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AIトレンドがソフトウェアチームに変革をもたらす

キーポイント

  • AIの登場でコードの書き方に変化が起きている。開発者には「コードの専門家」から「AIの協業者」へと変化・適応していくことが求められる。

  • 運用チームには、AI駆動運用ツールの専門知識の吸収や自動化スクリプトの手書きから可観測性戦略設計に移行をし、AIシステムを望ましい動作に導くことが求められる。

  • AI導入を成功させる鍵として、テクニカルライターには、より価値の高い動的コンテンツ(ユーザーからの問い合わせ、インシデント学習、文章使用パターンの分析、知識のギャップの特定など)への注力が求められる。

  • SaaSプロバイダーがAIアシスタントの積極的な統合を計画していない場合、より満足度の高いユーザーエクスペリエンスが提供可能なAIネイティブのスタートアップ企業に市場から追い出される恐れがある。

  • 組織は、人間の介入を最小限に抑えつつ複雑なビジネスタスクの調整、計画、実行できるAIエージェントを積極的に採用する動きにある。

原文リンク(2025-03-21)

クラウドコンピューティングの登場以降、ソフトウェア業界は大きな変革の中にあり、AIの普及でソフトウェア構築・運用・インタラクションが根本的に変わろうとしている。筆者は、SOAからマイクロサービスへの移行コンテナからサーバーレスへの移行といった近年のIT業界の大きな変化を見届けて発表してきたが、AIはさらなる根本的な変化をもたらそうとしているように感じている。AIの影響は、コーディング作業の自動化やアプリケーションチャットボットの追加にはとどまらないだろう。私たちが目の当たりにしているのは、全く新しい開発パラダイム・運用手法・ユーザーインタラクションモデルの誕生である。チーム組織の在り方やソフトウェアの利用方法も全く新しいものになるだろう。

本記事では、現時点での影響に加え、今後ますますソフトウェアチームへの影響が強まるであろう5つの動向を考察する。それぞれのトレンドについて、どんな変化がおこっているのかを実例を通して探り、開発者からアーキテクト、プロダクトマネージャーに至るまでのさまざまな役割に立つ人々が新たな環境で適応・謳歌する方法を模索する。まずは、最も根本的な変化が起こっているコード記載の例を見てみよう。

生成AIを活用したソフトウェア開発のあり方

ソフトウェア開発は、手間のかかるパンチカード方式の時代から抽象化の時代へと段階的に目覚ましい進化を遂げてきた。

技術性の高い専門知識を必要とするアセンブリ言語に端を発したシステム開発は、C言語やC++言語のようなシステムレベル言語やJavaやJavaScriptのようなマネージドランタイムを経て、さらにはPythonのような高水準言語へと進化してきた。それぞれの段階で開発管理の厳格さを犠牲にした開発アクセシビリティの向上というトレードオフが行われてきた。この進化工程の最新段階がAIネイティブ開発(その他の名称でも知られている)である。

生成AI(GenAI)と大規模言語モデル(LLM)の登場で、手作業でコーディングを行う場面が減ってきている。開発者がすべての行に自ら入力する必要はなく、複数行編集やスケルトン生成、さらにソフトウェアコンポーネント生成すべてにAIシステムが活用できる。

特定のドメインやウェブアプリといった制限環境では、AIで自然言語での命令(テキスト形式や音声コマンド)や画像の指示でフルスタックアプリの構築・実行さえ可能になっている。この段階においても、ソフトウェア開発の利便性や抽象化を促進し、既存の開発プロセスを変えていくという従来のトレンドを踏襲している。

