「今日も結局、予定していたタスクが終わらなかった...」
そんな経験を繰り返している方は多いのではないでしょうか。
タスク管理に関する情報は巷にあふれており、「優先順位を決める」「マルチタスクは避ける」「時間に制限を設ける」といった対策は、多くのビジネスパーソンが一度は耳にしたことがあるはずです。
けれど、頭では理解していても実践できない。それが一番の悩みですよね。
そこで今回は、「なぜかいつもタスクが終わらない人」が無意識にやってしまいがちなNG行為を取り上げ、よく知られた王道の対策に、もう一歩踏み込んだ「実行しやすくする工夫」を加えた改善策をご提案します。
理屈は分かっているのに動けない人のための具体的な行動を引き出すコツ、そしてすでに基本的な対策を試したことがある人にこそ効果的なプラスαのひと工夫をお伝えします。
みなさまのタスク管理の悩みが少しでも軽くなるよう、3つのパターンに分けて解説していきます。
【NG行為1】目前のタスクに飛びつく
気になるタスクが目の前にあると、つい手をつけてしまう。これが、仕事が終わらない大きな原因の一つです。
マーケティングコンサルタントの酒井光雄氏は、仕事が遅くなる人の共通点として「目の前の仕事にすぐに取り掛かる」習慣を挙げています。*1
改善のヒント:マトリクスの活用
こうした習慣から脱却する方法として、酒井氏は「緊急度」と「重要度」でタスクを分類するマトリクスを推奨。仕事の要領が悪い人ほど、仕事の整理が必要となるからだといいます。*1
やるべきことと優先順位がハッキリすれば、忙しさに流されない1日になるでしょう。
とはいえ――あまりにも有名なこの手法。
「とっくに知っている」「実践したがうまくいかなかった」という方も多いのではないでしょうか。
プラスα案:マトリクスに「タグ」
それならば、自分を「思考→行動」のフェーズに導いてあげてください。マトリクスで分類したタスクに「行動タグ」をつけるのです。
たとえば、「#5分以内」「#集中が必要」「#午前中限定」など、自分なりの行動ベースのタグを加えることで、「いまの自分に合ったタスク」を瞬時に見つけやすくします。
例を示しましょう。
先のマトリクス右上の【緊急かつ重要なタスク】ならこのタグです⇒ #集中が必要 #午前中限定 #一気にやる #遮断推奨(通知OFF)
左上の【重要だが緊急でないタスク】ならこのタグ⇒ #じっくり思考 #予定化推奨 #午後向け #一定期タスク
右下の【緊急だが重要ではないタスク】ならこのタグ⇒ #即レス #5分以内 #合間タスク
そして、【緊急でも重要でもないタスク】は ⇒ #やらない候補 #要見直し といった具合です。
以下のように考えると、わかりやすいかもしれません。
- マトリクス:【静的】な整理法
- タグ付け:【動的】な意思決定を助ける工夫
これにより、状況に応じた賢いタスク選びが可能となるはずです。
【NG行為2】マルチタスクをしている
マルチタスクは効率的に見えて、実際には生産性を低下させる要因となります。
世界的ベストセラー『SINGLE TASK 一点集中術』の著者で、リーダーシップ開発の専門家でもあるデボラ・ザック氏は、ある男性の事例を紹介しています。その男性はマルチタスクの影響で意思決定に集中できなくなり、安請け合いやダブルブッキングを繰り返してしまったといいます。*2
そして、それが集中力の欠如、ストレスの蓄積、不安や心配で落ち着かなくなる状態を生み、人間関係にも影響を及ぼすと指摘。*2
脳科学者の澤田誠氏も、マルチタスクの常態化は脳を疲れさせ、作業効率を悪くすると述べています。*3
改善のヒント:シングルタスク徹底
この悪循環から抜け出すための答えが、「シングルタスク」にあるのは当然のこと。
たとえば以下のような取り組みを積み重ねることで、集中力を取り戻し、効率よく仕事を進めることができるはずです。
- 作業中は通知をオフにする
- 時間を区切って作業する
- 「ながら作業」をやめる
ですが――
そもそも「シングルタスクが大事」と頭ではわかっていても、できないから困っているんだ、という声も多いでしょう。
プラスα案:シングルタスクの「スタート儀式」
そこでおすすめなのが、作業前のルーティンを決めてしまうことです。
たとえば、以下のような【小さなスタート儀式】をもつだけで、脳は「いまから集中する時間」と認識しやすくなるのではないでしょうか。
- 作業前に、不要なものをすべて一時保管ボックスに入れる
- メモ用紙に、「今日の1タスク」を手書きする(終われば捨てて次に)
- イヤホンを装着して「集中モードの音楽」を流す
これは、スポーツ選手がルーティンをもつのと同じ原理。
「シングルタスクを徹底しよう!」と気合いで頑張るより、集中しやすい環境を習慣化するほうが、現実的で続けやすいのです。
【NG行為3】調べすぎ・考えすぎ
仕事が前に進まない原因として、情報の集めすぎ・考えすぎによる思考の渋滞が起きている場合があります。
言語学・脳科学を専門とする明治大学教授の堀田秀吾氏は、情報過多の弊害について「あれもこれもと検討を重ねているうちに、最適でない答えにたどりついてしまうことがある」と指摘。*4
「時間さえあればいい選択はできる」「情報は多いほうがいい」とは限らないと言います。*4
改善のヒント:制限ルールを設ける
だからこそ、次のような対策が必要です。
- 時間に制限を設ける:例「このテーマについて調べるのは20分だけ」
- 情報選択のルールを決める:例「この3つから選ぶ」「上位5件の検索結果で判断」
調べすぎや考えすぎは「動けない人」になってしまうリスクをともないます。
ルールを設けて割り切って、とにかく一歩進む、とにかく動く。それが、タスクの停滞を抜け出すカギになるはずです。
しかしながら――
結局は割り切ることができず、また思考に戻ってしまうこともあるでしょう。
プラスα案:「行動テンプレート」で断ち切る
そんなときにおすすめなのが、「迷ったときの行動テンプレート」をあらかじめ用意しておくことです。
たとえば、次のように決めておくと、思考の迷宮に入り込む事態を最小限に抑えられるのではないでしょうか。
- 5分悩んだら仮決定
- 選べないときは「いま一番しっくりくるもの」で仮実行
- 悩んだまま進めないときは、逆に「やらない選択」を仮チョイス
こうした【即断の型】を持つことで、「また迷って止まる」ループから脱却しやすくなるのではないでしょうか。
完璧な選択を目指すより、進めながら修正するスタンスこそが、ビジネスの現場では最強の選択肢になるはずです。決断力に自信がない人にも、有効に働くでしょう。
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行動を変えるには、「少しの工夫」と「自分に合ったルール」があるだけで、ずいぶん楽になることがあります。
完璧を目指さず、まずはひとつ、今日のタスクから。あなたの「スッキリ仕事が終わる一日」が、きっと増えていくはずです。
*1: プレジデントオンライン|仕事量はほとんど同じなのに「忙しそうな人」と「余裕のある人」の決定的な違い 「残業する人はいつも同じ」のワケ
*2: ダイヤモンド・オンライン|仕事ができない人ほどついやってしまう「カタカナ6文字」の最悪の習慣とは?
*3: 現代新書|「マルチタスク」で脳の働き効率は低下するーー 記憶で重要な「ワーキングメモリ」とは何か
*4: 東洋経済オンライン|仕事が遅い人が陥りがちな「情報過多」の大弊害 一流人ほど「リサーチに時間をかけない」理由
こばやしまほ
大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。