山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

A4を原寸表示できる13型カラーE Ink搭載。Playストアも利用可能なタブレット「BOOX Tab XC」

「BOOX Tab XC」。実売価格は13万8,000円

 「BOOX Tab XC」は、カラーE Ink電子ペーパーを搭載した13型のAndroidタブレットだ。大画面を生かしての電子書籍の閲覧はもちろん、付属のスタイラスと組み合わせてノートを取ったり、オプションのキーボードと組み合わせてノートPCのように使ったりと、幅広い用途に対応できるのが特徴だ。

 徐々に普及しつつあるカラーE Inkだが、その多くは7~8型クラス、および10型クラスがほとんどで、13型という大画面に対応したモデルはBOOXシリーズではこれが初となる。A4サイズをほぼ原寸で表示できるとあって、E Ink電子ペーパーにこだわるユーザーにとっては魅力的だろう。

 今回は、国内代理店から借用した実機を用い、画面サイズが同等の「13インチiPad Air」と比較しつつ、電子書籍ユースを中心とした使い勝手をチェックする。

13インチiPad Airと仕様比較

 まずは13インチiPad Airとの比較から。性能差を見るというよりも、ハードウェアの性格の違いを知るためのものとして見てほしい。

BOOX Tab XC13インチiPad Air
発売2025年5月2024年5月
サイズ(最厚部)287.5×243×5.3mm280.6×214.9×6.1mm
重量約625g616g
OSAndroid 13iPadOS
CPU2.8GHz オクタコア + BSRApple M2チップ
4つの高性能コアと4つの高効率コアを搭載した8コアCPU
10コアGPU
16コアNeural Engine
メモリ6GB8GB
スクリーンKaleido 3OLED
画面サイズ/解像度13.3型/白黒: 3,200×2,400ドット(300ppi)
カラー: 1,600×1,200ドット(150ppi)
13型/2,732×2,048ドット(264ppi)
通信方式Wi-FiWi-Fi 6E(802.11ax)
バッテリ持続時間(メーカー公称値)不明(容量5,500mAh)最大10時間(36.59Wh)
コネクタUSB Type-CUSB Type-C
スピーカー2基2基
生体認証-Touch ID
価格(発売時)13万8,000円(128GB)12万8,800円(128GB)
14万4,800円(256GB)
18万800円(512GB)
21万6,800円(1TB)
その他InkSpire スタイラスペンが付属-

 筐体はBOOXシリーズでお馴染みの、片側にのみ余白がある形状。それゆえ画面サイズが同等の13インチiPad Airと比べても面積は広めだが、この余白部分に指をかけて持つことで保持しやすい利点がある。ちなみに電子書籍専用のデバイスというわけではないため、ページボタンなどのギミックは搭載しない。

 厚みは5.3mmと、13インチiPad Pro(5.1mm)に匹敵する薄型。その一方で重量は625gと、13インチiPad Air(617g)より重い。一般的に電子ペーパー端末は軽量という印象が強いが、BOOXはカラーE Inkこそ搭載しているものの中身はAndroidタブレットそのものであり、こうしたアドバンテージはない。

 本体にはUSB Type-Cポートのほか、オプションのキーボードなどを装着するための独自コネクタが搭載されている。iPadのSmart Connectorと同様、マグネットで吸着することで、データ通信および給電が行なえる仕様だ。今回のように読書端末として使う場合は、実質的に出番はない。

画面サイズは13.3型。片方のベゼルだけが幅のあるデザイン
もちろん横向きでも利用可能。幅のある側が手前に来る配置が自然だ
背面。フラグシップモデルなどに見られる書類スキャン用のカメラは非搭載
ベゼル部分に指をかけることで長時間でも保持しやすい
底面。USB Type-Cポートを端に搭載する
上面。電源ボタンを搭載する。指紋認証センサーはもちろん音量ボタンも非搭載
側面にはポゴピンがあり、オプションのキーボードケースを接続できる。その左右にはスピーカーも搭載する
重量は実測636g。13型タブレットとしては妥当だが、決して軽くはない
4,096段階の筆圧感知と傾き検知に対応したInkSpireスタイラスが同梱される
スタイラスは本体右側面に磁力で吸着できる

 なお独自GPUのBSR(BOOX Super Refresh)により軽快な動作を実現しているのはフラグシップモデル譲りだが、指紋認証センサーや書類スキャン用のカメラは搭載しないなど、ハードウェア的には省略した形跡も見られる。またスピーカーは搭載するものの音量ボタンが用意されていなかったり、メモリカードスロットが省かれている点も要注意だ。

