トランプ米政権は6月4日、鉄鋼・アルミニウムの輸入品にかける追加関税を25%から50%に引き上げた。その5日前、米鉄鋼大手USスチールの工場での演説でこの措置を発表したトランプ氏は「(関税率)25%ではフェンスを乗り越えることも可能だが、50%では乗り越えられない」と誇らしげに語った。
鉄鋼関税に加えて、自動車関税や相互関税など様々な保護主義的政策を繰り出すトランプ政権。鉄鋼自体への関税措置に加えて、自動車などの製品の輸出減少も鉄鋼メーカーにとって脅威となる中で、トランプ氏が築く「フェンスの向こう側」を目指す動きが活発になってきた。
現代製鉄は8000億円投資
「北米市場に参入することで、将来的な成長を担保する」。韓国・現代自動車グループ傘下の現代製鉄は4月に公表したIR(投資家向け広報)資料にこんな方針を明記した。現代製鉄は3月、58億ドル(約8400億円)を投じて米ルイジアナ州に電炉を含む製鉄所を新設すると発表していた。
新工場は2029年に商業生産を始め、年間270万トンを生産する計画。うち180万トンは自動車に使用するグレードの高級鋼だ。現代製鉄と歩調を合わせるように、現代自も米国での生産能力を増強する。グループとして米国市場の「インサイダー」としての立場を強めようという狙いを鮮明にしつつ、他の自動車メーカーへの販路拡大も狙う。
さらに、韓国鉄鋼大手ポスコホールディングスも現代自グループと連携して投資の一部を負担する。現代製鉄の新製鉄所は、韓国鉄鋼業を挙げた米国への投資計画という様相を見せる。

現代製鉄のIR資料によると、米国における自動車用鋼板の需要は25年に1010万トンで、34年には1090万トンになると見込まれている。ただ、この数字はトランプ関税を織り込んでいない。関税により自動車産業の国内回帰が進めば、上振れする公算は大きい。
そもそも、中国製品を閉め出している米国では「値付けがフェア」(現代製鉄)だという面もある。薄鋼板を巻き取ったホットコイルの24年の平均価格はアジアが1トン当たり541ドル、ドイツは698ドルだったのに対し、米国は850ドル。25年3月にはこれが1046ドルまで上がったという。中国勢の過剰生産が世界的な鉄余りを招く中で、米国市場の相対的な魅力は高まる一方だ。

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