【体験談】「めっちゃ山の上にある」キャンパス、それでも…都心部の志願者を集める大学

2024/07/11

特集:キャンパスと大学選び

最近の大学のキャンパス移転に共通する大きな特徴は、郊外のキャンパスから、大きな駅に近い都会の中のキャンパスへ移る「都心回帰」です。しかし、都会から大きく離れた地方にキャンパスがありながら、都心部の志願者を集め続ける大学があります。なぜなのでしょうか。キャンパスの立地だけでは語れない大学の魅力がポイントであることがわかります。(写真=立命館アジア太平洋大学の田隅千晶さんら、本人提供)

不便でも魅力の多い郊外型

「関西を含めた首都圏以外の大学が東京で説明会を開いて、高校生が一番集まるのはこの2つの大学」と予備校幹部が言う大学があります。大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)と、秋田市にある公立の国際教養大学です。

実際、APUの日本人学生のうち、関東(1都6県)の高校出身者は26.7%とほぼ4分の1(2024年5月1日現在)。出身都道府県別で最も多いのは、福岡県(385人)でも地元・大分県(282人)でもなく、断トツで東京都(473人)です。国際教養大学も、関東の出身者が30.0%(23年4月1日現在)。最も多いのは地元・秋田県(125人)ですが、東京都(98人)がそれに続きます。

関東出身比率は、APUの母体である立命館大学で5.4%(23年5月1日現在)、東京からの進学者が近年増えている京都大学が24年度入学者で17.0%なので、APUと国際教養大学が遠く離れた首都圏からいかに多くの志願者を集めているかがわかります。

APUは2000年、国際教養大学は04年に開学しました。APUでは世界109の国と地域からの学生がともに学び、学生も教員もほぼ半数が外国人、国際教養大学はすべての授業が英語で少人数で行われ、1年間の留学を義務づけるなど、グローバル教育が共通する特徴です。

別府湾を見下ろす標高300メートルの「天空」――APUのキャンパスを、在学生は親しみを込めてそう呼びます。

アジア太平洋学部 3年の田隅千晶(たすみ・ちあき)さんは、入学前は出身地の神戸市とはまったく異なるキャンパスの周辺環境に不安を感じました。しかし、その環境が徐々に心地よいものに変わっていき、現在はオープンキャンパスの企画・運営に携わるなど、「APUが大好き」と語るまでになりました。田隅さんにこの間の変化を聞きました。

APU3年の田隅千晶さん。アジア太平洋学部で文化・社会・メディアを専攻している(写真=本人提供)

「めっちゃ山の上にあった」

――APUを志望した理由を教えてください。

高校時代から韓国に興味があり、独学で韓国語を勉強していました。大学でも韓国に関連する勉強がしたくて、他大学の韓国語学科も検討したのですが、すでに韓国語能力試験で一番上の6級を取得していたので、入門から勉強し直すのは時間がもったいないかな、と思っていました。そこで、韓国語そのものではなく、韓国語を使って韓国の社会や学生が抱える問題について学べる大学を探した結果、たどり着いたのがAPUでした

APUは学生の半数近くが国際学生(外国人留学生)で、韓国から来ている留学生もたくさんいます。コロナ禍だったこともあり、高校時代は同世代の韓国人と接する機会がなかったので、大学で韓国人の友達を作りたいという思いもありました。

――APUのキャンパスは周辺に飲食店もほとんどなく、「陸の孤島」のような所にあります。田隅さんは神戸市出身ですが、不安はありませんでしたか。

不安しかありませんでした(笑)。高校3年の夏に両親とオープンキャンパスに来たら、めっちゃ山の上にあるし、周りには本当に何もない。通っていた高校は大阪駅から徒歩圏内で、当時はカフェ巡りが何よりの息抜きだったのですが、ここでは無理だろうなと思いましたね。それでもAPUを選んだのは、大学の雰囲気が良かったからです。オープンキャンパスで見た学生の様子は、想像以上に生き生きとしていて、いい印象を持ちました

雨の後、霧に包まれるAPUのキャンパス。「初めて見た時は『ハリー・ポッターのホグワーツ城みたい』と思いました」と田隅さん(写真=本人提供)

