イラストレーターの「グッズイラストのお仕事」大解剖! VTuber企画を元にディレクターにインタビュー
イラストを描いていて、「グッズイラストのお仕事がしたい」「自分でグッズを作ってみたい」と思ったことはないでしょうか?
今回は、GENSEKIで開催するアート展を元に「グッズイラストのお仕事」を大解剖!
「あおぎり高校 公式美術部 おしゃデリシャスなアート展 presented by GENSEKI」のグッズのポイントやお仕事の流れを、ディレクターと一緒に解説します!
グッズイラストのお仕事、全体の流れは?

――グッズの制作は、どんな流れで進むのでしょうか?
中村
キャラクターグッズはいろいろな目的で作られます。グッズを出すこと自体が目的だったり、主体となる企画を盛り上げるためだったり、販売するためだったり。目的に応じて制作の流れにもいろいろなパターンがあります。
そのためあくまで一例になりますが、今回開催する「あおぎり高校 公式美術部 おしゃデリシャスなアート展 presented by GENSEKI」(以下アート展)はこのように進めました。
- 企画制作
- グッズの選定
- イラストレーターの選定
- アート制作
- グッズ製作
中村
GENSEKIは「GENSEKI art book」や「GENSEKI展覧会」といったイラストレーターさんとの取り組みを広げてきました。次のステップとして、コラボレーションでイラストレーターさんの可能性を広げたい、さらに新しい挑戦がしたいという想いがあり、今回のアート展を企画しました。
アート展には、あおぎり高校のメンバーたちの普段とはひと味違った姿を、イラストレーターさんのオリジナリティを込めたアートとして観ていただこう、というコンセプトがあります。
この「アート展」の企画を長く楽しんでいただくために、今回のグッズを制作しました。
小島
今回作ったグッズのラインナップは、アート展らしさがある「A4サイズ相当の複製原画」と、手に取りやすく身近に感じるものとして「ふるふるアクリルミニアート」「ステッカーセット」「A5色紙」「フェイクチケット」「缶バッジ」「アクリルミニフィギュア」になりました。こうしたグッズの種類はアート展の準備と同時進行しながら、企画全体のバランスを見つつ検討しました。
グッズイラストを描くのに必要なスキルと機材
――こうしたグッズイラストを描くには、どんなスキルが必要ですか?
中村
グッズイラストのお仕事では、キャラと小物モチーフなどである程度、レイヤー分け が必要になることがよくあります。
例えば、今回制作した「ふるふるアクリルミニアート」は、透明の箱型のアクリルの中に食べ物モチーフの小さなアクリルパーツとビーズを入れ、シャカシャカ振って楽しむグッズです。このパーツごとにレイヤー分けして描いていただく必要がありました。

ふるふるアクリルミニアート(一部)
小島
グッズはキャラの向きやモチーフの指示がある場合も多いので、対応いただける基礎画力も必要です。絵柄の面では、拡大・縮小・再配置してもきれいに見える線や塗りがポイントですね。
また、今回に限っては、オリジナリティがひと目でわかる・作家性が確立されている方、というのも候補要件でした。ただし、元のイメージに寄せられるか・オリジナリティが必要かは、作るグッズによって変わります。
もしもグッズイラストの仕事をしたい場合、例えばオリジナル衣装を考えるのが得意、といったご自身の「得意なことがひと目でわかる」ようになっていると良いと思います。
中村
お仕事面では、進行のやりとりが途切れなく連絡できるか、わからないときや困ったときにコミュニケーションが取れるか、がとても大切です。
機材面では、印刷用の高解像度のデータが扱えること。さらにRGB・CMYKといったカラーモードや「塗り足し」などの印刷用語の知識もあると、スムーズにお仕事のやり取りができると思います。
今回は「大きく印刷したアートを展示する」企画なので、A2サイズ原寸(420mm×594mm)の大きなデータが扱えるかも重要でした。
小島
機材面は全てのお仕事で必須ではないのですが、たくさんお仕事をするようになったら自然とスペックも必要になってくるので、少しずつでも揃えておいて損はないと思います。
グッズイラストを描くイラストレーターはこうやって探している
――イラストレーターの候補はどうやって探していますか?
小島
基本的にはSNSなど、ネットの情報をよく見ます。イラスト企画のハッシュタグなども追っていて、日頃からキャッチーなイラストが描ける方を探しています。ただ、やはりネットだけでは探しきれないので、たくさんイラストが載っている本やギャラリーの展示、イベントなども見て回ることはあります。
中村
ご縁があった方が、GENSEKIに登録してくださっているとうれしいですね。
小島
こちらを知ってくださっているとわかると、声もかけやすくなるのでありがたいです。
――GENSEKIの登録一覧もよく探されるのでしょうか。
小島
今回に限らず、クリエイターを探すときは必ず見ています。企画コンセプトに近い過去のコンテストがあれば応募作品一覧を見ますし、キーワードでタグ検索することも多いです。

