熊野純彦『哲学史にしおりをはさむ』を読む

 熊野純彦哲学史にしおりをはさむ』(青土社)を読む。熊野純彦は現在最も優れた哲学者の一人。その熊野の哲学論文ではないエッセイを集めたもの。とはいうものの熊野によれば論文とあまり区別されていないという。事実「ハイデガーマルクス主義」とか、本多謙三の「現象学弁証法」について書いた「現象学とその外部」、『西田幾多郎全集』の月報として書かれた昭和十年代の京都学派についての「「論理と生命」の思考圏によせて」、市村弘正『増補 敗北の二十世紀』の解説、納富信留プラトン 理想国の現在』の解説、大澤真幸『〈世界史〉の哲学2 中世篇』の解説、中野敏男『マックス・ウェーバーと現代・増補版』の解説、神崎繁『内乱の政治哲学』の書評、今村仁司への追悼文、坂部恵の思い出、そして廣松渉『もの・こと・ことば』の解説など。短い文章ながらいずれも濃い内容ばかりだ。

 今村仁司への追悼文で言及されている今村の『マルクス入門』(ちくま新書)はぜひ読んでみようと思った。廣松渉熊野純彦の師である。『もの・こと・ことば』は早速注文した。

 本書のタイトル『哲学史にしおりをはさむ』は正にそのまま内容を表しているが、商品として書店に並べたときにインパクトが弱いのではないかと危惧する。本書の面白さが伝わるとは思えないからだ。