図1:AIコーディングアシスタントのランドスケープ分類(出典:GenerativeProgrammer.com

現在、AIアシスタントを利用した開発ツールは発展が二極化している。

  • AI搭載型IDEとコーディング支援: GitHub CopilotCursorWindsurfのようなツールで従来の開発ワークフローが向上し、インテリジェントなコード補完や生成が可能になっている。こうしたAIアシスタントの利用で、プロジェクトのコンテキスト、依存関係、パターンを分析や、関連するコードスニペットや関数全体の提案が普段の開発環境内で完結できる。その他のツールは、コードレビューやレガシーアプリケーションのモダナイゼーションに利用可能だ。 これらのツールはすべてリスクの低い段階的な導入が行えるほか、既存のコーディングプラクティスやプロセスの維持とAI・ワークフロー統合の両立を実現している。

  • コーディング用自律型AIエージェント: DevinBoltv0ReplitLovableといったプラットフォームは提案の上を行くアシストを行っており、制限環境やUI・Javascriptなどでのドメイン制限時に、高レベル要件の理解、アーキテクチャの提案、アプリケーション全体の生成、さらには生成したアプリケーションのデプロイ・実行までもが可能だ。これらのプラットフォームの登場で既存の開発者に限られていたソフトウェア開発の枠が広がった。駆け出しの開発者や技術知識のある一般ユーザーもバイブコーディングを通じて、自然言語ベースのプロトタイピング、デザインモックアップ、製品完成までの反復プロセスに携われるようになった。しかし、生成AIを活用したソフトウェア開発は日が浅く、再現性の精度や既存のソフトウェアエンジニアリングプラクティスにおける反復や段階設定を伴うプラクティスとの統合で課題が残っている。受け入れテストや動作の仕様化の考え方は一貫性の向上に役立ちそうである。とはいえ、多くの未解決の問題が残る発展途上分野なのが実情だ。

影響と活用方法とは?

AIの登場でコーディングは変化しており、開発者側の適応が求められている。「コードの専門家」からAIの協業者へと自身の役割変更ができれば、つまり、コンテキストの明確化や要件調整によるプロンプト生成を通してAIを望ましい成果に誘導できるようになると、作業時間の短縮やより価値の高いタスクへの専念が可能になるだろう。AIでのコード生成が可能な一方、とりわけてビジネスコンテキストにおけるスケーラビリティ、セキュリティ、リスク分析への判断はいまだ困難である。生成AIを活用したソフトウェア開発はまだ成熟しておらず、信頼性や既存プロセスや既存オートメーションとの統合に障害が出る場合が多い。 今後は、アーキテクチャ、システム設計、フルスタック開発、エンドツーエンドのシステム開発ライフサイクル(SDLC)、業務優先度合い、非機能要件(NFR)に理解のあるエンジニアがますます求められるようになるだろう。また、トレードオフ内容の考察やAI生成コードから期待した結果が得られるようにすることも重要である。

ソフトウェアエンジニアとしての将来的なキャリア設計には、AIへの深い造詣、プロンプトエンジニアリング(AIの得手と不得手)の把握に加え、これまで通りの新規ツールを使用したプラクティス習得が必要だ。こうした状況に適応するため、システム設計、アーキテクチャ、ドメイン知識、クリティカルシンキングのスキルアップに注力することが求められる。AIツールの利用で特定のコーディング作業の自動化は可能だ。だが、依然として複雑なシステム理解やセキュリティ確保、業務ニーズから技術的ソリューションを導き出す機能には、人間の介入が欠かせず、長期的なキャリアを築くためにもこれらが決定的な要素となっている。ただコード生成の数をこなすだけでなく、人間の問題解決スキルとAI機能を融合させてより迅速に優れたソリューションを提供できる人材が、ソフトウェアエンジニアリングの今後を担っていくのだ。

AI駆動オペレーション

これまで監視・トラブルシューティング・セキュリティ保護・運用を担った人間側のキャパシティーが、モダナイゼーションを経た分散型システムの規模や複雑性についていけなくなっている。加えて、AIによるコード生成で開発スピードが加速しているのだから、アプリケーションの数や複雑性は高まる一方だろう。手作業によるログ監視、スレッシュホールドを利用したアラート設定、静的なダッシュボードといった従来アプローチに依存した可観測性では立ち行かなくなってきている。今後は、AI駆動ツールで可観測性データ、予測可能な問題の検知やシュミレーション、根本原因分析の自動化、監視や修復作業の自然言語によるインタラクションを可能にし、監視の手間を最小限にすることがAIアプリケーション開発を監視、サポートする唯一の方法となるだろう。

