異常気象が地域経済に甚大な被害を与えている。山形県大江町では温泉旅館が閉業を迫られた。約50年にわたり営業を続けてきたが、近年は豪雨によって2度の水害に見舞われた。堤防を整備するため旅館は移転の対象に。「ここ以外での営業は考えられない」と苦渋の決断をした。

柏倉京子氏
山形県大江町の左沢で唯一の温泉旅館「あてらざわ温泉湯元旅館」を、2025年12月末で閉館することにしました。約50年の歴史に幕を閉じることになります。
閉館の理由となったのは、近年になって2度発生した最上川の氾濫です。この辺りは国の重要文化的景観に選ばれており、無堤防のエリアだったのですが、堤防整備の話が持ち上がり、移転を迫られることになったのです。
最近の異常気象の影響で20年・22年と豪雨に見舞われ、そのたびに旅館のすぐ横を流れる最上川が氾濫し、浸水被害が起きました。

この近くには最上川の本流と、もう一つの水流とが交わる地点があり、雨が降ると水かさが急に増えます。最初の20年の水害は特にひどく、住宅街に濁流が流れ込みました。
当館も1階が床上浸水し泥だらけになっています。露天風呂も浸水被害に遭い、地下にあるボイラー室が水に漬かりました。露天風呂は使用できなくなり、復旧のため約2カ月半の間、休館せざるを得なくなりました。
これほどまでに最上川が頻繁に氾濫し、水害が発生した経験は過去にありません。異常気象の猛威を改めて感じました。
昭和42年(1967年)に羽越水害という大規模水害があり、その際に最上川沿いに堤防を整備しようという話が持ち上がったこともありました。それ以降は大きな水害が発生しなかったため、話は立ち消え状態になっていたのですが、最近の度重なる水害をきっかけに本格的に自治体が動き出しました。堤防が建設される運びとなり、26年度の着工に向け対象地域は移転が進んでいます。
この旅館は夫と切り盛りしてきましたが、10年ほど前に夫が他界して以降は一人、女将として経営を支えてきました。自分の代で旅館を潰したくないという強い思いを支えに、がんばってきたつもりです。ただ、最近は雨が降るたびに「川が氾濫しやしないか」と不安に駆られ、毎日のように天気予報やニュースをチェックするようになりました。安心して暮らしたいという願いは当然あります。
できることなら経営を続けたかった。とても無念に感じています。でも立ち退きはやむを得ません。
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