光子の過去が「未来的にどう観測するか」で変わる? 二重スリット実験のあの現象、広島大が検証【研究紹介】

2025年6月5日

山下 裕毅

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広島大学大学院のQuantum Frontier Group(QFG)の研究者らが発表した論文「Experimental evidence for the physical delocalization of individual photons in an interferometer」は、光子が干渉計の中をどのように通ったかは、最終的にどのような状況で検出されるかという「未来の測定状況」によって決まることを、偏光の回転を使った実験で観測した、とする研究報告である。

研究背景:量子の不思議な振る舞い

量子力学の世界では、光が示す不思議な振る舞いが長年研究者を悩ませてきた。有名な「二重スリット実験」では、2つの細い隙間(スリット)が開いた板に光を当てると、向こう側のスクリーンに縞模様が現れる。これは光が波として2つのスリットを同時に通り、干渉した結果だと説明される。

二重スリット実験の概要図(Wikipediaより引用 File:Double-slit.svg by Original: NekoJaNekoJa, Vector: Johannes Kalliauer. From Wikimedia Commons, licensed under CC BY-SA 4.0.)

興味深いのは、光の粒である光子を1個ずつ発射した場合の現象だ。粒子であれば、どちらか一方のスリットを通ってその延長線上に点がつくはずだが、実際には、この場合にも縞模様が現れる。これは光が波と粒子の両方の性質を併せ持つ、「波動と粒子の二重性」を示している。

そして最も奇妙なのは、どちらのスリットを通過したかを検出器で観測しようとすると、干渉縞が消えてしまうことだ。まるで観測という行為が光の波の性質を失わせ、粒子としての性質を露わにするかのようである。

研究内容:「相互作用を弱くした測定」

このような量子力学の謎に対し、研究チームは「相互作用を弱くした測定」というアプローチで挑んだ。通常の観測が量子状態を乱してしまうのに対し、この手法は光子への影響を最小限に抑えながら、その振る舞いを探ることができる。

研究チームは、光子の通り道を2つに分けて再び合流させるSagnac型干渉計を使用した。この装置では光をビームスプリッターで2つの経路に分割し、片方の道では光の振動方向(偏光)を右に、もう片方では左に、ごくわずかな同じ角度だけ回転させる。この回転角を極めて小さくすることで、干渉パターンをほぼ壊すことなく、光子がどのように経路に分配されているかを調べることができる。さらに合流後の2つの出力ポートで、位相差を調整することにより光の検出が多い場所と光の検出が少ない場所の条件を作り出して観測した。

▲実験のセットアップの概念図。左上から光を入射してBS(ビームスプリッター)で2つの経路に分割、再びビームスプリッターで合流する。光子は「+output」か「-output」のどちらかで検出され、それぞれ光の検出が多い場所と少ない場所に調整されている。

実験の結果、予想を超える現象が観測された。光の検出が多い出力場所では、偏光の回転角が小さくなっていた。これは1個の光子が両方の道を通り、いわば右回転と左回転とで互いに打ち消し合ったことを示している。特に干渉が最も強い条件では、1個の光子が完全に半分ずつ2つの経路に分かれて存在していることが確認された。

一方で、光の検出が少ない場所では、回転角が通常の50倍以上に増幅されていた。これを説明するには2つの回転が打ち消し合うのではなく、逆に強め合っている必要がある。本来は逆方向に回転するはずの偏光が同じ方向に回転しているということになり、両方の経路に関わっているが通常では考えられない極端な関わりになっていることを示している。

この実験が示すのは、光子の振る舞いが初期状態だけでなく、「最終的にどうやって検出されるか」に依存するという点だ。つまり、未来の測定状況によって過去の物理現象が決まるという、量子力学特有の不思議な現象が実際に起こり得ていることが示された。

Source and Image Credits: Fukuda, Ryuya, et al. “Experimental evidence for the physical delocalization of individual photons in an interferometer.” arXiv preprint arXiv:2505.00336 (2025).

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