New RelicSplunkDataDogをはじめとする大手のプロバイダーは、可観測性の実現に向けてAIとアプリケーションパフォーマンスモニタリング(APM)ツールセットの統合を実施している。これらの機能強化で膨大なテレメトリーデータから実用的な洞察の抽出が可能になり、認知負荷の軽減や迅速なインシデント処理につながる。 以下の有名なアプリケーションでは、可観測性のモダナイゼーションやセキュリティ確保に従来の機械学習(ML)や生成AIが使用されている。

  • 予測分析:予測分析では、過去のサイバー攻撃パターンを分析し、攻撃パターンの発見や潜在的脅威の特定を行う。 AIでは、実世界データセットと合成データセットの両方を使用した攻撃シナリオシュミレーションが可能だ。

  • 行動分析: 過去の傾向性を探る予測分析に対し、行動分析ではリアルタイムのユーザーアクティビティに着目する。従来のセキュリティツールでは認証情報の漏洩や内部脅威の恐れのある外れ値が見逃されることが多かったが、AIではこれらの特定も可能になっている。

  • アノマリ検知: AIは、ネットワークトラフィック、システムログ、APIインタラクションを継続的に監視し、確立された基準からの予期しない変化の検出を行う。 AIではこのプロセスを強化に向けて、アノマリの人工生成、検出モデルのストレステスト、ゼロデイ攻撃や新たな脅威パターンに対する防御強化を実施している。

  • 根本原因分析: 従来式の根本原因分析では、膨大なログの精査、メトリクス相関機能を使った関連分析、非構造化ドキュメントの解析、手作業でのパターン特定といった、作業遅延やエラーを誘発する工程が含まれることが多かった。しかし、AI駆動プラットフォーム(Resolve.aiなど)では、 インフラストラクチャメトリクスやアプリケーショントレースからデプロイ履歴やデプロイに関するドキュメントに至るまでのスタックの運用データ全体を集約することで、この工程の自動化を実現している。

根本原因分析の自動化(例:Resolve.ai

運用チームにとって認知負荷の高い信号確認作業であった可観測性が、AIの登場で実用的な洞察の自動取得へと変貌した。AIは、Wikiやチャット上の非構造化データの吸収、テレメトリ変更に伴うコードの自動変更、インシデント管理用動的ダッシュボードの生成、段階化された指示での具体的な解決策の提案が可能だ。例えば、サービスにレイテンシーのスパイクが発生した場合、AIはスパイクと直近のデプロイ、インフラ変更、過去の類似インシデントとの関連付けを即座に行うことができる。さらに、AIは根本原因の特定、カスタム作成したダッシュボードへの調査結果表示、社内Slackでの復旧確認まで対応可能である。こうした高水準の自動化により平均復旧時間(MTTR)が短縮され、事後消火的な受動的オペレーションから、問題の未然防止に向けた動的オペレーションへと変化している。AIの最大の利点は、組織内データの蓄積化、すなわちすべてのインシデントを将来的な参考資料として保存することができる点である。

影響と活用方法とは?

AIの登場した新たな環境で運用チームとして成功するには、AI駆動運用ツールの活用に関する専門知識が欠かせない。今後は、長文クエリの作成、ログ解析、自動化スクリプトの手動作成ではなく、包括的な可観測性の戦略を設計してAIシステムを望ましい動作に導くことが求められるようになる。AIで膨大な運用データの処理や解決策の提案は可能だが、運用チームにはシステムアーキテクチャ、ビジネスコンテキスト、影響分析を理解し、AIの提案の評価や情報に基づいた意思決定が求められる。

