月曜日の朝7時、スマートフォンのアラームが鳴り響く。重いまぶたをこじ開けて時計を見ると、また新しい一週間の始まり——。
未完成のプレゼン資料、新しく任されたプロジェクトの調整、反りの合わない同僚と進行しなければならない仕事。頭の中に仕事の不安がぐるぐると渦巻き、朝を気持ちよく迎えられない——。
「もっとメンタルが強ければ」「ストレスに負けない心の強さが欲しい」——そんな風に感じている方は多いのではないでしょうか。
じつは、メンタルが強い成功者たちも、もともと鋼のような精神力を持っていたわけではありません。一成功者たちは、日々の小さな積み重ねによってプレッシャーに耐えるメンタルを築いているのです。
今回はビジネスパーソンが実践しやすい「メンタルの強い成功者の朝習慣」を3つご紹介します。朝の過ごし方を変えて、仕事のストレスに動じない強いメンタルを手に入れてください。
習慣1. 「ワークアウト」で幸福度を高める
成功者が運動を好むのはよく知られていますが、彼らは朝の習慣にも運動を取り入れています。早朝のワークアウトは身体だけでなく、メンタルの状態を整えるために有効なのです。
ウォルト・ディズニー・カンパニーのCEO、ボブ・アイガー氏もそのひとり。ただ、アイガー氏のワークアウトは、集中するために特別な環境で行なわれます。
The first thing I do when I wake up in the morning is I workout. And I workout in solitude, typically in a darkened room, listening to music.*1
(朝起きてまずワークアウトをします。たいてい暗い部屋で、音楽を聴きながら一人で取り組みます)
※訳は筆者が補った
アイガー氏いわく音楽を瞑想のように使い、運動中はじっくりと物事を考える時間にしているそう。朝起きた瞬間にスマートフォンを見て、SNSやメール、ニュースのチェックをする……私たちはこんなふうに注意が散漫になる行為をしがち。しかし、アイガー氏は不要なノイズをシャットダウンし、瞑想のように運動に集中し、一日の集中力を高める準備をするわけですね。*1
集中力のみならず、朝の運動はメンタルや脳の働きに好影響を与えます。「USセラピールーム」の共同設立者、臨床心理学者のダニエル・グレイザー博士は、運動によって「多幸感をもたらすエンドルフィンの分泌が増加」すると述べます。つまり、朝に運動をすれば、仕事前にモチベーションを高め、気分を上げることも期待できるのです。*2
それだけではなく、ストレスレベルを下げる効果もあります。パーソナルトレーナーであるアランナ・ケイト・デリック氏いわく、朝のエクササイズは「一日を通してコルチゾール値が低下する」とのこと。ストレスと関係のあるコルチゾールは、一時的に下がるわけではなく、一日中ストレスレベルを下げる効果があるわけですね。*2
朝の運動の効果まとめ
不要なノイズをシャットダウンし、運動に集中することで一日の集中力を高める
エンドルフィンの分泌増加により、仕事前にモチベーションを高め気分を上げる
コルチゾール値が一日を通して低下し、継続的にストレスレベルを下げる
朝の運動習慣がない人は、以下のものから実践してみてはいかがでしょう。
🏃♀️ 今日から始められる朝の運動
一日のスタートに身体を動かすことはリフレッシュするだけではなく、ストレスに対応できる強い精神へ変えることにつながります。メールを確認して気持ちを焦らせるよりも、静かな時間に身体と心を整えるほうが、落ち着いたスタートを切れるでしょう。手軽なものから、運動習慣を定着させてみませんか?
