「ISAC(ntegrated Sensing And Communication)」がトピックとしてあげられている。今回の実証は、ISACの有効性の評価を目的として実施された。通信用の電波の伝達情報をそのまま活用しセンシングできるため、通信機器があればよく、新たなセンサーやIoTデバイスなどを導入する必要がない。また、対象を直接撮影しないため、プライバシーに配慮しつつ、夜間や見通しが効かない場所などでも利用できることが期待される。

ISACの活用イメージ

 4G LTEの電波を使って実証された。上智大学四谷キャンパスの屋外通路で行われ、通行人数をカウントする実証を実施した。実験環境として、キャンパス内で設置、運用されている無線基地局からの電波(バンド1、2GHz帯)を、歩道に設置した2本のアンテナで受信し、信号を解析した。解析では、受信強度(RSSI、Received Signal Strength Indicator)とチャネル状態情報(CSI、Channel State Information)を取得した。あわせて、有効性を確認するために通過人数のみを計測するシステムを設置し、10時30分~14時までの人通りの差が生まれる時間帯で計測した。

実験環境

 その結果、受信強度の分散は通行者数と類似した傾向が見られた。あわせて、受信強度とチャネル状態情報から混雑度を推定する取り組みも実施、演算処理が軽量な受信強度と高次元なデータで処理が重いチャネル状態情報に加え、屋外環境ならではの風などの影響を加味したデータ拡張技術を用い、推定誤差を小さくできた。

通行者数とRSSIの移動分散の推移。青色が通行者数の推移、桃色がRSSIの移動分散、灰色背景の時間帯は授業時間、白色背景の時間帯は昼休みなどの休憩時間
通行者の人数推定結果

 実際の商用電波を利用することで、基地局や通信端末が存在するエリアをそのままセンシングエリアにでき、センサーデバイスの設置有無も関わらない。3GPPでは、ISACのユースケースとして、線路や高速道路などの人や動物の侵入検知や、交差点の死角にある障害物の検知、ドローンなど飛行体におけるGPSの誤差が大きいエリアでの位置追跡などが期待されている。

 飛行体を対象としたセンシングへの応用についても、今回の実証で培った技術は、地上の基地局を活用して測定できる。HAPSや低軌道衛星を経由した通信電波についても、今回の技術を応用できる。基地局の指向性やビームフォーミングなどを組み合わせれば、範囲を絞って計測することも期待できるという。

 今回は、商用の通信電波を用いた屋外センシングを実証できた世界初の実験だったといい、従来の商用電波を用いた統計「モバイル空間統計情報」と比較しても端末を持ったユーザーだけでなく、その周囲の状況まで測定できる点はアドバンテージだという。今後は、2030年頃の実現を目標に、ISACのサービス展開に向けた検討を推進するとしている。