2025年5月20日
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エストニアのタルトゥ大学などに所属する研究者らが発表した論文「How satisfaction varies among 263 occupations」は、性格特性(人格、パーソナリティ)の影響を考慮し、職業間の満足度の違いについて調査した研究報告である。
この研究では、エストニア・バイオバンクに参加した5万9,042人のデータを分析対象とした。参加者は合計263種類の職業に従事しており、研究者たちは事前登録した分析計画に基づいて、これらの職業間における生活満足度(Life Satisfaction)と仕事満足度(Job Satisfaction)の違いを調査した。
この調査の特徴として参加者の性格を考慮している点が挙げられる。例えば、楽観的で外向的な人はどんな状況でも比較的幸せを感じやすい傾向がある。逆に、心配性で神経質な人は同じ状況でも不満を感じやすい。このような性格の違いは、人の満足度の大部分を説明し得るほどに強力な影響力を持っている。
この事実を踏まえると、例えば「医師は満足度が高い」「販売員は満足度が低い」といった単純な職業比較には大きな問題がある。なぜなら、もしかしたら医師という職業に就く人が、もともと自分の満足度を高めやすい性格特性を持っているだけかもしれないからだ。
研究チームは、各参加者の性格特性を詳しく測定した。単に「外向的か内向的か」といった大まかな特性だけでなく、「誤解されている感覚」「わくわく感の欠如」「優柔不断」「退屈」「報われない感覚」「責任者になりたい」「複雑な問題を解決するのが好き」「人に影響を与える才能を持っている」などといったより細かな特性まで評価した。そして、これらの性格要素の影響をなるべく取り除いた上で、純粋に職業そのものが満足度にどう影響するかを分析した。
分析の結果、職業間で生活満足度と仕事満足度に違いが見られた。
まず、生活満足度が高かったトップ10は次の通り。
生活満足度に関してのワースト10がこちら。
続いて、仕事満足度に関してのトップ10はこちら。
仕事満足度に関してのワースト10がこちら。
注目すべきは、板金工や複合作物・畜産生産者という、いわゆるブルーカラーと呼ばれる仕事も、生活満足度で高い順位を示していること。高い満足度が、ホワイトカラーの専門職に限定されないことが浮き彫りになっている。
興味深い発見として、生活満足度については性格特性を調整すると職業間の差は小さくなったが、仕事満足度については変わらず差が大きいまま残った。これは、どんな性格の人でも、特定の職業(例:宗教関係者、医療専門職、作家)では仕事に満足しやすく、一部の職業(例:工場労働者、調査員、販売員)では仕事に満足しにくい傾向がある可能性を示している。言い換えると、本当にその職業そのものの特性(仕事内容、環境、報酬など)が仕事満足度に大きく影響していることを示唆している。
O*NET(職業や労働者属性に関する米国のデータベース)の職業特性データとの関連分析では、「現実的」(Realistic)な興味と関連した職業(実際に機械や物体に対して手に触れたり、技術的な問題解決を伴ったりする活動を含む仕事)に従事する人々は生活満足度と仕事満足度が高い傾向にあった。逆に「企業的」(Enterprising)な興味(リーダーシップ、交渉力、競争力への関与など、組織や社会に影響を与えること)と、「慣習的」(Conventional)な興味(事務作業など、明確なルールがあり予測可能な安定したルーチン作業)を特徴とする職業は、両方の満足度と負の相関を示した。
また職業の「威信」は、生活満足度や仕事満足度との有意な関連を示さなかった。このことは、社会的地位の高い仕事が、必ずしも満足度が高いわけではないことを示している。
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