作品タグは最大10個まで設定できる
中村
例えば今回は「あおぎり高校」と「食」がテーマなので、「お菓子」や「食べ物」などのモチーフや、オリジナル衣装を想定して「レース」「ロリータ」「Y2K」などのファッションワードで検索をしました。
小島
服のデザインが描けるというのは、イラストレーターさんにとって身に付けておくといいスキルだと思います。必要なイラストが男性・女性どちらの場合も、ファッションのイメージで探すことは多いですよね。
ほかにも「デザイン寄り」「サブカル」「ファンタジー」など絵柄のジャンル傾向や、得意なことがアピールできるような具体性のあるキーワードは助かります。
――膨大な作品数になりそうですが、どれくらい見るのですか?
小島
なるべく投稿される全作品を見るようにしています! 特に「クリエイターから探す」の欄はほとんど見ています。作品で探すよりもクリエイターで探す方が、ページ数がまとまって助かるので、このサムネイルで得意分野がわかりやすくなっていると、依頼にマッチしやすいと思います。

「クリエイターから探す」一覧
ちびキャラグッズのお仕事に求められる「バランス力」
――ここまでは一枚絵を利用したグッズイラストのお話でした。ちびキャラグッズのイラストレーターの場合は一枚絵と基準が違うのでしょうか。特に必要なスキルはありますか?

アクリルミニフィギュア
中村
ちびキャラグッズの場合は、一人の方にシリーズ全員をお任せすることが多いです。個別のイラストのクオリティを保ちつつ、全体のバランスを見る力も必要になってきます。
小島
発注時にポーズを細かく指定することもありますが、コンセプトだけ伝えて自由に描いていただく場合もあるんです。頭身のバランスは揃えつつ、顔と体の向きやポーズが被らないよう描ける力は大切です。
誰かと誰かが似すぎないバランスが全体で取れる、ひとりひとりの衣装に差をつけつつ、全体で統一感のあるデザインができる方だと、発注側もとても助かります。
中村
今回は実際のケーキに見立てた台座にちびキャライラストを展示するブースがあり、立体配置にあわせた向きの依頼をしました。そういった仕様に沿う制作進行に対応していただけるか、というところも見ながら候補を探しています。
小島
SNSやプロフィール、Webやポートフォリオから類似した制作の経験などがわかると、依頼しやすいですね。

GENSEKIの例:マイページの「スキル」欄に実績などが載せられる
小島
また、ちびキャラは一枚絵以上にレイアウトを変えてデザインすることが多いので、拡大しても粗が見えない、縮小しても潰れてしまわない絵柄とデザイン力は、一枚絵以上に必要になります。
特に今回は事前に開催をしていた塗り絵募集企画(募集は終了)に線画を使用するため、「線画のきれいさ」は重要でした。

塗り絵募集企画の線画(一部)
グッズイラスト制作はこう進む! やりとりの流れ

フェイクチケット(一部)
――候補が決まったら、どのように進行しますか?
小島
メールなど、プロフィールに記載されている連絡先に、制作相談のご連絡をします。内容に問題がなければ契約書の締結を行い、詳細に依頼をまとめた発注書をお送りします。
中村
発注書には企画の主旨と用途、イラストの方向性、サイズと枚数、レイヤー分けの説明のほか、制作の進め方や納期、公開や権利についても記載しています。
資料としてイメージ画像での説明や印刷テンプレートのお渡しなど、なるべくわかりやすくなるように心がけています。
小島
ここは大事なところなので、わからないときや「もっと詳しく知りたい」というご希望があれば、オンラインミーティングをすることもありますよ。
――制作はどう進むのでしょうか?
中村
これも企画や人によってさまざまですが、今回はこのような流れです。
<今回の一例>
モノクロ大ラフ
↓
カラーラフ
↓
(線画確認)※今回はなし
↓
アート完成
最初にモノクロの大ラフで構図と断ち切りの確認をします。今回は大きく展示する「アート」として特に構図が重要で、印刷はズレやはみ出しに対応する断ち切りも必要だったため、ここでしっかり確認しました。
次にカラーラフをいただいて、全体の色味のチェックと、グッズ用のレイヤー分けの確認をします。
――線画チェックはどういうときに必要になりますか?
中村
清書した線画では、モチーフや衣装デザインの細部までわかるので、形に問題ないか・衣装に間違いがないかの確認が必要なときに役立ちます。
今回はオリジナル衣装で制限が少なかったため、カラーラフでチェックを終えて、線画確認はせず一気に描き上げていただきました。
――今回のようにVTuberのメンバー全員の企画の場合、絵柄のバランスや配色のコントロールはどうしていますか?
中村
全体の統一感やバランスは私たちアートディレクター側で見ています。
メンバーの元々のイメージカラーや個性など考慮いただきたい箇所を伝え、今回の「食」のコンセプトを織り交ぜてイラストレーターさんにお願いをしています。
――メンバーたちのことをよく考えた上で描かれているのですね。
小島
ひとりひとりの個性を出しつつ全体の「しょっぱい・甘い」のバランスまで取れたと思います。VTuber企画の場合はイラストレーターさんもディレクション側も「そのVTuberのことをファンまで含めてよく知っておく」のはとても大切だと感じますね。
中村
今回ご依頼したイラストレーターさんも、自主的に「あおぎり高校」に触れ、理解を深めた上で制作いただけたのは、とてもうれしかったです。
――絵が完成したら、イラストレーターのお仕事は完了ですか?
中村
描いていただいたアートをさらによくできそうな調整があればお伝えして、対応していただくこともあります。最後に私の方で塗りの色抜けや不要な線のチェックをして、完了となります。
ただ、こうした制作過程は、コンセプト・グッズの内容や、手掛けるジャンル・企業によって異なります。あくまで今回の一例ですので、お仕事の際は案件ごとに手順も違うと思います。
一般的なイラスト進行や仕上げチェックについては、アートディレクターの記事で詳しくお話していますので、あわせてご覧ください。
たくさんの人が関わるグッズ制作の舞台裏