コンテキストに基づくインタラクティブドキュメント

オープンソースまたは商用SaaSに関わらず、高い信頼性のソフトウェアドキュメンテーションを採用することは、常に重要度の高い項目である。ソフトウェアドキュメンテーションでは、初心者のためのチュートリアル、特定タスク向けのハウツーガイド、詳細な情報を記載したリファレンスガイド、理解に役立つ解説といった、主要機能が綿密に設計されている。こうした構造の重要性は変わらないが、ソフトウェア開発サイクルが加速を続けるに伴い、ドキュメントの正確性や適切さの担保がますます困難になっている。

基盤モデルの大きな限界の1つに、知識情報の劣化がある。しかし、検索拡張生成(RAG)の台頭でコードベース、API仕様、ドキュメンテーションリポジトリから直接データ取得が可能になり、LLMで最新かつリアルタイムのレスポンスを常時利用できるようになった。こうしたAI性能により、ドキュメント作成方法や開発者のアプローチに変化が起きている。CrewAI社のChat with the Docsでは、適切な回答を得るには、手作業で何ページにも及ぶドキュメントやStackOverFlowのディスカッションを検索するより、AI駆動会話型インターフェースの使用が効果的であるとの見解が示されている。昨今は、LLMのリアルタイムコード生成やリアルタイム実行機能を利用し、コーディングを通して新しいソフトウェアプロジェクトの知識を得る開発者が増えている。以下は、ドキュメンテーション分野における直近の開発実例である。

  • ドキュメント作成: 多くのツールは、ソースコード、API、開発者間のディスカッションに基づいたコンテンツを提案することで、ドキュメント作成の効率化を行う。 AIで構造化ドキュメント、コードスニペット、FAQを生成し、テクニカルライターの手作業負担軽減が可能である。

  • ドキュメント管理ツールの埋め込みチャットアクセス権機能: Kapa.aiInkeepをはじめとした管理ツールが、ドキュメントポータル、プロダクトインターフェースに加えマーケティングサイトにも直接統合されており、ドキュメントクエリを会話形式で実行できる。DevDocsなどの他の管理ツールでは、Model Context Protocol(MCP)を通じてCLIやIDEに統合されたドキュメントへのインタラクティブなアクセスが可能だ。こうしたAI搭載型ドキュメント管理ツールで即座に適切な回答を得られるほか、サポートに起因するオーバーヘッドが削減され、デベロッパーエクスペリエンスの向上につながっている。

  • ナレッジの自動収集とサポート統合: Pylonなどのツールで、開発者の質問、サポートチケット、インシデントレポートを分析を行うCopilotが導入され、ドキュメント作成が飛躍的に充実した。これらのツールでは、定義済みマニュアルに依存するのではなく、実際のユーザーインタラクションに基づいたFAQ、ベストプラクティス、トラブルシューティングガイドを作成する。

これらのAI搭載型ツールは、単なるドキュメント検索以上の活用が可能だ。これらのツールをユーザーフローに組み込むことで、製品コンテキストの理解、エラースタックトレースの取得、複数ソースの関連情報の取得集約、各ユーザーの専門レベルに合わせた会話形式での回答提案が行える。

影響と活用方法とは?

テクニカルライターやドキュメンテーションチームの使用ツールが大きく変化している。AIを活用せず、手動でのドキュメント作成や更新を続けているのなら、すぐにでも自動化ツールに仕事を奪われかねない。とはいえ、従来通りのドキュメント作成やAIの生成コンテンツをコピーペーストするだけで十分と言える段階も過ぎてしまっている。今後の成功には、ドキュメント作成や情報収集の両方でAIを活用し、効率性を上げることが求められる。そして、ユーザーからの質問などの動的コンテンツの取得、ベストプラクティスの開発、インシデントラーニングの取得、ドキュメント使用パターンの分析、知識のギャップの特定、また必要とされる場やタイミングでのこれらの提供といった、より生産性価値の高い作業に注力することが重要である。今後のドキュメント作成は、静的テキスト形式ではなく、ユーザーのワークフローやツールにより深く統合されたコンテキスト認識型会話形式になる。この変化に適応できる開発者がAIに仕事を奪われない一方で、そうでない開発者には厳しい結果が待っているだろう。