 このほか10.3型モデル「BOOX Tab Ultra C」では6,300mAhあったバッテリ容量は5,500mAhに減っているが、実質的に本製品のモノクロモデルにあたる「BOOX NoteMax」は3,700mAhなので、こちらは妥当と言っていいだろう。またスタイラスが標準添付されているのは、ペンが別売の競合製品と比べた場合のアドバンテージになっている。

カラーE Inkは「Kaleido 3」。フロントライトも搭載

 セットアップ手順は従来のBOOXシリーズと同様で、時刻やスリープなど基本項目を設定していったん利用できるようにしたのち、Wi-FiやGoogle Playストアの設定は事後に行なう流れだ。すべての設定を終わらせてから使用する一般的なAndroidデバイスに慣れていると違和感があるかもしれないが、プロセス自体は特に問題はない。

 ホーム画面以下は、近年のBOOXシリーズに共通する、上段にウィジェットが、中段にアプリが並ぶレイアウトを採用している。かつてのBOOXのホーム画面は独自色が強く、Androidに慣れているユーザーでも戸惑いがちだったが、現行の画面は配置も一般的なAndroidに近いため馴染みやすい。

 ちなみに以下に掲載しているのは本体側の機能で取得したスクリーンショットだが、カラーE Inkの画面上では彩度が下がることを見越してか、アイコンの色がかなりド派手なのが面白い。こうした部分はノウハウの積み重ねといったところだろう。

ホーム画面。近年のBOOXシリーズに共通する、上段にウィジェット、中段にアプリが並ぶレイアウト
画面右上から呼び出すコントロールセンター。ここからさらにE Inkセンターを呼び出せる
プリインストールアプリの一覧。Google Playに対応している
電源管理まわりの設定画面。電源オン・オフにはかなりの時間がかかるので、スリープで運用するのが望ましい
フロントライトを多用する場合は「スリープモードから起動時にフロントライトをオンにする」を有効にしておいたほうが使いやすくなる

 実機を使ってみてまず感じるのは、カラーE Inkの美しさだ。本製品に採用されているカラーE Inkは、既存製品でも採用例の多い4,096色の「Kaleido 3」だが、本製品のそれは色がより鮮やかに感じられる。もちろんOLED搭載のiPadに敵う彩度ではないのだが、現行のカラーE Inkとしてはトップクラスと考えてよいだろう。

 また本製品はフロントライトも搭載しており、これをオンにすることによって、背景をより白くし、色を鮮やかに見せられる。なおフロントライトには寒色暖色を調整する機能もあるが、カラーE Inkの色合いのバランスを崩してしまうこれらの機能は個人的にはあまりおすすめしない。

13インチiPad Air(右)との比較。画面サイズはほぼ同一だ
背面の比較。こうして比べるとカメラが省かれていることがよく分かる
厚みの比較。13インチiPad Air(右)よりは薄いが、13インチiPad Pro(5.1mm)にはかなわない
フロントライトオフ状態(左)とオン状態(右)の比較。オンで使うことで背景をより白く見せられる
通常のフロントライトの状態(左)と暖色100%まで引き上げた状態(右)の比較。右は目に優しいとされるが、もとの色合いが失われてしまう

解像度が底上げされるも雑誌コンテンツとの相性は微妙?

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号を使用している。

 解像度は、モノクロが300ppi、カラーは150ppiという、カラーE Inkパネルでは恒例の、カラーとモノクロとで解像度が異なる仕様。もっともカラーの解像度はかつての100ppiから150ppiへと向上しているほか、モノクロだけならiPad(264ppi)より上なので、表現力はかなり高い。一般的なカラータブレットでも200ppiを切っている製品はあるので、徐々に欠点の域を脱しつつある。

 若干気になったのは、本製品はスワイプによるページめくりが非常に難しいことだ。なぜなら本製品は幅が広いため、スワイプでページをめくるには長距離をなぞらなくてはならず、結果的にページをめくり損ねて元のページに戻ってしまう現象が多発する。本製品に関しては、ページめくりは原則としてタップで行なったほうがよいだろう。

 ちなみに本製品はページめくりボタンは搭載していないのはもちろん、音量ボタンも備えないので、Androidデバイスではおなじみの、音量ボタンにページめくりを割り当てる機能も利用できない。使い方によってはマイナスになるので要注意だ。

