鉄道線路の保守のため、営業車両にカメラやセンサーを付けて日常的にデータを集める方法が普及しつつある。一方でカメラやセンサーを装備せずにレールの位置ずれや破断を把握する方法の研究も進んでいる。車輪の回転数を計測する装置からの出力データを応用できるとして、鉄道総研は開発中の技術を鉄道総研技術フォーラム(2025年8月28~29日)で展示した。
新技術では、鉄道車両で多くの車軸に設置されている速度発電機の出力波形から、これまで利用していなかった情報を取り出す。速度発電機は、車軸と共に回転する歯車と、歯車の外周から約1mmの所に固定されているコイルで構成され、歯先がコイルをかすめるときに誘導電流を生じさせる装置。出力波形の山の数は、コイルをかすめた歯先の数に相当する。
通常は波形の周波数を車軸回転速度の検知に利用するが、鉄道総研車両技術研究部(駆動制御)主任研究員の吉川 岳氏は波形の振幅に着目。輪軸(車輪と車軸)の左右変位(軸方向の変位)によって振幅が変動することを突き止めた。輪軸は走行中に、レールに対してわずかに左右に動いている。新技術では、レールの異状によって輪軸の左右動がいつもと異なる場合に、振幅の変化として検知できる。
既存の車両に対して記録装置を付けるなどの小規模な改造で済むため「最低限のコストで既存車両にレール状態監視機能を後付けできる」(吉川氏)としている。「うまくいきそうだと思っているが、実際の適用は一筋縄ではいかないと思うので、一緒に検証してもらえる鉄道会社を求めている」(同氏)という。