宮城)人気ラーメン店 学生を心待ち 東北大そば

申知仁
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 東北大学川内キャンパス(仙台市青葉区)のそばに、学生たちに愛されてきたラーメン店がある。店主は大阪出身。人気のラーメンのほか、お好み焼きなど関西風のメニューも並ぶ。新型コロナウイルスのあおりを受けたが、「なんとかなるやろ」と、学生が戻るのを心待ちにしている。

 ホウレン草を練り込んだ緑色の麺に、炒めた白菜や豚肉をかける。ニンニクの香りが、店の外にも漂う。ラーメン店「さわき」の名物は、食べると元気が出るスタミナラーメン(650円)。東北大学新聞にも紹介されたことがある、学生のソウルフードだ。

 店は吉見義雄さん(75)夫妻が1986年に仙台市太白区の八木山で開業し、10年後に川内キャンパス近くへ移転した。夜になると、課外活動帰りの学生たちが連れ立ってラーメンをすすりに来る。客の8割は学生が占めていた。

 開業のきっかけは35年前。当時、大阪府東大阪市で会社勤めをしていた吉見さんは、スキー旅行で訪れていた仙台市の食堂でお好み焼きを食べると、おいしいと感じなかった。

 食い倒れの街・大阪は、おいしい店であふれている。そこで、ひらめいた。「仙台でもっとおいしい店を開いたら、いけるんちゃうか」。すぐに会社を辞め、仙台市の保健所に営業許可を取り付けた。

 スタミナラーメンは、最初に開発したメニューだ。八木山にある東北工業大学の学生向けに、おなかがふくれて野菜もたっぷり取れる料理を考えた。さらに客の要望に応じて、お好み焼きや牛すじ肉を煮込んだ土手焼きなど、関西風のメニューを増やしていった。

 「客に育ててもらった店」には、開業当初の常連客が孫を連れて来店するようになった。「義理がたい人が多い」という仙台の土地にすっかりなじんだ。

 そこへコロナ禍が襲った。4月になると、仙台市内でも感染者が連日のように確認された。新年度から授業をオンラインで実施することになった東北大学からは、学生の姿が消えた。客足は途絶え、1週間の休業を余儀なくされた。4月の売り上げは通常の10分の1に落ち込んだ。

 それでも動じなかった。「こんなんが何年も続くとは思わない。なんとかなるやろ」。長い付き合いの客が大勢いる。今さえしのげば、必ず戻ってきてくれると信じた。空いた時間は新たなメニューの開発に取り組み、大阪名物「いかやき」などを採り入れた。

 6月ごろには常連客が戻り、売り上げは8割ほどにまで回復した。30席ほどの小さな店を夫婦だけで切り盛りしており、経営コストが小さいことも幸いした。

 それでも、学生客はまだ少ない。オンライン授業が続き、これまで通りの生活がままならない学生たちに、吉見さんは「悪いことの裏にはいいことがある」とエールを送る。ラーメンを食べて、この困難を自分の力で乗り越えるスタミナをつけて欲しい――。そんな思いで、日々料理を仕込んでいる。

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この記事を書いた人
申知仁
コンテンツ編成本部|編集者
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紙面編集、ニュースレター、動画