習慣2. 「ニクセン」を取り入れて余裕を持つ
「何かをする」ことだけが、生産的なわけではありません。成功者は「ゆっくり過ごす」時間をつくり、仕事前にリラックスをしています。
Amazonの共同創設者、ジェフ・ベゾス氏の朝は「早起きして新聞を読み、コーヒーを飲んで、子どもたちと一緒に朝食」をとることから始まります。ベゾス氏は「私にとってゆっくりと過ごすことは重要なこと」、そしてそれらは「意思決定を助けてくれる」と述べています。*3
慌ただしく朝にタスクを詰め込むよりも、あえてゆっくり過ごす時間を設け、朝はリラックスする——これが、日中の集中力を高め、冷静に判断するための準備なのです。
ベゾス氏の朝習慣は、オランダ由来の「ニクセン」の過ごし方と共通しています。ニクセンとは、「何もしないで過ごす」こと。何もしないと聞くと、マインドフルネス瞑想を連想するかもしれません。しかし、オランダの心理学者、ニクセンの専門家であるヤン・P・デ・ヨンゲ氏は「意識を今この瞬間瞬間に集中する必要はない」と説明します。*4
特別に精神を集中するわけではなく、以下の行動でもニクセンに当たります。
🌅 ニクセンの実践例
ニクセンの効果
心理学者で燃え尽き症候群の専門家であるシャロン・グロスマン博士は、ゆっくり過ごすニクセンで自分の考えや感情に気づけるようになれば、ストレスに対して冷静に対応でき、回復しやすいメンタルになると述べています。*4
慌ただしく準備をするのではなく、「あえて何もしない」という選択が、結果として仕事の質を高めてくれるのです。平日の朝こそ、あえて休日のようにゆったり過ごして、‟心に余裕"をもって一日を始めてみてはいかがでしょうか。
習慣3.「ブレインダンプ」で脳を整理する
冷静に仕事に取り組むには、事前に思考をクリアにすることが大切です。成功者は朝に「やるべきタスク」を書き出し、優先順位を整理して一日をスタートさせます。
朝にタスクの洗い出しをする習慣はきわめてシンプルですが、GoogleのCEOであるサンダー・ピチャイ氏は、特に月曜の朝に行なうこの習慣は1週間を生産的に過ごすために、欠かせないルーティンだと語ります。
Monday morning particularly is the time when I really try to think about the important things I want to get done for the week, or deeper thoughts. I have a notepad and a pen and I often write down the three to five things I want to get done that week.
(特に月曜の朝は、重要なことや深く考えたいことに集中する時間です。私はノートにその週のやるべきことを3〜5個書き出しています)*5
※訳は筆者が補った
頭の中にあるタスクをノートに書き出し棚卸しする行為は、「ブレインダンプ」の一種です。
なぜ「タスクを書き出す」行為がメンタルに効果的なのか?
脳に溜まっている思考のノイズを減らし、より静かな心へ変えられる
ストレスや不安が高まっていた脳を、落ち着いた状態へと変えられる *6
一日の始まりの朝は、必然的に仕事のことで頭が占領されてしまうもの。納期が迫る提出物、厄介な顧客の対応、プレゼン資料の不備——起こりうる失敗や懸念が頭を占めるのなら、心をしずめるために一度吐き出しましょう。
もうひとつ重要なのは、デジタルツールより「紙に書き出し」て、物理的に吐き出す感覚を得ることです。前出のピチャイ氏は、スマートフォンやタブレットのアプリではなく、紙とノートを使って、タスクの棚卸しをしています。*5
筆者も週の始めの朝に「今週にやるべきこと」を棚卸ししてみました。
ここでは、ただ「ToDo」だけではなく、ToDoに対して「深く考え掘り下げたいもの」も一緒に書き出しました。すると、頭のなかのモヤモヤが晴れ、今週に向き合うべきテーマが浮き彫りになります。
多くの人は、朝起きてすぐに「今日やらなきゃいけないこと」が頭をぐるぐるし始めるもの。しかし、それを紙に書き出して「見える化」するだけで、脳の中のごちゃごちゃが整理され、「思っていたほど多くない」「後回しでいいこともある」と冷静に判断できるようになります。
朝一番にタスクとそれに対して「考える」ことにも焦点をあてれば、モチベーションが高い状態で一日を始めることができますよ。
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朝の気分は1日のパフォーマンスに影響を及ぼします。メンタルが強い状態で仕事に取りかかるための鍵は、朝のうちに心を整えること。よりよいスタートを切るために、本記事で挙げた成功者の習慣を参考にしてみてくださいね。
*1 Master Class|Using Your Time Effectively
*2 GQ|朝と夜のワークアウト、どちらがより効果的? それぞれのメリットを専門家に訊いた
*3 LIFE INSIDER|早起きしてゆったり過ごすと生産性が上がる?…ジェフ・ベゾスの戦略を試してみた
*4 Good Housekeeping|How I embraced ‘Niksen’, the Dutch concept of doing nothing
*5 Inc.|Google’s CEO Has a Remarkably Simple Monday Morning Rule That Explains Why He’s So Productive
*6 Forbes|「タスクに圧倒されない」習慣、書き出すこと思考の棚卸しをするブレインダンプ
青野透子
大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。