高校の国語教科書に芥川龍之介の『羅生門』が掲載されていました。
授業の進め方を示す指導書があるようですが、古典和歌の解釈と同様に、その内容が浅薄であり、要点を押さえていないと感じました。
作品への視点が表層的であるため、何度読んでも興趣を覚えませんでした。
私が『羅生門』を読んで抱いた最初の感想は、
「なぜ、芥川はこれほどまでに暗く、寂しく、寒々しい情景を描いているのだろうか?」
というものでした。
そこで私は一旦作品を脇に置き、芥川龍之介とはいかなる人物であったのかを探究することにしました。
その結果、彼の生い立ちや家族関係、養子に出された経緯、そして吉田弥生という女性との結婚を強く望みながらも、養母である叔母の猛反対により破局せざるを得なかったことを知りました。
さらに、その失恋の翌年、すなわち芥川が23歳の時に『羅生門』が発表されたことを知るに至り、これらの事実を知ることで、『羅生門』に込められた龍之介の想いをより深く汲み取ることができました。
以下に、「羅生門に込めた想い」を読み取った私独自の解釈を、龍之介の手紙の形で綴ります。
芥川龍之介よりの手紙
序
全く、もし神が存在するとするならば、私の人生を何と心得ているのか。
底知れぬ闇へと突き落とし、這い上がることすら許さぬとは。
それほどまでに私を苦しめたいのか、あるいは皮肉を言いたいのか。
人の運命を弄び、翻弄することに何の意味があるというのか。
一
私は絶望の淵にあった。
世の理不尽に打ちのめされ、人々の心の暗黒を見せつけられた。
その怒りのままに筆を執った作品——それが「羅生門」だ。
だが、それを「素晴らしい文学」と称する者たちがいるというのは、
実に皮肉な話ではないか。
今や教科書に載せられ、何万人もの者が読むという。
だが、そのうちの一人として、私の心を真に理解した者がいるだろうか。
皆、他人事のように捉え、表面的な解釈に終始している。
この国の文学とは、果たしてその程度のものなのか。
二
そう、私は怒りに震えていたのだ。
胸の内には、言葉に尽くせぬほどの寂しさと苦しみが渦巻いていた。
愛する人との別離、信じていた者からの裏切り、
そして、生きる意味すら見出せぬ虚無感。
私の作品を容易く解釈し、起承転結に分けて語る者たちは、
その背後に渦巻く私の慟哭を、果たして感じ取ったのか。
三
私は失恋をした。
心から愛した人と生涯を共にしたいと願った。
彼女もまた、私を想ってくれていた。
だが、それは許されなかった。
「家柄が合わぬ」
「身分が違う」
「士族の血筋ではない」
幾重にも重なる理不尽な壁が、私たちを引き裂いたのだ。
この社会に生きる限り、己の意志のみで運命を選ぶことは許されぬのか。
四
「大人の事情」という名の理不尽は、
常に若者の夢を踏みにじり、希望を奪い去る。
「羅生門」の若者——彼は私自身である。
彼が抱く憤怒と嫌悪は、そのまま私の心の叫びだった。
そして、あの老婆。
彼女が象徴するもの、それは私を育てた養母の姿に重なる。
信頼し、尊敬していた者からの裏切り。
その絶望を、私は筆に託したのだ。
五
あの薄暗い羅生門の上で、死者の髪を抜く老婆。
それは私が見た「世の真実」の一端にすぎない。
人は己の欲のために、どれほど卑劣なことでも正当化しようとする。
それは、決して彼女一人の問題ではない。
この世界に生きる大人たちが、皆同じではないと言い切れるのか。
六
私はまだ二十三歳。
だが、人生の理不尽というものを、すでに思い知らされている。
世の中は、決して清廉な理想のもとに動いてはいない。
むしろ、自己を正当化するための詭弁が溢れかえっている。
この作品の終わりに「下人の行方は、誰も知らない」と記したのは、
私自身の行く末が定まらぬことへの暗示にほかならない。
果たして、私は純粋な理想を貫くことができるのか。
あるいは、大人たちの欺瞞のなかで生きる道を選ぶのか。
それは、私自身にも分からないのだ。
七(終)
「羅生門」は、彼女との別離の翌年に生まれた。
私の血と涙で綴った、渾身の作である。
この作品が文学として称賛されることを、私は喜ぶべきなのか。
それとも、深い悲しみのなかで書かれたものが、
人々の賞賛を浴びるという皮肉に、ただ苦笑すべきなのか。
——龍之介
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