経営のかじ取りを14年半も続ける学研ホールディングスの宮原博昭社長。長期にわたって求心力を維持するには、情報収集や失敗の検証などが欠かせない。学研がV字回復する土台となり、防衛大での学びも生かしたその方法論とは。






 創業者は別ですが、普通は14年半も社長を続けていたら通用しなくなります。現場のことが分からなくなってしまうからです。上場企業の社長とか役員になる人材は知識のレベルが高い。それでも判断を間違える時がありますよね。これは偏った情報だけで判断しているから起こるのです。

 僕は社長に就任してから、学研ホールディングス(HD)がうまくいかなかった過去の経営判断について、当時の役員たちに話を聞きにいきました。

能力ではなく情報量の差

 その際、僕も同じ情報しか持っていなかったら同じ判断をしただろうと感じました。これは情報量の差で能力の差ではありません。出版事業では製紙会社や印刷会社、取次会社、書店、教室事業では教室の先生や生徒からどういう声が出ているのか、経営陣まで伝わっていないケースがたくさんありました。もし、当時の役員がそれらの情報を把握していたら判断も変わっていたはずです。

 会議で報告されたことと、現場の意見が実は真逆だということはよくあります。僕も今はおとなしくなったので「そうだよね」と聞いてはいるものの、心の中では「本当かな」と疑うようにしています。

 例えば、数年前から進めているM&A(合併・買収)案件があるのですが、なかなか前に進んでいません。うちの担当者からは「先方が『グループインは難しい』と言っています」と聞いていました。

 そこで僕も業を煮やし、先日、先方の社長と2人で食事をしながら話をしたんですね。そうしたら、うちの担当者とは真逆の話をするんですよ。「グループインしたいけど、学研にのみ込まれるリスクもあるので悩んでいる」と。結局、うちの担当者は本音を引き出せていなかったわけです。

 やはり相手は最初の乾杯程度では本音を話してくれないということです。根掘り葉掘り聞きながら進めていくと、そのうち本音を話してくれます。

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