Agentic RTB Framework(ARTF)とAd Content Protocol(AdCP)簡単まとめ

IAB Tech LabからARTF(Agentic RTB Framework)についての発表がありました。「AdCP(Ad Content Protocol)となにが違うの?どうなるの?」みたいなのが気になってる方は多いと思うので、軽くまとめてみました。

長いので三行まとめ

 

  1. ARTFはBit Requestに対してAI Agentで介在、AdCPは管理画面にAI Agentで介在させるための仕組み
  2. よってARTFでは主にSSP/RTB業者向き合い、AdCPでは広告代理店や広告主向き合いのプロダクトが産まれる
  3. 私見:AdCPのほうが成長の余地はずっとデカい。 ARTFはコストがかかりすぎで、既存プレイヤーがさらに強くなるだけになりそう。一方AdCPは各プラットフォーマーがOpenにしてくれるなら、いままで困難だった「プラットフォームまたぎでのあれやこれや」がAIを使ってできるようになる。

 

ARTFについて

ARTFはBit Requestに対してAI Agentで介在させるための仕組みです。
超ざっくりは下記のようなことができます。

 

  1. BidRequestに対していろんな情報を付与できるエージェントがたくさんいます
  2. オーケストレーター:「こんなビッドリクエスト来たけど、付与する情報を教えてくれ〜」とエージェントに一気に問い合わせ
  3. 各エージェントが付与すべき情報を返す
  4. オーケトレーテーター付与される情報をまとめてビッドリクエストを組み立て直し、オープンビッダーにわたす

付与する情報としては下記のようなものが想定されています。

  • ユーザセグメント
  • DealのOn/Off
  • Fraud/viewabilty/などの各種シグナル情報

 

私見としては「ほんとにやるの?」です。ビッドリクエストに介在となると全ビッドリクエストに比するサーバが必要なわけで、得られるメリットとコストが合うか大いに疑問です。すでに設備を保持している業者がより強くなるだけな気もしたりですが、RTBの時もCriteoみたいなプレイヤーが生まれたわけなので、いつもの「一瞬だけ開いたドア」なのかもです。

 

AdCPについて

AdCP(Ad Content Protocol)はざっくり各広告システムをAIで操作できるようにするための共通フォーマットです。ノリをわかってもらうためにAdCPを介してAIができるようになることを抜粋します。

planning関係

メディアプランニングの基礎情報を得るためのもの

  • get_products: 各プラットフォームで買える商品取得
  • list_creative_format: 各商品で使えるクリエイティブフォーマットの仕様取得
  • list_authorized_properties: 各メディアに対してどのプレイヤーが販売券を持っているかの情報(sellers.json的な立ち位置)

Campaing(media buy)関係

 

  • get_media_buy_delivery: media buyの情報取得
  • create_media_buy: media buyの作成
  • update_media_buy: media buyの情報更新

 

Creative関係

  • list_creatives: クリエイティブ取得
  • sync_creatives: クリエイティブ作成

Signal系

DMP/CDPを介して適切なオーディエンスセグメントを検索、取得、各プラットフォームにセットする仕組み

 

  • get_signals: 条件にあったオーディエンスセグメントを検索・取得
  • activate_signal: get_signalsなどで見つけたセグメントをDSPなりにセットする

perforance系

  • privide_performance_feedback: 各creative/media_buyの評価をこちらからプラットフォーム側に返す

雑感

 

ARTFは正直あんまりワクワク感がなかったです。AdCPも最初はmedia planing部分しかなかったので、「まだまだだな」というイメージでしたが、色々揃いつつあって面白くなってたなと感じました。


おわり

トラブル対応は全く無駄

スリードを誘うタイトルでお送りしております。

 

トラブル対応は全く無駄だと思う。もちろん「トラブルが起きてるんだからトラブル対応しなきゃに決まってるだろ」といった話ではない。

 

いきなり話が変わるが、私の奥さんは看護師で、結婚当初私が風邪を引くと優しくしてくれるのかな?と思ってたけど、毎回どえらく怒られていた。曰く

  1. 風邪は基本的に予防できる病気
  2. なのに風邪を引くのは怠慢な証拠
  3. 風邪を引くと会社休まないとだし、お金も時間も浪費するので本当に意味がない

いや、全くごもっともでぐうの音も出ない正論としかいいようがない。

 

さて翻って、みなさん自身がおもりするシステムの健康をちゃんと見てるだろうか?

