小泉新農相 就任会見で「備蓄米入札を中止 随意契約を検討」

新たに就任した小泉農林水産大臣は21日夜、就任会見に臨み、来週予定していた備蓄米の入札をいったん中止し、個別の相手に売り渡す「随意契約」に見直す方向で検討に入ったことを明らかにしました。

「来週の備蓄米入札は中止 ゼロベースで随意契約の検討」

みずからの発言の責任を取って辞任した江藤前大臣の後任として新たに就任した小泉農林水産大臣は21日夜、農林水産省で就任会見に臨みました。

この中で小泉大臣は、石破総理大臣から随意契約を活用した備蓄米の売り渡しを検討するよう指示を受けたことを明らかにしたうえで「来週予定していた備蓄米の入札をいったん中止し、随意契約のもとでどのような条件で売り渡しができるかなど具体的な対応策を早急に整理するよう事務方に指示を出した」と述べました。

さらに「新たに始める随意契約の中で明確に価格を下げていきたい。いまゼロベースで新たな制度を考えるように指示を出していて、仮に需要があった場合は無制限に出すことも含めて今までとは違う大胆な手が必要だと思っている」と述べ、コメの値下がりを実現するため、備蓄米の放出についてあらゆる観点から見直しを検討していく考えを示しました。

また随意契約の相手方としてどのような業者を想定しているか問われたのに対し「幅広く募りたい。スーパーや外食業者も含めて随意契約によって幅広く現場に届けていくため調整している」と述べました。

政府はこれまで備蓄米の放出にあたっては高い価格を提示した業者に売り渡す「競争入札」で行ってきましたが、コメの価格の高止まりにつながっているのではないかと見直しを求める声が上がっていて、随意契約への変更でコメの値下がりにつながるのか注目されます。

「まずはコメの価格を下げる」

小泉農林水産大臣は就任会見で現在のコメの価格水準について「およそ1年前と比べて2倍ほどに上がっている地域がある。この1年間で物価高を感じている方は非常に多くいるが、1年間でおよそ2倍に上がる商品はほかにあまりない」と述べました。

石破総理大臣が党首討論の中で「コメは3000円台でなくてはならず、1日でも早く、その価格を実現する」と述べたことについては「あまりに高い、異常な高騰を食い止めたい、安心してもらいたいという思いの中で3000円台という形で触れたと思う。ただ、去年の価格と比べると仮に3000円台でも高いと思われる地域があると思う」と述べました。

そのうえで「大事なのは今の水準からどのくらい下がったかではなくこの急激なコメの高騰の前はいくらだったかを忘れないことだ。例えば北海道ではたしか3700円ぐらいだが去年は3000円台ではなかった。消費者がこの1年間でこんなに上がってしまったという感覚に寄り添う価格にどこまで近づけられるかを考えていきたい」と述べました。

今後のコメ政策の在り方については「まずはコメの価格を下げることを実現する。その上で最終的にコメが余った時にどうするのか、輸出や新たな需要の開拓を含めて考えていくほか、農家に対するセーフティーネットなども農林水産省全体として取り組みたい」と述べました。

日米交渉「農業を犠牲にしない方針のもと国益確保に向け対応」

小泉農林水産大臣は就任会見でトランプ政権の関税措置をめぐる日米交渉について「わが国の農林水産物と食品の輸出のうちアメリカ向けは全体の17%を占め、輸出額は2429億円にのぼるなど、アメリカの関税措置による輸出への影響は小さくない。日米交渉にあたっては農業を犠牲にしないという方針のもと、国益の確保に向けて関係省庁と連携してしっかりと対応していく」と述べました。

赤澤経済再生担当大臣は22日から25日までの3日間の日程でワシントンを訪問し、アメリカとの閣僚交渉に臨みます。小泉大臣は「赤澤大臣には日本の農業を守る、決して犠牲にしないという思いを持ちながらトランプ政権との交渉に臨んでもらいたい。トランプ大統領にとっては貿易赤字の解消がものすごく重要だが農林水産分野だけを見れば、日本がおよそ2兆円の貿易赤字だ。こうしたことを踏まえてお互いにとってウィンウィンになるような交渉結果につなげてもらいたい」と述べました。

コメ価格を押し下げ 国民の信頼回復できるか

新しく就任する小泉農林水産大臣にとっては、高騰が続くコメの価格を引き下げられるかが最大の課題となります。

ことし3月に政府が備蓄米の放出を始めて以降も、コメの価格高騰はおさまっておらず、スーパーでのコメの販売価格の平均は、去年の同じ時期に比べると2倍程度の高値が続いています。放出した備蓄米が十分に行き渡っていないといった声も上がっていて、ことし3月に落札された備蓄米21万トンのうち、先月(4月)27日までに消費の現場に届いたのは、全体の10%あまりにとどまっています。

農林水産省は、先週、備蓄米の流通に関する改善策を打ちだしましたが、コメの価格の下落につながるかは依然として不透明です。江藤前大臣は、コメの価格高騰が続く中で、「コメは買ったことはありません」などと発言した責任をとって辞任しただけに、小泉新大臣にとっては、コメの価格を押し下げ、国民の信頼を回復できるか手腕が問われることになります。

