近年、盛り上がりを見せている「女性用風俗」。コロナの影響で利用者が減っているといわれているが、一部のお店、また人気のセラピスト(女性に対しサービスを行う男性スタッフ)のHPのBBSには、コロナ禍をもろともせず、連日のように「今日はありがとうございました!」の感想が書き込まれている。やはりエロはコロナでも強い。
そんな女性用風俗を、筆者も2年前に初めて体験した。そのときに得たさまざまな気づきについてお話ししたい。
2時間10万円に驚愕!
きっかけは、知り合いのAV男優に勧められたからだった。私が、セックスのときに相手に気を遣って演技をしてしまい、なかなか気持ちよくなれないという悩みを話した時に、「女性用風俗ならサービスとして割り切れるから、そこでワガママになる感覚をつかんでみたら?」とアドバイスされたのだ。
早速彼が勧める、セラピスト全員が現役AV男優というお店のHPを覗いてみた。すると、あまりの金額の高さにおののいた。一番人気の男優とホテルで過ごすには2時間で10万円と記されているのだ。一番安い人でも3万円。これに交通費やホテル代などがプラスされれば、最低でも4万円ほどかかる。性感染症の検査などが徹底されていることを売りにしているし、おそらく“技術”もある。人は安心安全な性的快楽にどこまでお金を積めるのだろうか。私の中では、せいぜい1万円くらいだった。

それから2ヶ月ほど経ち、女性用風俗のことも忘れかけていた頃、女友達との飲み会が思いのほか早く終わった日があった。22時。いまから一人でバーに行ってもいいけれど、馴染みの店に行くのも飽きたし、何か新しいことがしてみたい。そんな時に、あ、アレがあるじゃないか、と思いついた。早速、スマホで「女性用風俗」と打ち、いろいろ調べるなかで、セラピストがイケメン揃いで金額も60分1万円〜、性感染症の検査も定期的に行っているというA店を見つけた。
岡田将生似の28歳か、技術だけには自信がある40歳か
A“店”といっても、ほとんどの女性用風俗がそうであるように、実店舗があるわけではない。サイトを見たうえでお店に電話すると、指名したセラピストが指定した待ち合わせ場所にやってくる、という流れだ。私が電話したときは日曜日の22時すぎだったので、そのときに対応できるセラピストは2名しかいなかった。電話口で受付スタッフに、「岡田将生似の28歳のマサキ(仮名)と、技術だけには自信がある40歳のリョウ(仮名)なら対応できます。どちらがいいですか?」と聞かれた。
「技術“だけには”自信がある」と仲間内から軽くディスられているリョウをやや気の毒に思ったが、自分よりも年上の男性なら、むしろホテル代を出してもらってタダでできる可能性が高いことを考えると、なんだか損をしている気分になり、28歳で178cmのマサキを選ぶことにした。男性芸能人がひと回り以上年下の若い女性と不倫するたび、若けりゃいいのかと思っていたが、人のことは言えないなと思った。
スーツ姿の「岡田将生」が現れた
マサキとは、22時40分頃に新宿アルタ前で待ち合せすることになった。さっきまでほろ酔いでワクワクしていたのに、途端に緊張が襲ってきた。そういえば、毛の処理とかしてたっけ、口臭大丈夫だっけ、と乙女な不安もよぎる。心臓をバクバクさせていると、どこからともなく、スーツ姿のスラリとした男性が目の前に現れた。
「アキさんですね?」
「は、はい」
受付のスタッフに事前に伝えていた私の名前(テキトー)を彼が呼んだ。たしかに、岡田将生に似ている。岡田将生とダルビッシュ有を足して2で割った感じだ。コンビニで飲み物を買い(もちろん私が払う)、マサキが目星をつけているという歌舞伎町のラブホテルに向かって歩きながら、ライターの職業病でついお店のこと、マサキのことについて根掘り葉掘り聞いてしまった。

A店ではセラピスト希望者は書類と面接で審査され、それを通ったら1〜3ヶ月ほどの研修を経て接客できるようになるという。研修では、講師の女性に手や舌を使って実技を行い、「違う、そこじゃない!」「もっと優しく」などと指導を受けるというから驚きだ。マサキは覚えが早かったからか、研修は1ヶ月で終了したらしい。
そもそもなぜマサキはセラピストになろうと思ったのか聞くと、「女性に気持ちよくなってもらうのが何よりもの喜びだから」と目をキラキラさせながら模範解答を述べた。素で言っているのが伝わってきて、ちょっと引いた。本業は不動産営業で今日も仕事帰りだという彼は、仕事の疲れを微塵も感じさせない笑顔で私をラブホテルまでエスコートしてくれた。
「え、そんな技あったんですか!?」
ホテルの部屋で順番にシャワーを浴びた後、ベッドの上でサービスが始まる。通常のマッサージをひと通りやってから、徐々に手や舌を使ったプレイへと移行していくのだが、その技術に私は驚愕した。マサキは10本の指すべてを使ってあれやこれやしている。「え、そんな技あったんですか!?」と思わず聞いてしまった。35年(当時)生きてきて、指や舌の動きに、こんなにもバリエーションがあることを初めて知った。私がこれまで出会った男性たちが手抜きをしていたのか、それとも、やり方を知らないだけなのか……。