上記の言葉をシステムトラブルに置き換えてみよう。

  1. トラブルは基本的には予防し得る
  2. なのにトラブルを起こしてしまうのは怠慢な証拠
  3. トラブルを起こしたら対応にかかるエンジニア工数や顧客対応の工数はドブに捨ててるのとほぼ同じで意味がない

 

また話は変わって、以前同僚からこんな話を聞いたことがある。

同僚「yamazさん、この会社に転職してから私は開発ばかりしてるのですが、いいんでしょうか?」

yamaz「???なんの話してるの?」

 

曰く、前職ではシステムがトラブル続きで開発リソースの4割位はトラブル対応と顧客への説明に費やしてたそうだ。それがあまりにも日常的すぎて、弊社に転職してから自身がトラブル対応をすることなく開発だけしてるのは、誰かが割りを食ってるのでは?という話だった。

 

この話を聞いて「トラブルは日常である」という発想から脱却してもらいたいという話をした。この「トラブルは日常である」という発想に立っている人は結構多いと思う。

 

「いやいや、風邪と違ってトラブルはあらゆる原因で起きるから予防は無理だよ」

 

まぁごもっとな意見だ。もちろんトラブルが起きる確率をゼロにはできないが、工学的に対応することでゼロに近づけることはできる。

 

 

ここで大事なのは複利効果だ。システムはハインリッヒの法則に従ってトラブルが起きるので、全くトラブルの再発防止をしないとシステムの複雑さに伴って複利効果でトラブルが多発し始める。これは逆を言えば小さなトラブルであってもそれを重大事故の予兆だとみなし、細かく適切な再発防止策を積み重ねることで、複利効果でもってシステムはどんどん堅牢になっていくことを意味する.

 

yamaz.hatenablog.com

 

トラブルの再発防止に対する考え方については上記エントリに譲るが、みなさんにおいてはトラブル対応に投入されるエンジニアリソースを始めとした各種リソースは、本来無駄なものだと心に刻み、ノートラブルで愛する人の元に怒られずに帰るようにしていただきたい。

 

あと私がトラブルに対して厳しい態度を取る理由もわかっていただけたかと思う(奥さん怖いよ)。

 

(おしまい)

 

【2018年版】広告システムエンジニアは絶対におもしろいと思う理由

これは Supership株式会社 Advent Calendar 201825日目の記事です。

Supership株式会社 CTO @yamaz です。

広告システムエンジニアは絶対におもしろいと思う理由

という記事をちょうど10年前に書きました。

 

今回はあれから10年経って現在広告システムエンジニアをとりまく環境ははどうなっているかについて書きたいと思います。

 

TL;DR (3行で)

  1. 10年前と変わらず技術的、学術的、ビジネス的にエキサイティングな領域だよ。
  2. 広告テクノロジーをプレイヤーが切磋琢磨し続けてきた結果、大規模配信・集計技術もさることながら大規模データ分析や運用技術の領域も大事になってきたよ。
  3. まだまだ課題満載な業界だけど、デジタルマーケティングに未来を感じてる人はぜひ広告業界へ応募を!

10年前と変わらず技術的、学術的、ビジネス的にエキサイティングな領域である

 

10年前はユーザのリクエストに対して手元のDBにある広告返すだけのシステムだったが、現在はプログラマティックバイイングという仕組みでリアルタイム(100msec程度)に広告在庫をオークション形式で買い付けが完了するようになった。またアクセス数も10年前は弊社が配信する配信量はせいぜい月間数億アクセス程度だったが現在は月間数千億〜くらいの規模になっている。

 

実際のところこの規模のアクセスをさばくのはクラウド全盛の現代においてはそこまで大した話ではない。だけどビジネス的にとても大事な「より安く」という条件が加わるととたんに難しくなる。「早く、安く、うまい」を成立させるためにはOS/ネットワーク/アルゴリズム/各種実装技術の詳細などのコンピュータサイエンスでの知識にとどまらず、機械学習的なアプローチも当然組み入れることになるので、大学で学んだであろうほぼすべての知識を要求される。

 