カフェで息抜き、不便さには慣れた

――実際に生活してみて、いかがですか。

入学してからの1年間、新入生の大半はキャンパス内にある「APハウス」という寮で生活します。APハウスでは寮生の半数を国際学生が占めているので、友達を作ったり他国の文化を知ったりするのにはいい環境です。大学が始まる前に寮に入居するので、入学式の時点ですでに友達ができていました。

それでも、気分転換や息抜きができる場所が近くにないことは、最初は想像以上にしんどかったですね。

入学したばかりのころは、休日もどこへ行けばいいのかわからず、ほとんど外出しませんでした。 遊びに来た親や高校時代の友達と近隣の観光スポットを何度か訪れるうちに、ようやく「別府って、こんないいところもあるんだ」と思えるようになりました。別府という場所の良さに気づいたことも、学生生活が楽しくなった理由の一つです。

晴れた日に、キャンパスからグラウンド越しに見下ろす別府湾の風景(写真=本人提供)

 ――カフェ巡りはできなくても、十分息抜きはできそうですね。

今もカフェ好きは変わっていません。ただ、高校時代はインスタグラムで見たお店やSNSで話題のお店に行きたいと思っていましたが、今はそんな「映え」にはこだわらず、カフェでリラックスできる時間そのものを楽しめるようになりました。最近のお気に入りは別府公園の横のスタバ。公園の緑やお花を見ながら過ごすコーヒータイムに、癒やされています。

春の別府公園は、桜やチューリップが満開に(写真=本人提供)

遊びも勉強も全力のAPU生

――街中から離れた場所にキャンパスがあるメリットは、何だと思いますか?

勉強の時間とリフレッシュの時間を切り替えやすいことですね。学校周辺に寄り道をするようなところはないので、学期中は勉強を頑張ろうという気持ちになれます。そのぶん、休みになると旅行やショッピングに出かけて、思い切り楽しみます。勉強も遊びも全力で、というのがAPU生のスタイルです。

また、友達とのつながりは、こういう立地だからこそより一層強くなりました。特に1年生のときは寮に住んでいたので、共同キッチンで一緒に料理をしたり、体調が悪くなったときに友達がお粥を持ってきてくれたり、国際学生がホームシックになったら、出身国の料理が食べられるレストランを探して一緒に行ったりしました。学校の周りに娯楽施設や息抜きスポットがたくさんある場所だったら、みんな過ごし方もバラバラで、ここまで仲良くなれなかったかもしれません

国際寮の教育効果

APUの特徴の一つは、入学して1年間、国際学生と日本人学生がAPハウスと呼ばれる国際教育寮で共同生活することです。言語も文化も生活習慣も違う人たちと共同生活する機会があることで多様性への理解が深まるだけでなく、寮生の世話をするレジデント・アシスタント(RA)などさまざまな役割が割り振られ、リーダーシップ力が育成されると言われています。国際寮の教育効果に最も早く気付いたのがAPUで、その後、国際教養大学をはじめ、各大学に広がっていきました。

また、授業は90%以上の科目が日本語と英語の2言語で開講されるほか、各国の伝統舞踊や音楽、料理などを紹介する「マルチカルチュラル・ウィーク」が夏と冬にあり、「インドネシアウィーク」「ベトナムウィーク」など国・地域ごとに週替わりで開催され、多くの別府市民も各国の文化を楽しみます。運営はすべて学生に任されています。

キャンパスが都会から離れた場所にあるにもかかわらず、こうした特徴的な教育環境が首都圏から学生を集める要因になっているようです。最後に、田隅さんに受験生へのメッセージを聞きました。

入寮して間もない頃に、フロアメイトの誕生日を皆で祝った時の集合写真。韓国、モンゴル、ベトナム、インドネシア、タイ、日本と出身地の異なる友達がたくさんできた(写真=本人提供。田隅さんは最上段一番左)

立地の不便さには絶対に慣れます! APU生は立地などの不便な部分も理解した上で、目的を持ってこの大学を選んだ人たちなので、学生生活を充実させることに対しては、みんな積極的です。たくさんの刺激をもらいながら成長できる大学だと思うので、興味のある人はぜひオープンキャンパスに来てみてください。

>> 【特集】キャンパスと大学選び

(文=木下昌子、中村正史)

1pxの透明画像

記事のご感想

記事を気に入った方は
「いいね!」をお願いします

今後の記事の品質アップのため、人気のテーマを集計しています。

関連記事

注目コンテンツ

キャンパスライフ

お悩み

NEWS