
eigoMANGAは、2025年5月21日に各所で発表した、格闘ゲーム『ヴァンガードプリンセス』の米国・日本における“正式な知的財産権保有”を主張する文言を削除しました。
突如宣言された“正式な知的財産権保有”―発表の削除に関するアナウンスは無し
『ヴァンガードプリンセス』とは、2009年にスゲノトモアキ(SUGE9)氏が公開した、優れたドット絵とキャラデザインでカルト的な人気を持っていたフリーソフトの対戦格闘ゲームです。同氏は2011年8月からブログの更新が途絶えていましたが、翌年にアメリカのeigoMANGAが本作を原作に英語対応の『Vanguard Princess』を販売開始しています(ソースにより日付は分かれるが、Amazonでは2012年と記載)。
同社は原作者スゲノ氏とコンタクトを取っていることや、ライセンスの取得に利益を分配している旨などを説明していましたが、明確に許可を得ている証拠は明かされていないうえ、その他にも原作ゲームに使われたエンジン「2D格闘ツクール2nd.」の利用規約違反といった様々な疑惑が取り巻いていました。
そんななか、同社は2025年5月に、自らが日本と米国における「唯一の正当な権利者およびライセンサー」であるとSteamニュースと各SNSで発表しました。
当該の発表は、アメリカ合衆国特許商標庁に対し同作の商標を同社が登録したことのほか、日本の文化庁がかねてより孤児著作物(著作権者の行方がわからない著作物)に対し行っていた「裁定制度」(必要な各種の手続きと、供託金の提出をもって国が該当の著作物の利用を一時的に認める制度)の認定をもって、同作の正式な著作権者になった、とする旨のものでした。
実際のところ、裁定制度は著作物の独占的な権利主張のための仕組みではまったくなく、弊誌取材に対して文化庁も「著作権が申請者に移転する、というような仕組みではない」と回答を行っています。なお、裁定制度は、著作権者の現連絡先や所在が不明であることが利用の前提として存在しており、文字通りに捉えるならばeigoMANGAは実際にはスゲノ氏の有効な連絡先を(いつの時点からかはともかく)知らない、とも捉えられます。
この権利の濫用事例は、文化庁が2026年度の開始を目指している「裁定制度の利用ハードルを下げる試み」が、SNSなどを中心に「国家が、第三者による著作物権利の簒奪を推奨する行為である」として批判を集めていたことなどを受け、広く注目を集める結果となったようです。
いずれにしても、eigoMANGAが日本時間2025年5月27日近辺に、一切の告知なく該当の権利主張の投稿の削除を行ったというのが、今回の出来事です。なぜ投稿が削除されたのかは、本記事執筆時点では明らかとなっていません。発表があった痕跡は執筆時点でもGoogleでの検索結果から見られます。
裁定制度自体は、ゲームが映像の著作物同様に復刻のための大きな壁として抱える、(一部)権利散逸の問題の解消の手段として期待を集めており、すでに様々なレトロゲームの復刻のため運用された実績があります。一方で、今回の一件や直近のSNSにおける批判が示すように、制度の正しい周知や、権利の濫用が見られた際の対応が強く求められている状況です。
権利をいまも持つはずの原作者不在の状況で展開する、第三者による『ヴァンガードプリンセス』権利主張は、結果として孤児著作物の扱いにおける難しい側面を浮き彫りとしたようです。
