映画「国宝」異例ずくめの大ヒット 常識を覆したSNS、分析で判明

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平岡春人 野田陽 山内洋輝
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 邦画の実写として興行収入の歴代最高記録に迫っている「国宝」は、異例の経緯をたどりながら大台の150億円を突破した。歴史的なヒットは、SNSが普及した時代ならではの現象だと推測する声が上がっている。SNSは躍進をどう手助けしたのか。

東宝専務も困惑「なぜヒットしたか分からない」

 空前のヒットとなった「国宝」だが、配給する東宝で数々の作品にプロデューサーとして関わってきた市川南専務は「興行収入が30億円を超えることも見通せなかった」と明かす。

 封切られたのは6月6日で、その週末(6~8日)の観客動員数は3位。同日公開の「リロ&スティッチ」や、公開4週目の「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」(先行上映含む)より低い成績だった。週末興収は3.4億円で、「リロ&スティッチ」の6割にとどまった。

 大手映画会社が製作する映画は、公開直後に観客が集中し、日が経つにつれて興収が「右肩下がり」になるのが一般的だ。「国宝」について、興行を左右する初週は「映画館によっては空席も少なくなかった」と東宝の担当者。さらに上映時間は長尺の約3時間で、1日に上映できる回数が2時間前後の作品よりも限られる。大当たりとはいかない、という見方が強かった。

 しかし、「国宝」の週末興収は、公開2週目から5週目にかけて、4週連続で前週を上回った。映画業界紙の文化通信によると、4週連続で前週比増を記録したのは、2000年以降の東宝作品で初めて。公開5週目の週末興収は6.4億円で、初週の倍近くまで上昇したという。

 その後も勢いは収まらず、8月15日に興収100億円を突破した。過去20年間、100億円を超えた邦画15作品はいずれもアニメで、邦画の実写が大台に到達したのは22年ぶりのことだった。

 過去に100億円を超えた邦画の実写は「踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」(03年、173.5億円)と「踊る大捜査線 THE MOVIE」(1998年、101億円)、「南極物語」(83年、110億円)の3作品。いずれもフジテレビが製作に携わっている。3作に続く「子猫物語」(86年、98億円)と「劇場版コード・ブルー ―ドクターヘリ緊急救命―」(18年、93億円)もフジによる「テレビ局映画」だ。

 邦画の実写は、原作の圧倒的な人気や、テレビ局による大々的な宣伝なしに、大台には到達できない――。「国宝」は、そんな業界の常識をも打ち破った。市川専務は「そもそも古典芸能という題材は見る人が限られるし、若年層に届かないと思っていた。どうしてここまでヒットしたのか、いまだに分からない」と話している。

Xの投稿31万件分析 最多は初日ではなかった

 「国宝」の異例ずくめの大ヒットには、「前兆」があった。今年のはじめ、興収を「右肩上がり」に伸ばす邦画実写が相次いで生まれていた。

 1月10日公開の「366日…

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この記事を書いた人
平岡春人
文化部|映画担当
専門・関心分野
映画、音楽、人権
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    松谷創一郎
    (ジャーナリスト)
    2025年9月25日19時37分 投稿
    【解説】

    映画では、口コミによる意外なヒット作品は数年に一度は生まれます。ただ、SNSなどによってこうした現象が起こりやすくなっている傾向は間違いなくあります。 『国宝』の場合、メインの観客層は50代以上の中高年です。この世代がSNSやLINEなど

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