わずか7%……「企業にはIT部門が不可欠」と言えないワケ
旭化成は1922年設立の大手総合科学メーカーで、売上高約2兆7000億円、従業員数約4万人を誇る。「マテリアル領域」「住宅領域」「ヘルスケア領域」の3本柱で事業を展開し、「サランラップ」や「ヘーベルハウス」などの製品を手がけている。2016年から同社が進めるDXでは2021年以降4年連続で「DX銘柄」に選定されるなど高い評価を得ている。西野氏は2023年に旭化成に入社し、DX推進を担い、デジタル開発支援や人材育成を実施するエキスパートとして活躍している。

西野氏は、大企業で働くエンジニアの生存戦略を語るにあたり、まずIT部門の課題を挙げた。ある調査によれば、多くの経営トップがIT部門を「ビジネス拡大に寄与していない」と見なしており、「不可欠な存在」と考える人はわずか7%、「利益を生み出すプロフィットセンター」と評価する人は3%にとどまった。この結果は、IT部門が依然としてコストセンターとみなされ、経営拡大への関与が限定的である現状を示している。西野氏は、これが「IT部門不要論」といった否定的な意見を招いていると指摘した。

次に、その一因として「丸投げ体質」を挙げた。多くの大企業では、ビジネス部門がIT部門に業務を任せ、さらにIT部門が外部委託先に作業をそのまま依頼する構造が根強く残っている。この結果、過剰なカスタマイズが生じ、コストが膨らみ、IT部門がプロフィットセンターとして評価されにくくなっている。
西野氏はエンジニアの失業率が高水準に達している現状にも言及した。転職サービスで「キャリアの棚卸し」が取り上げられる一方、大企業で働くエンジニアは外部依存や自社固有の業務に偏りがちで、スキルの可搬性が低い。その結果、自分のスキルがわからず、「何ができるのか」と悩む声も多い。

西野氏は、生存戦略の3ステップとして、エンジニアが持つべき「技術選定」の軸、それを「社内浸透」させるプロセス、そしてその結果形成される「キャリアパス」があると述べた。また、「技術選定やキャリアパスのテーマでは議論が広がりがちですが、その中で『何を軸として持つべきか』というエッセンシャル思考が重要です。この後度々出てきますが、キーワードは『原点に立ち返る』ということです」と話を進めた。