本文へ移動

1回につき約12万円支払うケースも…楽曲の権利処理はフィギュア界の喫緊の課題 専門家が指摘した、システム構築の前にまず取り組むべきこと

2025年6月2日 08時52分

このエントリーをはてなブックマークに追加

町田樹氏


◇記者コラム「Free Talking」
 1回につき800ドル(約12万円)―。これはフィギュアスケート男子の鍵山優真が今季のエキシビションを舞う際に、楽曲の権利者へ支払う使用料だ。昨年11月のグランプリ(GP)シリーズ・NHK杯後、権利者が使用許諾をしていないとして、鍵山側に連絡。交渉の末、1回800ドルで双方が合意したという。
 楽曲の権利処理はフィギュアスケート界が持つ喫緊の課題だ。ショートプログラム(SP)、フリーともに演技時間に制限があるため、ほぼ全ての曲に編集が必要。著作権者の意に染まない改編を禁じている「同一性保持権」の観点から、プログラムでの使用には著作権者の許諾が必要だ。かつては作者の没後70年が経過し権利が消滅したクラシック曲の使用がメインだったが、2014年にボーカル入りの曲が解禁。権利侵害のリスクが極めて高くなった。
 しかし、22年に米国のペアが訴訟に巻き込まれるなど2020年代に入って問題が頻発した。ソチ冬季五輪男子シングル5位で、著作権に詳しい国学院大の町田樹准教授(35)は「近年のAIテクノロジーの発展によって、さらに差し止め請求や損害賠償請求のリスクが高まっている。また、今は誰もが音楽クリエーターになりうる時代。大手の著作権管理事業者が管理していない音楽を使用するケースも増えている」と、その理由を分析する。
 国際スケート連盟(ISU)の提携企業を通じて許諾を得るシステムは存在する。しかし、関連する法律や運用は各国で異なる上、提携企業で管理されていない楽曲も当然ある。町田准教授は日本において「音楽業界と競技連盟が新しい権利処理の方法やシステムを独自に開発、ないしは協定を結んで構築していく試みがなされてしかるべきだ」と主張する一方、まずはスケーター側が作曲者や演奏者、歌唱者の名前が明記される権利「氏名表示権」の順守に取り組むべきだと話す。
 「クレジット(名前表示)をつけるか、つけないかは音楽家に対する敬意。音楽に対する尊重の気持ちをクレジットの表示で示せば、フィギュア利用に異を唱える音楽家はほとんどいないと思う。これは法律問題である以前にマナーの問題」。精神論かもしれないが、人の気持ちは出発点。スポーツの根底にある精神を体現すれば、前に進む部分はあるはずだ。
(冬季スポーツ担当・渡辺拓海)

関連キーワード

おすすめ情報

購読試読のご案内

プロ野球はもとより、メジャーリーグ、サッカー、格闘技のほかF1をはじめとするモータースポーツ情報がとくに充実。
芸能情報や社会面ニュースにも定評あり。

中スポ
東京中日スポーツ 電子版