巷で言われる「老後破産」はただの妄想なのに…精神科医・和田秀樹「老後に突入しても蓄え続ける人の末路」
老後のお金への正しい心構えは何か。精神科医の和田秀樹さんは「老後不安で蓄えた貯金を老後に使わないのはおかしい。収入も貯金もなくなったときは、年金の範囲内で暮らすか、生活保護を受ければいい」という――。 【この記事の画像を見る】 ※本稿は、和田秀樹『どうせあの世にゃ持ってけないんだから 後悔せずに死にたいならお金を使い切れ!』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。 ■老後になっても蓄え続ける過半数の人たち 内閣府が全国の60歳以上の男女を対象に行った「令和元年度高齢者の経済生活に関する調査」という資料があります。 そこで、「日常生活の支出の中で、収入より支出が多くなり、これまでの預貯金を取り崩してまかなうことがありますか」という質問に、「取り崩しがある」と回答している人は48.1パーセントいます。この割合は65〜69歳をピークに、年齢が上がるにつれて減少傾向にあります。 50パーセント以上の人が取り崩しがなく、60代半ば以降、取り崩しのない割合が増えているということは、年を取ってから節約して暮らしているか、貯金が増えているということにほかなりません。 たとえば厚生年金を受給している夫婦で、月に25万円くらいの年金が入ってきている場合、22万円で暮らしていれば毎月3万円ずつ貯金が増えていくわけです。 よく「老後の蓄え」と言いますが、老後に使わないでいつ使うのでしょうか? 48.1パーセントの人が取り崩しがあるというけれど、50パーセント以上の人が老後になっても蓄えているということのほうがよっぽどおかしい。 本来、老後のために蓄えた貯金は老後に使い切ったほうが、はるかに豊かな暮らしができるじゃないですか。
■政府がかきたてる「老後破産」という妄想 しかも、この内閣府の調査によると、80歳以上で「取り崩しあり」の人は33.6パーセントとなっています。80すぎても、7割近くの人がまだ金を貯めているわけです。 にもかかわらず、昨今のマスコミの論調はこうです。 年を重ねると生活費は少なくてすむが、医療費や介護費が増えるので貯金の取り崩しは多くなるケースが多い。だから貯金はいずれ枯渇する。定年後の収入だけで生活費をまかなえている場合は「老後破産」とは言わないが、入院や介護などの緊急時の備えがない人は、「老後破産予備軍」である、と。 先の資料「令和元年度高齢者の経済生活に関する調査」によると、60歳以上で貯蓄がない人は8.3パーセントです。いまの日本のマスコミは、この8.3パーセントの人たちまでも「老後破産予備軍」として、不安がらせて脅しているように、私には思えます。 入院や介護などの万が一のときには貯蓄がないと老後破産の可能性があると、多くのメディアは言いますが、入院しても介護を受けるにしても、高額療養費制度や介護保険を使えば思っているほどかかりません。これについては、本書で詳しくお話ししています。 ちなみに、介護施設へ入るためにまとまった入居一時金が必要になる場合がありますが、入居一時金を払えば、その後はあまりお金を使わなくてすむようになっています。 ■収入も貯金もなくなってもなんとかなる いずれにしても、介護保険を使えば、大してお金は必要ありません。 たとえ貯金がゼロになったとしても年金は入ってくるのですから、「リタイアした後も収入で生活をまかなえない人は悲惨な老後になりますよ」と言うのは合点がいきません。収入も貯金もなくなったときは、年金の範囲内で暮らせばいいだけです。 夫婦二人分の標準的な厚生年金受給額は月約23万円(令和5年度の家計調査報告)ですから、住宅ローンを払い終わっていて、子どもが巣立っていたら、まあまあいい暮らしができるでしょう。持ち家があれば、後ほど紹介するリバースモーゲージなどを利用して老後資金を調達する方法もあります。 国民年金しか入っていない人は、40年間保険料を納めて、単身者だと65歳から年額81万6000円、ひと月あたり6万8000円(2024年度時点)しか入ってきませんから、もし収入も貯金もなくなったら生活保護を受けたらいいと思います。 生活保護の基準(最低生活費)は住んでいる地域や世帯人数などによって異なりますが、単身者であれば1カ月あたり10〜13万円、夫婦二人世帯であれば15〜18万円程度です。それだけあれば、どうにか暮らしていけるでしょう。