単ページ表示だとA4に迫るサイズ。ここまで大きい必要性は正直ほとんどない。なお天地反転させてベゼルの厚みがある側を右に持ってくることももちろん可能
13インチiPad Air(右)との比較。サイズはほぼ同等となる。輝度はフロントライトを最大にしてもiPadにはかなわないが、これはE Inkの特性によるもの
コミックは一般的には画面を横向きにして見開きで読むのがベターだろう。これでもページサイズはiPad miniで単ページ表示した場合よりも大きい
13インチiPad Air(下)との比較。こちらもサイズは同等だ
画質の比較。左が本製品(モノクロ300ppi)、右が13インチiPad Air(264ppi)。本製品のほうが高解像度だが、目視ですぐ分かるほどの差はない
雑誌表示を13インチiPad Air(右)と比較したところ。ベタ塗りの少ないカラー図版はカラーE Inkが苦手とするところで、彩度の低さも含めて差が目立つ
画質の比較。左が本製品(カラー150ppi/モノクロ300ppi)、右が13インチiPad Air(264ppi)。色のついた部分は粗さと彩度の低さが目立つ
左が本製品、右が紙版。ほぼ同等サイズで表示できていることが分かる
画質の比較。左が本製品、右が紙版。シャープさにはやや欠けるが紙版は印刷ムラもありトータルでは一長一短といったところ。とはいえ彩度はもう少し欲しい

 さてこれら電子書籍コンテンツの利用にあたっては、それぞれのアプリごとに「E Inkセンター」で挙動を設定することで、E Inkにつきものの残像を目立たなくさせられる。たとえばKindleの場合は、リフレッシュモードで「Regal」を選んだ上で、オプションのアニメーションフィルタータイムを100~200msに設定するのがベターとされている。

 今回は試しに150msに設定してみたが、カラーページでもほぼ残像がなく、ストレスのないページめくりが可能になった。あとはページの内容に合わせて、鮮やかさをはじめとしたカスタマイズを行なえばよい。

Kindleアプリを表示した状態で「E Inkセンター」を起動し、リフレッシュモードを「Regal」へと変更する。続いてその左上にある「その他の設定」をタップ
「アニメーションフィルタータイム」を、Kindleの場合は100~200へと変更する
今回は「150」へと変更した。これによりページめくり時の残像がほぼ発生しなくなる

 ただしこれらの最適値はアプリごとに異なっており、設定を共用できないのが面倒なところ。試しに前述のKindleアプリと同じ設定を、DMMブックスやebookjapanにも行なってみたが、未設定の状態と違いはほとんど見られなかった。このあたりの最適値は必ずしも公開されているとは限らないので、自分であれこれパラメータを調節しつつ試すしかない。

 また残像自体は消せても、表示するコンテンツには向き不向きもある。たとえばグラデーションはきちんとした階調にならず、シミのようになってしまうことがある。これは表示できる色数が少ないことによるもので、ベタ塗りは美しく表示できる一方で、写真類は液晶などと比べると表現力の低さが目立つ。

 本製品は13.3型という大画面が特徴だが、これら大画面での表示に見合った雑誌コンテンツは写真を多用しているものが多く、それらと本製品の相性はあまりよくない。向き不向きで言うと技術書などに多いベタ塗りの図版の表示に向く一方、写真類の表示に必ずしも向いていないことは、知っておいたほうがよいだろう。電子書籍とは違うがドキュメント類や会議資料の表示などには、極めて向いた製品と言って差し支えない。

これらリフレッシュモードの設定はアプリごとに行なえる。電子書籍系はその他オプション項目も含めてこまめな設定変更が欠かせない
カラーE Inkはグラデーションの表現が得意ではなく、シミができたようになってしまう。このページでいうと左上、CPU表面にその傾向は顕著だ

目に優しい以外にどれだけ選ぶ理由を見出せるか

 以上のように、カラーE Inkとして進化の跡は見られるほか、動作もきびきびとしているのは利点だが、利用にあたって表示回りの設定に一手間が必要だったり、表示できるコンテンツに向き不向きがある点は、従来と変わっていない。目に優しいという利点だけで選ぶと、思ったように使えない、ということになりかねないので注意したい。

 また同等サイズの液晶タブレットと比べて、重量面ではそれほどアドバンテージはないほか、実売価格も13万8,000円と、スタイラスペンが標準添付されている点を差し引くとしても、13インチiPad Airの同容量(12万8,800円)とはほぼ横並びで、価格面でのメリットはあまりない。

 もっとも電子書籍ユース以外で、オプションのキーボードを用いてノートPCライクに使えるといった利点はあるほか、同じカラーE Ink搭載モデルでもQUADERNOのようなノートデバイスとの比較であれば、Google Playストアから任意のアプリをインストールできることが強みになる。E Inkゆえ目に優しいという本来の特色のほかに、本製品でなければならない理由をどれだけ見出せるかが、購入にあたってのポイントになるだろう。