超振動から超挙動へ

私たちが日常で目にする物質も、量子の視点では波として振る舞います。
量子力学によれば、状況次第であらゆる物体が波のような性質を示し、その波の性質(重ね合わせや干渉)が常識では考えられない奇妙な現象を生み出します。
その一つが「スーパーオシレーション(超振動)」と呼ばれる現象です。
通常、ある波に含まれる振動の速さ(周波数)には上限があります。
ところがスーパーオシレーションでは、全体としては高速な振動成分を持たない波が、局所的にはその上限を超えて振動することが可能です。
まるでマジックのようですが、これは1990年ごろイスラエルの物理学者ヤキール・アハロノフ博士らによって提唱され、量子論や弱測定の研究の中で注目され始めました。
最近では、この効果を光学系に応用することで回折限界を超える「超解像」が実現できる可能性が示されるなど、様々な分野で研究が進んでいます。
今回の研究を主導したアンドリュー・ジョーダン博士(カリフォルニア州チャップマン大学)らのチームは、このスーパーオシレーションの概念を発展させ、量子力学における任意の観測量について「通常の上限を超える超現象(superphenomena)」が起こり得るかを調べました。
言い換えれば、エネルギーや角運動量といった物理量においても、“ありえない”値が現れる「量子の超挙動」が起きるのではないかという問いです。
研究チームはまず理論的枠組みを整えた上で、運動量とエネルギーの二つを例に、その「超挙動」によって通常の最大値を上回る結果が得られることを示しました。
特にエネルギーに関する発見は衝撃的です。
エネルギーは物質の状態を決定づける重要な量で、本来なら低エネルギー状態の組み合わせから高エネルギーが生まれることはないと考えられます。
しかしジョーダン博士らは、量子の重ね合わせによってその「ありえないはずのエネルギー」を生み出す方法を見出そうとしたのです。