SaaSインターフェースとしてのコンテキスト認識型AIアシスタント

発足当初は、インフラストラクチャのプロビジョニング、スケーリング、セキュリティ、可観測性はプラットフォームに任せ、開発者は専らビジネスロジックに従事できるようになるというサーバーレスアーキテクチャや数多くの開発者向けSaaSの有望性には説得力があった。だが、理論上は成功したものの、現実ではサーバーレスに伴う複雑化という新たな問題が生じることになる。膨大な数のサービス、API、仕様設定が開発者に求められるようになったのだ。ドキュメント作成に伴う負担が劇的に増大し、結果としてベストプラクティスをアップデートし続けるだけで丸一日を要するようになった。つまり、サーバーレスサービスのパワフルさ向上や細分化が進んだ結果、設定の数や管理に要する労力が膨れ上がり、開発者としての生産性の維持が困難になってしまったのだ。

AI側でもSaaSのカスタマーエクスペリエンス改善に向けた動きがあり、コンテキスト認識型アシスタントが製品に直接組み込まれている。開発者側でドキュメント管理ツールを検索したり、CLIをカスタムインストールしたり、curlコマンドで効果的なAPI呼び出しを把握したりする必要はなく、AI駆動インターフェイスではコンテキスト認識型ガイダンスをリアルタイムで利用可能だ。さらに、自然言語を用いた指示を実行し、ルーティン作業の自動化ができる点にも注目だ。MCPのような新たな標準によって、ユーザーコンテキストの理解、外部リソースに基づく処理実行といったAI機能が急成長している。 AIが段階的なガイダンスの提案に留まらず、会話型インターフェース内で直接タスクを実行できるようになる、つまり、AIが受動的なアシスタントから主体的な問題解決者へと役割を変える日も近いだろう。

SaaS向けAIアシスタントモデル:組み込み型、拡張型、外部型

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AIアシスタントの統合方法は複数存在する。

  • SaaS組み込み型の深く統合されたコンテキスト認識型AIアシスタント

  • 既存サービス向けの拡張型AI駆動アシスタント(エントリーポイントまたはサービスの一部機能に限定されることが多い)

  • 完全なサードパーティ/外部型AIアシスタントサービス

SupabaseUIに深く統合されたAIアシスタントSupabase AI Assistantのケースを考えてみよう。 Supabase AI Assistantは、ドキュメント作成用のチャットボットや検索ツールではない。コンテキスト認識型アシスタントとして製品のドメイン(Supabase)やリアルタイムのユーザーステータス(サービス種類やアクセス権限)の把握、プラットフォームのAPIと直接対話が可能だ。開発者がデータベースクエリで悩んでいるとしよう。AIアシスタントは概要説明だけでなく、効果的なクエリの生成、処理パフォーマンスへの潜在的な影響を説明、要求に応じた処理の実行までこなすことができる。こうしたリアルタイムアシスト性能と処理実行性能を兼ね備えたアシスタントが、ユーザアクティベーション向上の大きな推進力になっている。

対照的な例には、Vercel社のv0.devが挙げられる。v0.devはVercel以外のサービスとの併用も可能で、Vercel(または他のサービス)でウェブサイト作成や、最終的なホスティングを検討している新規ユーザー層の取り込みが期待できる。 v0.devとVercelはホスティング先が分かれており、専門知識に乏しく簡易的なサイト作成や段階的なVercelへの移行を検討中のユーザーがVercelの網羅的な機能や複雑性に煩わされずに済むのだ。現在分離しているとはいえ、これらのAIツールを活用したエントリーポイントと主要SaaSの統合がより緊密になるのは必然である。ユーザー側でAI搭載型SaaSと従来型SaaSを部分的かつ相互に移行できるようになるだろう。

最後のカテゴリーには、Lovable.dev、Bolt.new、ReplitなどのAIネイティブなSaaSサービスがある。AIネイティブなSaaSサービスでは、非技術系ユーザーや専門性に乏しいユーザーを惹きつけながら新たなユースケースの発見が進んでいるほか、バックエンドサービスとして機能する従来型SaaSのサードパーティフロントエンドが提供されている。実例を挙げると、LovableはSupabaseと、BoltはNetlifyやGithubとそれぞれデプロイターゲットプラットフォームとしてシームレス統合されている。

影響と活用方法とは?

