序章|国家・企業・家族――三つ巴のねじれ「子どもを産まない」という選択は、もはや単なる個人の価値観や倫理の問題ではない。 出生率が何十年にもわたり回復せず、年間出生数が70万人を切りつつある現代日本においては、これは極めて合理的な判断になっている。 かつて、家族は「小さな国家」とも言える組織だった。 子どもを産み育てることで、家庭内に労働力が増え、親の老後を支える保障も生まれた。そこには確実な利益の循環があった。 しかし現代では、この循環は完全に壊れている。 家族は、子どもを育てるコストを100%負担する。 その子どもが大人になり稼ぐ収益は、企業が吸い上げ、国家が税や社会保険料として徴収してしまう。家族が直接リターンを受け取れることはない。 こうした構造の中では、出生への投資は、まさに他人――「知らないおじさん」の利益のために行う投資となる。 現代日本が直面しているのは、国家、企業、家族と
