私事であるが手術のため2週間ほど入院していた。無事退院することができ、まだまだ本調子ではないのだが、滞っていたブログ更新をぼちぼち再開していきたい。
退院後にまずしたかったことは、録画しておいた「新プロジェクトX H3ロケット宇宙への激闘~革命エンジンに挑んだ技術者たち~」(NHK5月3日放送)を見ることだった。
その理由は、技術者の男達がプロジェクト成功の瞬間、抱き合って喜ぶ姿を確認したかったからだ。こちらが衛星を軌道に投入できた後の管制室最上段でのJAXA岡田プロジェクトリーダーがJAXA理事と抱き合い、互いに背中を叩きながら喜ぶシーンである。
説明のため放送の録画から引用する。
私はこの映像を2024年2月のH3ロケット打ち上げ成功の日、ニュースで見た記憶があった。その時に「男同士が抱き合って喜ぶプロジェクトがここにあるんだ」と思った。
スポーツの世界ではよく見られる光景かもしれない。最近ではWBC2023が記憶に新しい。大谷投手と中村捕手が優勝を決めた瞬間に抱き合って喜ぶ姿を見た人は多いだろう。
https://www.wbc2023.jp/news/article/20230322_1.html
上記記事から説明のため引用する。
私も、人生の中で一度だけ男同士で抱き合って喜んだ経験がある。それはやはりスポーツの中でのことで、大学時代にやったアメリカンフットボールでの経験だ。地方の一部リーグだったが、優勝決定戦の最終クオーターに逆転のタッチダウンを決め、ほぼ勝利と優勝を決定づけることができた時、チームメイトと抱き合って喜んだ。
翻ってビジネスにおけるプロジェクトでプロジェクト完成、あるいは成功の後、プロジェクトメンバーが抱き合って喜ぶことがあるだろうか。
私の経験と感覚からすると、握手したりハイタッチくらいすることはあるが、プロジェクトが成功したからといって男同士が抱き合って喜ぶことは、流石に小っ恥ずかしくてできなかった。むしろ「これくらい当たり前ですよ」という涼しい風をしているのがかっこいいという感覚のように思う。
スポーツにおける試合とビジネスにおけるプロジェクトは、似ているようでいて違いがいくつかある。その違いは私が大学時代にスポーツを経験した後、社会人となりシステムエンジニアとしてシステム開発のプロジェクトに参画したり、自分がプロジェクトリーダーとなる経験をするようになってから、感じることになる。
スポーツにおける試合とビジネスにおけるプロジェクトの違い
- 開始と終了
・試合/ゲーム:試合時間やゲーム回数によって開始と終了が明確。
・プロジェクト:プロジェクト(設計/開発/テスト)の期間と運用開始は明確だが、運用はシステム寿命を迎えるまで粛々と続くため終了が不明確。 - 勝ち負け/成功と失敗
・試合/ゲーム:勝敗は試合終了時に得点により明確になる。
・プロジェクト:成功して当たり前で基本的に失敗は許されない。プロジェクトを途中で断念することになればお客様から訴えられる可能もある。
上記の違いから、プロジェクトが無事に終了し運用が開始されたとして、ほっと胸を撫で下ろすことはあるとしても、プロジェクトメンバーが抱き合って喜ぶことはないのが普通なのだ。
私も年金を受取る年齢となり、社会人としての過去を振り返った時、もちろん記憶に残るプロジェクト、思い出深いプロジェクトはいくつかある。しかしあの大学時代の優勝経験のような輝いた瞬間、感動した瞬間は経験できなかったな、という思いが若干ある。
それは上記のようなスポーツの世界とビジネスの世界の違いあるから仕方がないことなんだろうと、自分を納得させていた。そんな時に偶然見たニュースが、JAXAのH3ロケット打ち上げ成功と、岡田プロジェクトリーダーがプロジェクトメンバーと抱き合って喜ぶ姿であった。
JAXAのH3ロケットのプロジェクトが如何に過酷なプロジェクトであるかは、NKHの「新プロジェクトX」の放送を見ればよく分かる。これだけのプロジェクトになれば、相当に重い責任を感じるであろうし、逃げ出したくなるようなプレッシャーと闘うことになる。
- 予算規模が桁違いにでかい(R7年時点で総開発費2393億円)
- プロジェクト期間が長い(H3ロケットの場合は開始から約10年)
- 国家プロジェクトである(国の威信と将来がかかっている)
さらにロケット開発プロジェクトには、設計/製造/試験の後に「ロケット打ち上げ」という大きなイベントがある。「ロケット打ち上げ」には「スポーツにおける試合」との共通点がいくつかある。
スポーツにおける試合とプロジェクトにおけるロケット打ち上げの共通点
- 開始と終了
・試合/ゲーム:試合時間やゲーム回数によって開始と終了が明確。
・ロケット打ち上げ:打ち上げから衛星の軌道投入まで開始と終了が明確。 - 勝ち負け/成功と失敗
・試合/ゲーム:勝敗は試合終了時に得点により明確になる。
・ロケット打ち上げ:成功と失敗が明確。衛星を軌道に投入できれば成功、できなければ失敗。成功するか失敗するかはやってみなければ分からない。
これだけの条件がJAXAのプロジェクトには揃っている。そう考えると男同士が抱き合って喜ぶことも当然のように思えてくる。極限までのプレッシャーから開放された瞬間に人間としての本能がそうさせるのだろう。繰り返しとなるがこの感動シーンを確認し、ブログを見てくださる方とも感動を共有したいと思ったのが「新プロジェクトX H3ロケット宇宙への激闘」を見たかった理由である。
JAXAの岡田プロジェクトマネージャーとプロジェクトに関わった全ての方達には、心からお疲れ様でしたと申し上げたい。
折角なので、岡田プロジェクトマネージャーがプロジェクトメンバーとハグする感動シーン、JAXAのエンジン設計を主導された黒須氏と、ターボポンプ開発にあたられたIHIの木村氏がハグするシーンも引用して紹介しておきたい。