こうした業界動向の影響は、SaaS製品全般に及ぶだろう。特に高度な技術製品を使用する際のユーザーインタラクションにおいて、自然言語がインターフェイスとして欠かせないものになりつつあるからだ。自然言語がプロダクトレッドグロース(PLG)の新たな推進力となり、専門性の乏しい新規ユーザーでも迅速なオンボーディング、直感的な機能探求、早期段階からの性能のフル活用が可能になるだろう。だが、それまでの道のりではチャットボットの追加だけでなく、AIを活用した最大限の価値の提供先やその実現方法を改めて考える必要がある。データストアプロバイダーにとっては、SQLクライアントの要求だけではなく、スキーマ作成、データクエリの実行、プロンプトを通じたテストデータの生成する必要もあるかもしれない。また、可観測性プラットフォームの提供側であれば、プロンプト1つでログの調査や使用パターンを分析して問題を修正するといったところだろう。 AIアシスタントとのサービス統合に消極的なSaaSプロバイダーは、より効率的なユーザーエクスペリエンスが提供可能なAIネイティブのスタートアップ企業相手に立ち行かなくなるリスクがあるということだ。

SaaS企業のプロダクトエクスペリエンスリーダーには、以下のようなキャッチアップが求められる。

  • AIの使用 - AI CopilotやAIアシスタントを自らの手で試し、性能を理解する。

  • 社内のAIイニシアチブ - チームメンバーの教育育成し、好機にアンテナを張る。

  • 自社製品使用におけるフリクションを発見し、自然言語インターフェース(チャット)での対応を試みる。

  • 真価の発見 - 単なる会話型インターフェース実装に留まらず、AIで価値提供の幅がいかに広がるかを明確にする。

  • AIは新機能の推進力である。AIを活用した自社製品の新規ユースケースやユーザー基盤に向けてのアプローチ方法を探る。

エージェンティックシステムの台頭

手動介入を最小限に抑えつつ、複雑なビジネスタスクの調整、計画、実行が可能な自律型AIエージェントを採用する企業が年々増えている。こうしたエージェントネットワーク構築フレームワークの先駆けとなる代表例にはAutoGPTAutoGenDapr AgentsLangGraphなどのプロジェクトがあるが、フルソフトウェアスタックが急成長している。こうしたエージェンティックシステムは単一タスクを実行する独立したAIモデルではない。AI搭載型サービスネットワークへと進化をつづけており、ワークフローオーケストレーション、非同期メッセージ通信、ステータス管理、信頼性、セキュリティ、可観測性を含んだ分散型システム機能や単なるAPI連携の先を行く堅牢な分散型システム機能が必要とされている。

影響と活用方法とは?

今回の動向は、インターネット、マイクロソフト製品、クラウドサービス、サーバーレスアーキテクチャと同様に組織のあらゆる役割の技術者に影響をもたらすだろう。

  • 開発者であれば、エージェントのデザインパターン、会話型APIとLLMの併用方法、エージェントの接続や調整に関するエージェントオーケストレーションの仕組みの習得が必須になる。

  • アーキテクトであれば、エージェンティックシステムと既存クラウドまたは既存SaaSプラットフォームの統合に向けた信頼性とコストパフォーマンスが担保されたAIソリューション設計が必要になる。

