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 先日、あるネットテレビの番組に呼ばれ、今どきの若者の事情に驚いてしまった。

 「言語化」に悩む人が多く、周囲からは、「言語化できない人は仕事ができない」「言語化できないとやりとりばかりが増えて、人の時間を奪う」などと批判され、ますます言語化できなくなるといった悪循環に陥る、というのだ。

 私の理解では「言語化」は、ロジカルシンキング(論理的思考法)や問題解決のフレームワークの文脈で使われる言葉だと思っていたのだが、若者が使う「言語化」はどうやら違うらしい。

 出演依頼してきたディレクターの話を聞き、台本を確認し、スタッフと事前打ち合わせをしても、謎は深まるばかりだった。しかし、出演して「若者の言語化の悩み」を直接聞き、やっとその正体の輪郭らしきものが見えた。

 ある女性は「あなたは言語化できてない」と先輩社員に言われ、遅刻した部下を指導するのさえ怖くなったと打ち明けた。また、ある男性は上司に言われたことに「はい」と答えたら、「それだけか? 自分の意見はないのか?」と問われ頭がパニックになった。それ以来「言語化できない自分」に悩むようになったという。

 つまり、「言語化」とは、SNS社会という「言葉の力が肥大化した社会」と、テキストという限定性が生む生きづらさのようだった。

 それでもやはりなぜ、そこまで「言語化」に若い人たちがこだわるのかが、どうしても分からなかったので、インタビュー協力者の何人かにコンタクトをとったところ、彼らも同様に言語化に悩んだ経験があると返事がきた。

 そこで今回は、若者を追い詰める「言語化」の正体とその心理、そして、その悩みのきっかけとなる、上司と部下のコミュニケーションについて考えてみようと思う。

 まずはインタビュー協力者のメールの内容から紹介する。

 「私もチームリーダーになったときに、同僚から『あなたは言語化できてないから、空回りしている』と言われて、落ち込んだことがあります。うちの会社は360度評価を取り入れているので、それが気になってしまって、ますます何も言えなくなってしまった。

 ただ、私の場合は、ダメ出しされて、降格されてもいいや、って開き直ったら、すごく楽になりました。上司も相談にのってくれる人だったのでなんとかなりました。

 気の利いた言葉を操る人が『優秀』『頭がいい』と評価されるんですよね。だから余計に言語化に悩む人が多いんだと思います」(食品メーカー事務職、35歳女性)

 「自分も父親が厳しい人で、怖くて、父の前だと言葉が出なくなっていたので、言語化に悩む人の気持ちがすごく分かる。そういうことを繰り返すと、感情がどんどんなくなっていくんです。悔しいとか、それ違うとか、普通思うじゃないですか。でも、そういうことを思うこと自体、ストレスになっていくんです。

 今って、会社でもリモート会議が増えて、やたらに『感動を共有しよう』とか、『コミュニケーションの基本は共感』とか言われちゃうから、自分の気持ちを言語化できないことに悩んでしまうんだと思います。

 それにリモートの最大の価値って、やっぱり効率化なんですよね。だから、言語化するのがうまい人の方が評価されるんですよ。その副作用ですね」(大手金融業営業職、37歳男性)

 また、他の人からは「最近は完璧主義の傾向が強い若者が多いから、ダメ出しされたくないんだと思う」との意見もあった。

 つまり、「自分が理想とする『言語化のレベル』に達していないと感じると、発言すること自体をためらうようになってしまう」と。

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