また、農産物をめぐっては、関税措置に関する日米交渉で、アメリカからの大豆やトウモロコシなどの輸入拡大が焦点のひとつとなっています。大豆については、貿易摩擦の激化でアメリカから中国への輸出が減少することになれば、日本がその受け皿となる案が出ているほか、トウモロコシも飼料用などで輸入を拡大する案が検討されています。

小泉新大臣にとっては、こうした日米交渉で焦点となる農産物の輸入拡大にどう対応していくかも課題となります。

小泉新大臣 JAグループ改革に取り組んだ経験

小泉新大臣は、2015年10月から自民党の農林部会長を務め、JAグループの改革に取り組んだ経験があります。

政府の規制改革推進会議は、2016年11月、農業の競争力強化に向けて、JA全農=全国農業協同組合連合会に対し、1年以内に肥料や農薬などの販売事業をとりやめることや、農家から手数料を取る形での農産物の委託販売を廃止することなどを求める提言案を打ち出しました。

これに対して、JAグループのほか、自民党内からも「行き過ぎた介入だ」などと強い反発が出て、当時、党の農林部会長を務めていた小泉氏は、党内と政府、そしてJA側との調整にあたりました。

その結果、農薬や肥料などを販売する部門のスリム化や、委託販売からの転換などの改革を求めた上で、反発のあった「1年以内」という期限は見送られ、数値目標を盛り込んだ年次計画の策定を求める形での提言の決定につながりました。

当時、小泉氏は「まとめるにあたって苦しんだことも事実で、農協側の要求を飲むところは飲んだ。今後、自らで改革できるかどうかが問われる」と話していました。その後、JA全農は2017年3月、農産物の小売店などへの直接販売を大幅に増やして、流通コストを削減するなどとした具体的な対応策を決定しました。

小泉氏は、21日、総理大臣官邸で記者団の取材に対し「いままでの日本の農政を考えたときに、ややもすると組織・団体にあまりにも気を遣いすぎて、本来であればもっと消費者の目線でやってこなければならなかった改革が遅れている。コメは、まさにその象徴的な1つの政策だ」と述べました。

その上で「幅広くコミュニケーションをとって、ともに前に向かって、新しい時代の農林水産行政を築き、消費者の理解と生産者の意欲が距離感が縮まるような関係が築ければ、日本にとって前向きな方向に転換できるチャンスにもできるのではないか」と述べました。

小泉氏「『コメ担当大臣』だという思いで集中して取り組みたい」

小泉氏は21日午後、総理大臣官邸で石破総理大臣と会談したあと記者団に対し、江藤農林水産大臣の後任に起用することを伝えられたと明らかにしました。

小泉氏は記者団に対し「国民が日々、一番不安に感じているコメの高騰に対してスピード感を持って対応できるよう全力を尽くす。『コメ担当大臣』だという思いで集中して取り組みたい」と述べました。

その上で「今この局面で大事なことは組織や団体にそんたくしない判断をすることだ。『族』とか『非主流派』とかを抜きにして、コメの価格の高騰やマーケットに足りているかという不安を解消したい」と強調しました。

一方、コメ政策をめぐっては「今までの政策に十分効果があればこういったことになっていない。今までの反省を農林水産省がどう総括しているかを聴いた上で次の政策を打ち込んでいきたい。消費者目線でコメ政策を進めていると思ってもらえるよう、政策でお返ししたい」と述べました。

ノーカット動画 (10分43秒)

小泉氏の記者団への発言をノーカットでお伝えします。
(※データ放送ではご覧になれません)

石破首相「課題山積 全力で取り組んでもらいたい」

また、石破総理大臣は記者団に対し「小泉氏には現下のコメ価格の高止まりの状況に鑑み、特に消費者に安定した価格でコメを供給できるよう強力に取り組みを推進することと、随意契約を活用した備蓄米の売り渡しを検討することを指示した」と明らかにしました。

その上で「コメ価格の高止まりなど農林水産行政の課題が山積する中、強力なリーダーシップとこれまでの経験のもと解決に向け全力を挙げて取り組んでもらいたい」と述べました。

そして小泉氏を起用する理由について「党の農林部会長や水産総合調査会長を務めるなど農業についても水産業についても経験や見識、改革に向けた情熱を持っているのが小泉氏だと考えた」と説明しました。

一方、コメ政策をめぐっては「備蓄米の放出に至っているがコメの価格は下落していないことを考えると構造的なものかもしれない。そのことに答えを出していくことは容易ではないが、消費者の困窮した状況を早急に改善することと、コメ政策を変えていくことの2つを両立させることが重要だ」と述べました。

小泉氏の経歴

小泉氏は、衆議院神奈川11区選出の当選6回で、44歳。

2009年の衆議院選挙で父親の小泉純一郎・元総理大臣のあとを継いで立候補し、28歳で初当選しました。

2019年に安倍内閣で戦後3番目の若さとなる38歳で環境大臣として初入閣し、菅内閣でも再任されました。

去年9月には初めて党の総裁選挙に立候補し、決選投票には進めませんでしたが1回目の投票では、最も多い75票の議員票を獲得して全体の3位につけ、存在感を示しました。

そして、石破政権の発足に伴い、党の選挙対策委員長に起用されましたが、直後の衆議院選挙で敗北した責任をとりたいとして辞任しました。