Yahoo!ニュース

テイラー・スウィフトの原盤権奪還──「テイラーズ・バージョン」戦略は音楽業界を変えるか? #エキスパートトピ

松谷創一郎ジャーナリスト
2025年2月2日、アメリカ・LAにおける第67回グラミー賞授賞式におけるテイラー・スウィフト写真:REX/アフロ

 アメリカの歌手テイラー・スウィフトが、初期に制作した6枚のアルバムの原盤権を買い戻し、長年にわたる所有権をめぐる争いに終止符を打った。

 2019年にスクーター・ブラウンに原盤権が売却されて以来生じたこの争いの過程では、スウィフトは過去作品を再録音してリリースする動きもあった。「テイラーズ・ヴァージョン」として発表された4アルバムは大ヒットし、過去の原盤の無力化に成功した。

 この問題をめぐるさまざまな論点について、海外ではどのように報じられているのか、主要な記事をまとめる。

ココがポイント

a master recording is the original recorded(略)
出典:BBC 2025/5/30(金)

which sources tell Billboard was around $360 million
出典:Billboard 2025/5/30(金)

Braun told The Hollywood Reporter that he’s “happy for her.”
出典:The Hollywood Reporter 2025/5/30(金)

All of the music I've ever made... now belongs... to me.
出典:The Official Website of Taylor Swift 2025/5/30(金)

エキスパートの補足・見解

 テイラー・スウィフトによる今回の原盤権の買い戻しは、単なる個人的勝利を超えた音楽業界の転換点につながる可能性がある。とくに「テイラーズ・バージョン」戦略は、旧原盤の価値を無効化することで交渉における主導権を握ることに成功した。これは、不利な契約に縛られたアーティストでも、創造的手段によって権利奪還が可能であることを実証した画期的な事例と言える。

 この問題では、ファンが「テイラーズ・バージョン」を支持し旧版を意図的に回避する現象も見られた。これは受け手であるファンがアーティストの権利擁護に直接参与できる現状を意味し、現代のポピュラー音楽におけるアーティストとファンとの連帯が強い影響力を持つことを示している。

 彼女がこの買い戻しを「最大の夢の実現」と表現したように、アーティストによる作品所有は収益性以上の意味を持つ。創作物の最終的コントロール権という強い問題提起だからだ。今後、新人アーティストの契約では原盤所有権の帰属も論点となるであろう。テイラーのこの闘いは業界全体の契約慣行を変革する契機になる可能性もあり、デジタル時代における知的財産権の個人帰属を加速させるかもしれない。

ジャーナリスト

Matsutani Soichiro/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。現在、朝日新聞論壇委員、NHKラジオ『Nらじ』にレギュラー出演中。著書に『ギャルと不思議ちゃん論』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』、『文化社会学の視座』、『どこか〈問題化〉される若者たち』など。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 [email protected]

松谷創一郎の最近の記事