深刻度MAXのゴミ屋敷から猫20匹 支援拒否する飼い主の「心の扉」開いた秘密の鍵

ねこから目線。の現場から

飼い主さんが小さな子供と生活していたわずかなスペース
飼い主さんが小さな子供と生活していたわずかなスペース

今回は、株式会社として有償サービスを提供する「ねこから目線。」とは別に、私が取り組んでいる「人もねこも一緒に支援プロジェクト」というNPOの現場でのお話を紹介します。

発端はこんな電話でした。「ちょっと猫が増えて困ってんねん。何匹か引き取ってもらえへんやろか?」

「室内で繁殖してるんですよね? 数匹引き取っても解決にならないので、全頭不妊手術ならお手伝いできます。一度お伺いさせてください」と伝えると、「家は汚いから、中には入れられへんで」。いえいえ、猫さんのためですから汚くても大丈夫です。一緒にどうしていくか考えさせてください、とお伝えして訪問が決まりました。

玄関に入ると、たくさんのかわいい猫さんたちが出迎えてくれました。ただ、室内にはゴミや物が散乱し、その上に猫さんの糞尿(ふんにょう)が堆積。比喩ではなく〝足の踏み場がない〟状況でした。4室ある広い家でしたが、3室はモノで埋まり、飼い主さんは1室の1枚の布団の上のスペースで小さな子供と暮らしていました。猫さんは乳飲み子も含めて20匹と、多頭飼育としては初期レベルですが、ゴミ屋敷が深刻度MAXです。

玄関を開けると出迎えてくれた猫さんたち
玄関を開けると出迎えてくれた猫さんたち

行政機関でつながっているところがあるか尋ねると、生活保護のケースワーカー(CW)さんと子育て支援課のワーカーさんは何年も前からつながっている、とのことでした。にもかかわらずこの状況であることに疑問を覚えつつ、まずは市役所に行きました。担当のケースワーカーさんに室内の写真(飼い主さんに許可を得たもの)を見せながら、猫だけではなく人の支援が必要で、人もねこも一緒に支援方法を考えましょう、と提案しました。

行政とも無事につながることができて一安心-と思っていましたが、大きな間違いでした。飼い主さんが抱える問題が多岐にわたりすぎるため、生活福祉、高齢者福祉、動物愛護、子供支援、住宅課…など関係部局が多く、「誰が支援の主体になるのか」も含め、支援方針の決定は困難を極めたようです。

紆余曲折、山あり谷あり、関係各所と話し合いを重ねた末、飼い主さんの引っ越し支援と一部の猫の飼育支援を行うことが決まりました。「人ねこ」では全頭の不妊手術と10匹の譲渡支援を行い、飼い主さんも8匹を知人などに譲渡され、2匹だけを引っ越し先で飼い続けることになりました。

行政の複数部局が関わる事案で、多頭飼育崩壊を起こした飼い主さんに猫さんの一部の飼育継続が認められたことはとても画期的でした。要因は、福祉関係者が長年全く入れなかったおうちに、猫のNPOはスルッと入れたからでした。長い目で見れば、強制的に猫を手放させて再び家の扉を閉ざさせるより、一部イレギュラーを認めて信頼関係を構築する方が大切だと考えてくれたようです。

たくさんのモノが積み重なったキッチンは足の踏み場もない状態でした
たくさんのモノが積み重なったキッチンは足の踏み場もない状態でした

ゴミ屋敷から猫20匹との引っ越しは大変でしたが飼い主さんも頑張り、社会福祉協議会さん、部局の垣根を越えた職員さんたちの協力で無事に終わりました。「困難ケース」「支援拒否」といわれていたおうちに、「猫」がきっかけで人への支援が動き出すことは、実は結構多くあります。一番厄介だと思われていた猫が実は扉を開く鍵-というのは難しくいえば「家族システム論」的アプローチなのですが、分かりやすく「ねこから目線。で動く支援」的な考え方として広まれば、と思っています。

猫を飼っていることがバレたら生活保護を打ち切られてしまうかもしれない、ゴミ屋敷になっていることがバレたら子供を取り上げられてしまうかもしれない…。さまざまな不安から、SOSを出したいのに出せない人が多くいます。そんな中、「猫さんの飼育支援をしているNPOです」と伝えると、鉄壁だといわれていたおうちの扉が開きやすくなるのは、何となく理解できますよね。

状況はかなり改善したとはいえ、これからも飼い主さんご家族と猫さんの生活は続きます。「人ねこ」では細く緩くも、長く見守っていけたらいいなと思っています。

保護猫活動は各地で個人や団体のボランティアなどにより行われています。私が関わりのある団体さんの活動を紹介します。

人もねこも一緒に支援プロジェクト

ペットを飼育していながらも福祉的な支援が必要な個人や家族に対し、ペットも含めて家族として捉え、多機関と連携して支援を行うプロジェクトです。

NPO法人「FLC安心とつながりのコミュニティづくりネットワーク」の1プロジェクトとして平成29年に発足しました。ペットと暮らしながら生活につまずいてしまった方は、家族同然のペットとの生活を諦めなければいけないのか。人もねこも一緒に支援していくことはできないのか。模索しながら日々活動を行っています。

メンバーは社会福祉士、精神保健福祉士、心理士、研究者など。対人援助職者をメインに構成されています。

支援情報

生活困窮世帯への猫の飼育支援として、飼い猫さんへの不妊手術と動物病院への送迎を無料支援しています。関西エリアに限りますが、どなたでもお気軽にご相談ください。電話(050-1808-6766)、メール([email protected])、ラインで受け付けています。

福祉職と愛護ボランティア情報交流

高齢者世帯や生活困窮世帯における多頭飼育崩壊の問題が顕在化しつつあります。そのような世帯と直接関わることになる福祉職(ケアマネなど)と、動物の保護や飼育支援のノウハウを持つ動物愛護ボランティアの相互理解と情報交流を目的に、勉強会と交流会を行います。

◇「福祉と猫の勉強会&交流会」~社会福祉と動物愛護の予防的連携に向けて~

京都光華女子大学(京都市右京区西京極葛野町38)光耀館2F・274教室で7月26日(土)午後1~5時、参加費無料。「人もねこも一緒に支援プロジェクト」主催、京都光華女子大学(社会福祉専攻/心理学科)共催。

小池英梨子

小池英梨子さんと猫
小池英梨子さんと猫

立命館大学大学院応用人間科学研究科対人援助学領域修了。「ねこから目線株式会社」(大阪市)代表、「人もねこも一緒に支援プロジェクト」(NPO法人)代表。平成16年から猫の保護譲渡やTNR活動をスタ

ート。大学院でノラ猫をテーマに「共生と共存社会のリアリティ」について研究し、29年に猫の多頭飼育崩壊など、ヒトの福祉と猫問題への並行支援が必要なケースに対応するため「人もねこも一緒に支援プロジェクト」を立ち上げる。30年に保護猫・ノラ猫専門のお手伝い屋さん「ねこから目線。」を設立。京都、福岡、沖縄にも拠点を置き、ライスワークもライフワークも猫にまみれている。

許せない!保護猫譲渡をかたる詐欺 「子猫が無料」は疑って

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