このあたりは10年前と変わらず引き続き面白い領域だ。

 

データ分析と機械学習の台頭

 

広告テクノロジーを持つプレイヤーがこの10年切磋琢磨した結果、大規模配信と集計技術はかなりコモディティ化してきた。これをもって「アドテクは死んだ」という人もいる。だけど配信・集計技術はあくまでもマーケティングを達成するための手段であって目的ではない。これでやっとマーケターの人たちにデジタルマーケティングをしてもらうための下地が固まってきたと考えるのが正解だと思う。

 

その結果としてデータ分析というジャンルが出てきた。かつては分析というとせいぜいクリックデータなどの時系列分析程度だったが、機械学習による推定技術の発達によりユーザの属性分析などの高度な分析が可能となってきた。

 

このあたりいわゆる機械学習データマイニングの分野だが、この分野はしかるべき量の生データがないとどうにもならないけど、その点データはあきれるほどあり、退屈することはないと思う。

 

広告運用技術の発達

 

10年前広告システムと言えばざっくりヤフーとGoogleとその他ちょっとしかなかった。だけど現在は

Google

ヤフー

Facebook

Twitter

Line

Gunosy

Criteo

その他DSPなどなど

少し大型のデジタル広告をしようと思うと20くらいのシステムを使う必要がある。その結果として実際の入力オペレーションやレポーティングが非常に煩雑になってきた。

 

我々はマーケテックと呼んでいるが、このような煩雑な広告オペレーションを楽にするための技術投入は上記のアドテクなどに比べてほぼ行われてないと言ってももよく、

まさにこれからでやりがいのある分野だと思う。

終わりに

以上広告システムがいかにおもしろいかを述べてみた。たいていの人は広告システムというものをまじめに考えたことがないと思うので、興味を持った人は候補の中に入れてみてください。興味がある方は「話を聞きたい」というようなレベルでも構わないので、

https://supership.jp/recruit/

https://www.wantedly.com/companies/Supership

あたりから応募をしてほしいです。

 

あわせて読みたい

Supershipでは広告技術もですが、検索技術にも力を入れています。

検索技術も広告技術と並んで技術的、学術的、ビジネス的に面白い分野なので、興味ある方は合わせてどうぞ。

検索サービス開発が絶対におもしろいと思う理由【2018 改訂版】

 

【おまけ】デジタルマーケティング業界の残念な部分と、だけど未来は絶対にあるという話

 

ここまでかっこいいことばかり書いてきたけど、私がデジタルマーケティング業界にいる中で少し残念に思っていることを書きたい。

 

それは転職ドラフトというサービスでレジュメを書く際に「避けたい分野」として他ジャンルに混ざって「広告」がそこそこ選ばれてる現実があるということだ。

これはデジタルマーケティング20年ほど関わっている私にとってかなり寂しいことで、これは避けようとしている応募者の方に問題があるわけではなく、業界側に原因があるという理解です。

 

転職ドラフトで避けたい分野としてわざわざ「広告」を選んでる人はおそらく今もしくは過去に広告業界に在籍した人の可能性が高いと思っています。

 

おそらくはデジタルマーケティングの業界に希望を持って飛び込んできたものの、

  1. アクセスが実際殆ど無い
  2. システムを触らせてもらえない
  3. 触らせてもらってもデジタルマーケティングとは言えない雑務ばかり
  4. そもそも技術者がいない
  5. 儲けのために非倫理的な業務をさせられる

など色んな理由で期待を裏切られて幻滅したとかそんな理由だと思う。

 

だけどそれはその在籍した会社の問題であって、全部の会社がそんな会社ばかりではなく、うまくやっている会社は存在するというのは知ってほしいと思います。

 

オンラインメディアは「OneToOneターゲティング」を「リアルタイムレスポンス」で可能とする唯一のメディアであり、その収益を支えるデジタルマーケティング領域は今後伸びる一方で下火になることはほぼありえません。

 

ですので、もしあなたがデジタルマーケティング業界の未来に希望を持っているのなら、他の業界に行く前にうまくやっている会社を受けてほしいと切に思います。また弊社はその一社であると断言します。

 

せっかく希望をもってこの業界に入ってきたのに、うまくやってるところを知ることなく去ってしまうのは本当にもったいないことなのだから。

 

(おしまい)