第1回AIが政治家に示した「声」、それは民意か誘導か 問われる民主主義

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古賀大己
【動画】AIと民主主義
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 「今週、寄せられた意見が増えましたね。江藤拓農林水産大臣の発言への意見もありますが、コメが高い、野菜が高い、物価高騰(への不満)が増えてきたのが目に見えて確認できます」

 5月23日夜、国民民主党の動画ライブ。リアルタイムで約1200人が視聴する中、参院議員の伊藤孝恵(49)が語りかけた。電話やインターネット経由で寄せられた約2千件の意見を、人工知能(AI)でテーマごとに分類し、内容を毎週、紹介している。

 3月7日の参院予算委員会では、就職氷河期世代についてSNSなどの投稿をAIで分析し、首相の石破茂(68)に質問をぶつけた。

 「総理、この一つ一つの点が一人一人の意見です。年金、住宅、親介護ダブルケア……。政府の政策は雇用に偏りすぎています。再検討が必要ではないですか」

 伊藤は資料を示した。氷河期世代の当事者たちが求めるものと、政府の支援策はミスマッチだと指摘したのだ。

 「雇用に偏っているなら、どう改善すべきか。指摘をたまわりたい」。石破は言った。

 伊藤が示した資料は、AIを使ってSNSの多数の「声」を可視化したものだ。就職氷河期世代がどんな悩みを抱え、何を政治に求めているのかを知るため、SNSや電話で寄せられた声を分類するよう、伊藤が指示を出していた。

孤独、生活保護…AIが示した氷河期世代の課題

 AIが示したのは、氷河期世代の抱える課題が「社会からの孤立」「雇用への不安」だけでなく、「親の介護負担」「年金、生活保護」に広がっていることだった。

 やっぱり、そうなんだ――。年齢を重ねたこの世代のつらさや悩みは雇用の問題にとどまらないのではないか。漠然とそうした思いを抱えていたが、AIが可視化した「声」の散布図を見て、伊藤は確信を得た。

急速に進化するAI。政治家が相次いで活用に乗り出しています。AIが民意を可視化し、政策に反映させることができれば、民主主義はうまく機能するのでしょうか。AIと政治の最前線を追いました。

 業界団体の陳情でもない。メ…

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この記事を書いた人
古賀大己
政治部|総務省、朝日・東大調査
専門・関心分野
エネルギー、労働問題、web3、総務省
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    佐倉統
    (実践女子大学教授=科学技術社会論)
    2025年5月25日4時0分 投稿
    【視点】

    特定の関連団体や身近な周囲ばかりの声を拾うより、プロンプトに工夫を凝らした生成AIの方が民意を広くすくい上げることができるのは当たり前だ。AIだと偏るという批判は、既存の方法と比較しなければ無意味だ。どんな調査もひとつだけで十分なはずもなく

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    藤田直哉
    (批評家・日本映画大学准教授)
    2025年5月25日4時0分 投稿
    【解説】

    AIと言えば聞こえがよく最新の印象がありますが、今までも政党がやっていたSNSなどでの「ソーシャル・リスニング」をAIを使って効率化しているだけ、というような気もします。でも、AIを使うことでより早く広くそれが出来て、説得的な資料に出来得る

    …続きを読む