ステッカーセット
――アートやイラストが完成したら、グッズ用にデザインしたり印刷に出すのは、誰がやっているのでしょう?
中村
これも本当にいろいろなケースがあります。なので、あくまで「今回の場合は」ですが、GENSEKIとあおぎり高校は同じ株式会社viviONに所属しているため、社内のデザインチームが手掛けました。
――グッズの配色やモチーフの配置、細かいデザインパーツや文字入れなども、デザイナーさん主体で作るのでしょうか?
中村
通常は指示書や資料を作りますが、今回はデザインチームもあおぎり高校のことをよく知っているので、細かく希望を伝えなくてもすてきに仕上げていただけました。私からは「フェイクチケットはリッチ感あるフードチケット風にしたい、ホログラムの紙を使ってホロを見せるポイントを作りたい」といった仕様の希望を伝えただけです。
実はアート展のロゴも作っていただいていて、企画全体の統一感がとても出ていると思います。

フェイクチケットのデザイン(一部)

ロゴデザイン
――購入特典のコースターも、アートとちびキャラ全部の絵柄で統一感のあるデザインがされていますね。
小島
アートとちびキャラでデザインを分け、メンバーごとで色やイメージを変えています。せっかくのイベントなので全メンバーのアートとちびキャラで作りたかったのですが、コレクション目線からだと全部を揃えるのは大変ということで、複製原画をお求めいただくと全種セットプレゼントすることにしました。
中村
グッズの楽しさとコレクションの楽しさのバランスを取るのは、毎回葛藤しますが、こうしてイラストレーターさんに描いていただいたアートやイラストを活かすかたちにしました。

購入特典のコースター
知識と経験でスキルアップ! 実物を手に取って学ぶ
――イラストを描く以外にもたくさんの人たちが関わり、グッズが完成するのですね。
中村
そうですね。デザインが終わった後も、例えば「ふるふるアクリルミニアート」の中に入れるビーズをひとりひとりのイメージで選びました。素材や印刷方法で色の見え方が変わるので、色の調整をする方もいます。いろいろな材質での見栄えや質感まで考えて調整し、完成品になります。
このような流れをイラストレーターさんにも知っておいていただけると、お仕事が進行しやすくなりますし、ディレクションする私たちもありがたいです。
――流れを想定しながら「グッズイラスト」を描いてみるのもよさそうですね。
中村
いいと思います! 意識して描いたイラストがポートフォリオに入っていたら、企業の担当者やディレクターにも伝わると思います。GENSEKIに投稿していただけると巡回している私たちも見つけやすくてありがたいので、ぜひ「グッズ」や得意ジャンルのタグをつけて投稿してみてください。
さらにいうと、ご自分でもグッズを作った経験があると、お仕事をする上でもとっても役立つと思います。
形や質感・色などを意識しながら描いたり、どんな入稿データを作るのか、イラストと実物にはどんな違いが出るのか。特に色はグッズの素材や印刷方法によってかなり違いが出ます。そのことを知っていただけていると、とてもうれしいです!
――描いたイラストを、実際にグッズとにして手に取るのは楽しそうです。
中村
データではなくモノとしてある実体感、手触りや重さ、日常でどう使おう? というところまで考えると、イラストの楽しみ方が増えます。
小島
今回のアート展では、大きく印刷したアートの迫力やきれいさが魅力だと思います。パンフレットにはイラストレーターさんの制作コメントも載せました。ちびキャラフォトブース、塗り絵展示コーナーなど、会場でしか見られないものもたくさんあります。
事後通販も予定していますので、このようなグッズイラストの制作過程を知ったうえで実物も見ていただけると、発見がたくさんあると思います。ぜひ楽しんでくださいね。
アート展特設ページ/イラストレーター紹介
塗り絵募集企画(募集は終了)
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執筆
kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
編集
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