  • 運用チームであれば、従来のソフトウェアとは動作が異なるLLM搭載型アプリケーション用のLLMのモニタリング、可観測性、トレースツールの新規デプロイ実装が求められる。さらに、こうした新規ワークロードやツールと既存ツールやオペレーションプラクティスを統合する必要がある。Daprプロジェクトの対話用APIと既存可観測性ツールやセキュリティツールの統合状況は、上述した通りである。

  • プラットフォームエンジニアであれば、ゴールデンパスの開拓やフレームワークを構築し、AIエージェントの大規模開発、デプロイ、管理の難易度を下げることが求められる。

  • プロダクトマネージャーであれば、性能評価技術(eval)を理解し、プロンプトとレスポンスでプライマリーユーザーインタラクションが行われるAI駆動型インターフェースの動作と有効性を測定する必要がある。

AI活用を学びたい技術者に向けたオープンソースツールが日を追うごとに増え、また無料学習リソースが無限に存在しているのは、朗報である。この急成長を続ける分野において、組織には2つの選択肢がある。それは、自社チームのエージェンティックシステム開発のスキルアップに投資をするか、必要な専門知識をすでに持っている人材を新規雇用するかだ。AI駆動エージェンティックシステムは一過性のトレンドではなく、新次元のソフトウェアオートメーションなのだ。

AIに関連したアクションプラン

AIが急速に進化する昨今では、LLMの根幹となる強固なデータ基盤を築き、LMMの仕組みや性能と限界の把握に向けたアプローチ計画が欠かせない。プロンプトエンジニアリングの基礎を習得し、将来性のある確立されたツールになれることが重要だ。こうした根底知識を身に着ければ、開発者同士でAIにまつわる有意義な議論ができるようになり、AI躍進の把握や、AIを活用した成功のチャンスの発見につながるだろう。

以下のステップは、ソフトウェア開発で各役職に求められる役割の考察である。

  • 開発者向けとしては、CursorやGitHub Copilotのようなコーディングアシスタントの実用経験は最低条件となる。CodeRabbitのようなツールを用いたコードレビューの自動化も簡単でありきたりだ。注力すべきは、これらのツールを機能させるうえで低リスクなシナリオを見つけ、日常のワークフローと統合させることである。 雇用主から許可が得られない場合は、オープンソースタスクや副業で活用し、同僚にベネフィットと限界を共有するのがおすすめだ。

  • 運用チーム向けとしては、AIを利用した自動化タスク数の向上や人間の介入を必要としない運用方法の探求が求められる。その次の段階としては、わずか数回の外部LLMの呼び出しやエージェンティックシステムの全体運用といった作業規模に関わらず、AIワークロードを運用できる準備が重要になる。

  • アーキテクト向けとしては、エンドツーエンドのLLMを実装したアーキテクチャや、エージェンティックシステムをエンタープライズ環境に適合させる方法の理解に注力すべきである。つまりは、個々のAIコンポーネントの理解にとどまらず、エンタープライズグレードの品質を維持しながらAI機能の活用を可能にする信頼性やセキュリティの高いシステム設計方法を習得するということだ。AI機能を用いたレガシーアプリケーションのモダナイゼーションであれ、AIネイティブシステムの新規設計であれ、組織内の戦略的可能性がどこにあるかを見極めることを優先事項としていただきたい。

  • テクニカルライター向けとしては、AIツールを新たな同業者として受け入れることが必須になる。ツール、モデル、プロンプトをいくつも取り入れながら、ライティングワークフローの自動化に注力してほしい。将来的には、会話型コンテンツが主流になるだろう。

  • プロダクトマネージャー向けとしては、AIトレンドの動向と製品戦略への影響の見込みを注視することが求められる。AIネイティブ製品を吟味し、自然言語インターフェースとAIアシストの活用がユーザーエクスペリエンスの向上にどう貢献するかを理解するのが重要になるだろう。

ご存じの通り、設計、運用、プログラミングの進化は今後も続くだろう。だが、こうした根底スキルを習得することで、次の変化にも対応ができるようになる。 今日からスキル習得を始めるのがおすすめだ。このトレンドは今後10年はなくならないだろう。

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