どんな形状でも「公平なサイコロ」作れる技術? 逆に出目の確率操作も可。NVIDIAやAdobeの研究者ら開発【研究紹介】

2025年5月30日

山下 裕毅

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米カーネギーメロン大学やNVIDIA Research、Adobe Researchなどに所属する研究者らが発表した論文「Putting Rigid Bodies to Rest」は、複雑な形でも均一な確率で各目が出る、公平なサイコロをつくれる技術を提案した研究報告である。

▲3Dプリンターで製作した特殊なサイコロ。両サイドにある複雑な形状の物体は、猫とアルマジロ型の公平な3面サイコロ。

まず「転がり」の計算手法を確立

サイコロを転がすと、最終的にどの面が上を向いて止まるだろうか。剛体が転がって静止する際の挙動を予測するということは、一見単純な問題のようだが、実際には複雑な物理現象である。この問いに答えるため、従来はコンピュータで何千回も物理シミュレーションを繰り返し、統計を取る必要があった。

しかし、この方法は計算コストが高く、数値的な不安定性やパラメータ調整の困難さといった問題を抱えていた。特に複雑な形状では、信頼性の高い結果を得るために膨大な計算時間を要することも珍しくなかった。

研究チームは、物理シミュレーションを一切使わずに、純粋に形状の幾何学的性質だけをもとに、各面において停止する確率を瞬時に計算する方法を開発した。

この手法の基本的な考え方は、物体が転がる際に重心の高さがどう変化するかに着目することである。物体が安定して止まるのは、重心の高さが最も低くなる配置である。

▲物体が重力に従って転がり、頂点接触から辺接触を経て最終的に面で安定するまでの過程。左が実際の形状、右が計算に使用する凸包での同じ転がり運動を示す。

研究チームは、まず物体の外側を包む最小の多面体(凸包)を考慮。次に、この凸包の各面、辺、頂点が地面に接触したときの物体の向きを、ガウス写像という手法で体系的に整理する。ガウス写像とは、物体の表面の各部分がどの方向を向いているかを単位球面上に描き出したもので、凸包の面は球面上の点に、辺は大円弧に、頂点は球面多角形として対応する。これにより、物体のあらゆる向きを球面上の位置として表現できる。

▲様々な3D形状(上段)とそれぞれのガウス写像(下段)

具体的には、物体を様々な向きに傾けたとき、重力と反対方向のベクトルが球面上のどこに位置するかで、どの面、辺、頂点が地面に接触し、重心がどの高さになるかが決まる。この重心の高さは球面上の滑らかな関数として表現される。物体は重力に従って重心が最も低くなる向きへと転がっていくため、この球面上の関数の勾配に沿って物体の向きが変化する経路を追跡できる。

全ての可能な「転がり」の経路を解析することで、初期の向きから出発して最終的にどの面で安定するかの確率を計算できる。

この手法の計算速度は、従来の物理シミュレーションと比較して、単純な形状では400倍、複雑な形状でも60倍に及ぶ高速化を実現している。例えば、「Pass the Piggies」という、豚の形をしたサイコロの6つの静止配置とその確率を、わずか3ミリ秒で計算できる。

▲豚型サイコロ「Pass the Piggies」

「逆設計」に応用、任意の確率分布のサイコロをつくる

さらに、この手法が微分可能であることを利用し、逆設計(各面に狙った確率で止まるサイコロの設計)への応用も可能である。例えば、「2枚のコインを投げたときの表の枚数と同じ確率で各面が出る3面サイコロ」や「『2個の普通のサイコロの合計』と同じ確率分布を持つ11面サイコロ」などを自動的に設計できる。つまり、どんな複雑な形状でも公平なサイコロを製作でき、反対に、出目の確率を有利に操作した不公平なサイコロも製作できるわけだ。

設計プロセスでは、初期形状から始めて、各面の静止確率と目標確率の差を最小化するエネルギー関数を定義する。このエネルギーの勾配を計算し、形状を反復的に変形させることで、望みの確率分布を実現する。

▲2個の普通のサイコロの合計と同じ確率分布を持つ11面サイコロの設計過程
▲確率分布を設定した複雑な形状のサイコロを製作できる

これらの設計から3Dプリンターで製作したサイコロを実際に転がし、300回から1000回の試行で統計を取った。その結果、いくつかの例では、理論的な予測と実験結果がよく一致することが確認された。ただし、勢いよく転がした場合には運動量の影響で予測とずれることもあり、これは今後の課題として残されている。

Source and Image Credits: Hossein Baktash, Nicholas Sharp, Qingnan Zhou, Keenan Crane, Alec Jacobson. Putting Rigid Bodies to Rest.

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