風俗なのだから当たり前だと思う人もいるだろう。でも、男性向けAVがあまりに普及してしまったので、男性がどんな愛撫を求めているのか、女性はなんとなく知っている。“プロ”の人がやるようなことをふつうに求めてくる男性も少なくない。でも、男性は女性ほど、相手がどんな愛撫を求めているか知識として知る機会がない。
男性向けAVで描かれる女性への愛撫は、肌に触れた途端に声を出すくらい多分に演出が含まれているし、そもそも女性も、自分がどうされれば気持ちいいか知らない人が多いので教えることができない。ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」のサマンサのように、男性に指の動きをミリ単位で的確に指示できる女性なんてそうそういないのだ。
男性が気持ちよくなるための情報は世に溢れているが、その逆はあまりに少ない。A店の女性講師が教える“奥義”を世に広めたら、日本の女性たちはもっと幸せになれるんじゃないかと本気で思った。
しかし、テクニックだけではどうにもならないことがある。マサキの指・舌使いは素晴らしかったけれど、我を忘れるほど気持ちいいかというと、そうではなかった。それは恐らく、私の精神面の影響が大きい。緊張もあるが、いつもの癖でどう反応すれば相手が喜ぶかばかりに気を取られ、下で起こっていることにぜんぜん集中できなかったのだ。対価を払っていても、二度と会わない相手でも、これである。結局、相手や状況が変わっても、自分が変わろうと努力しない限りどうにもならないということを痛感した。
「今日は何もされなかった」
終わったあと、“マッサージ”を受けたはずなのに、どっと疲れていた。先にシャワーを浴びた私がベッドのある部屋に戻ると、マサキがハーブティーをいれてくれた。すでに服を着ている彼にシャワーを浴びないのかと聞くと、「ああ、いつもは全身をキスされたり舐められたりするから浴びるんだけど、今日は何もされなかったから、いいや」。 ……は? 「何もされなかった」? あまりにふてぶてしい発言にハーブティーを吹き出しそうになった。なぜ客である私がサービスせにゃならんのだ、と言いそうになるのをぐっとこらえて聞いた。

「え、お客さんがセラピストにそういうことしていいの?」
「うん、本番行為はダメだけど、それ以外ならけっこうみんないろいろしてくれるよ」
女性がサービスを提供する側の風俗では女性がリスクの高いプレイや本番を強要されることもあると聞くが、男性がサービスを提供する側ではそんな危険を感じないうえに、さらに気持ちよくさせてもらっているというのか。私はA店のマサキしか知らないので一概には言えないが、なんだか不平等だなと思った。
また、ホストの“色恋営業”のように、疑似恋愛を楽しむために利用している人が多数派で、私のように快感だけを求めている人は少ないとマサキは言う。ホテルを後にする時も、マサキは恋人つなぎをしながら駅まで向かおうとしたが、お金を払っているのに暗に「マグロ」と言われたようでイラついていた私は彼の手をほどき、「あ、私、ちょっと飲んでから帰るから。ここで」と言って駅とは逆方向に歩いた。マサキは呆れたように笑って「飲みすぎないでね〜」と言いながら手を振った。
二丁目のママの金言
このイライラ、モヤモヤを誰かに話したい。そう思いながら、風俗の話をあたたかく受け止めてくれるであろう新宿二丁目のバーに向かった。そこで、先程の一部始終を店のママとたまたま隣にいたノンケ(異性愛者)の中年男性に話すと、サイトにあるマサキの写真を見ながらママは、「こんなイケメンが相手だったら、私なら××して○○するのに〜(ここでは書けない)」と冗談を飛ばしつつ、次のように言った。
「そりゃカネを払ってるのはあんたなんだから、サービスしてやる必要なんてないわよ。でも、気持ちよくされると体が気持ちいいけど、相手を気持ちよくすると頭が気持ちいいのよね。要は、快感に没入してたら、どっちがどうとか関係ないのよ」
その言葉にハッとした。自分はセックスにおいてギブ&テイクを意識しすぎていたのかもしれない、と。難しく考えずに、目の前にある快感に没入すればよかったのだ。それが相手の気持ちよさにもつながるのだから。先のAV男優が言っていた「ワガママになる」の意味がようやくわかった気がした。
すると、横にいた男性も、私と同じように気を遣ってしまうから、風俗が苦手だと語りはじめた。男性でもそういう人がいるのだなと思った。「結局、セックスの問題って風俗で解決できるわけじゃないんだよね。そういえば僕も、没入したことないなぁ」と男性は遠い目をしながらつぶやいた。
お互い、もっとセックスでワガママになろう、とママがサービスしてくれたハイボールで男性と誓い合い、そのあとなぜか二人で大黒摩季の「ら・ら・ら」を歌った。