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 日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みに赤信号がともったぞ。はっきり言うと、DXブームが去ったということだ。「おいおい、木村はDXを単なるブームと捉えていたのか」とあきれる読者の声が聞こえてきそうだが、もちろんそんなことはない。ただ、私が危惧するのは、DXブームが終わる反動で、DXの取り組みが日本企業の経営者によってないがしろにされることだ。ちなみに経営者らは今、生成AI(人工知能)のブームに沸いている。

 後でまた改めて語るが、大切な点を誤解されると困るので、ここで強く言っておこう。本来、DXはブームであるかどうかにかかわらず、あらゆる企業、特にIT活用が全く下手で業務改革を全くできていなかった日本企業には必須の取り組みだ。何せ、この「極言暴論」で何度も指摘している通り、今も1995年のインターネットの爆発的普及から始まったデジタル革命の真っ最中である。そして昨今は生成AIの急激な進歩により、そのデジタル革命がさらにブースト(押し上げ) されている。

 なので、日本企業は四の五の言わずにDX、つまりデジタルを活用したビジネス構造の変革に取り組むしか、これから先を勝ち残っていく道はないのだ。だから、DXの取り組みはブームかどうかなんて全く関係がない。本来なら企業は1995年のデジタル革命の始まりと同時に、それをDXと呼ぶかどうかは別にして、(インターネットなど)デジタルを活用したビジネス構造の変革を継続的に進めてこなきゃいけなかった。EC(電子商取引)などのデジタルサービスの構築しかり、既存の業務プロセスの変革しかり、だ。

 だけど、である。何事においても、多くの人が関心を持つブームというのは千載一遇のチャンスである。企業のIT絡みの取り組みにとってもブームは貴重な機会だ。何せ、経営者が関心を持つからな。特にDXは経営が主導しなければならないプロジェクトだから、その意義は大きかった。デジタル革命の30年間、日本で言うところの「失われた30年」の間、日本企業のデジタル変革は遅れに遅れていたからね。そんな中でDXという言葉が生まれてブームになり、多くの経営者が食いついた。素晴らしいことじゃないか。

 さすがに今の日本企業では、ITオンチの経営者はほぼ絶滅した。そして多くの経営者は、自社がデジタル革命の波に大幅に乗り遅れたことに気付いている。このままビジネスのデジタル化や業務プロセス改革をやらずにいたら、将来がないことも自覚しつつある。だから、デジタルを活用したビジネス構造における変革の必要性も重々分かっているはずだ。だけど、日本企業は「勝手にやっている現場の集合体」だから、全社的な変革や他の役員のシマに手を突っ込むのはとても難しい。下手をしたら自分のクビが飛ぶからね。

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 ところが、世はDXブーム。メディアには多くの「先進企業」の事例が紹介され、日本企業がDXに取り組む必要性を説く識者も数多い。そのDXにいちいちいいがかりをつけるのは、この極言暴論ぐらいだ。こうした状況は日本企業のDX推進に好都合だよね。社内の「勝手にやっている現場」に、自社でもDXに取り組む必要性の認識が浸透するからね。そうなれば、経営者はそれこそ安心して「我が社もDXを推進せよ」と言える。ところが、そのDXブームが去りつつある。その結果がどうなるかは明らかだよね。