日本経済新聞
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東京大学大学院法学政治学研究科 教授
選挙が近づくと、政権党は公共支出を操作して、有権者からの支持を調達しようとする。これは、政治学において「政治的予算循環(political budget cycles)」として知られてきた命題であり、日本に限られた話ではない。日本の参院選に関する実証研究もすでに存在していて、特に内閣支持率が落ち込んでいる場合に、参院選実施に合わせて政府投資が増やされる傾向があることが明らかにされている(斉藤淳『自民党長期政権の政治経済学』)。「内閣支持率が落ち込んでいる場合」という条件に現状況は当てはまっていて、記事に示された石破政権の動きはまさに理論通り、ということになる。
通常国会の終盤に、最大野党の内閣不信任案提出が取り沙汰されるのは、ほとんど毎年のことである。ただし今年に関しては、少数与党内閣となっていることから、不信任案が可決されてしまう可能性も十分ある、という点で例年と異なっている。例年であれば、不信任案が提出されても、多数派の与党は粛々と否決できるのだが、現在はそうではない。つまり、石破首相としては(通りそうな)不信任案が出されようとした時点で、解散総選挙に打って出る以外にないわけで、今回の森山幹事長の発言はその状況をただ確認しただけのことである。 また自民党としては、小泉農相の活躍が目立つ、このタイミングで勝負に出ようとの思惑もあるかもしれない。
定数4で大政党(ある程度以上の支持基盤を持つ政党)が安全運転で1人ずつしか候補者を立てない区の選挙は、地元民から見るとあまりおもしろいものにならない。そうした選挙区では、「結果がほぼ見えているのに、投票に行っても意味が乏しい」と考える有権者が多くなり、投票率も下がりがちである。 他方、記事中の公明党代表の発言にあるように、当落線上にあると予想されている政党(とその支持者)にとって、当選挙区の持つ意味はきわめて大きい。埼玉選挙区は全国的に見てもかなり定数が大きい方で、ここで議席を取れないようでは全国的な結果も相当危うくなる。
立憲民主党の野田代表は、首相を務めた経験もあり、党利党略ではなく国益全体を考慮して行動できる政治家である。番組内でふれられている年金改革法案での自民・公明・立民間の合意も、(政策そのものへの賛否は様々あるにせよ)野田氏率いる立憲民主党が「責任政党」であることを示そうとしたものと評価できる。 もっとも、代表の意思はともかく、立憲民主党内にはリベラル系議員を中心に、自民党と組むことを受け入れない議員も多く、いわゆる「大連立」が成立する見通しは立っていない。参院選後の展開として、より可能性としてあるのは、国民民主党の政権入りだろう。
選挙期間中に流れるSNS上の情報を、リアルタイムでチェックし規制することは、(それが望ましいのだとしても)技術的にほぼ不可能ではないか。そもそもある情報がフェイクかどうかを誰がどうやって判定するのか。その判定の主体に裁量権を与えた場合(短期間で結論を出すためには、そうせざるを得ないと思われるが)、特定の党派に有利な(あるいは不利な)情報ばかりが流通するように、裁量権を悪用されてしまう可能性も排除できない。現実的には、事後的に(選挙が終わった後に)、誤情報を意図的に流したかなどを慎重に見極め、悪質なケースを取り締まっていくという形しか取れないのではないか。
全国郵便局長会は、自民党にとっての有数の支援団体として知られる。当記事で話題になっている郵政民営化法改正案は、参院選が近づく中、露骨なタイミングでの郵便局支援策と言える。もちろん、郵政民営化法はもともと20年も前に制定された制度であるから、時代の変化にも応じて、その見直しは適宜求められる。だが、その見直しの必要性について、石破首相をはじめとする政府がどのように考えているのか、国民としては説明を聞きたいものである。今回の法改正は、政府提出法案ではなく、議員立法で行う方針であるようだが、政府の説明責任を回避する意図があるようにも見える。
かつての将棋対局中継では、アマチュアの視聴者が盤面の優劣を判定することが難しく、他のプロ棋士による(感覚に基づく)解説を信用するしかなかった。 ところが近年ではAI(将棋ソフト)による「評価値」(対局者のどちらがどれくらい勝ちやすいかを示す値)が、リアルタイムで表示されるようになり、素人でもプロ将棋をエンタメとして気軽に楽しめるようになった。藤井七冠の神業も、AI評価値を通して、わかりやすく一般の人に伝わるようになり、それが将棋界全体の盛り上げにも結び付いている。将棋界はAIをうまく活用した業界の好例である。
少数与党内閣がどれだけ持続するかにかかわる重要なファクターとして、記事中でふれられていないのは、「野党がまとまれる状況にあるかどうか」という点である。野党のうち、立憲民主党と国民民主党の間で合流ないし連合政権樹立の合意ができれば、今すぐにでも石破政権を倒すことはできる(というより、昨年の衆院選後の時点ですでに非自民連立政権ができていたはずである)。この両党が憲法や安保政策等で反目していることが、間接的に自民党政権を助ける構図になっているということである。この構図は、社会党と民社党に野党勢力が分裂していた55年体制期から変わっておらず、戦後日本政治における構造的な問題となっている。
「小沢氏は旧民主党時代から改選が2人以上ならば複数候補を立てるべきだというのが持論」と記事にあるが、2010年参院選で民主党は、小沢一郎幹事長主導で複数人区に(改選2人以上でなくても)積極的に2人目の公認候補を立てた。その主たる狙いは、自党候補者を競争させることで票を掘り起こし、党の支持基盤を広げることである。だが、党自体への支持率が低い状態で選挙を迎えたため、複数候補が当選した区は結局ほとんどなかった。 また、今回の神奈川選挙区に立てる2人目の候補は小沢グループの水野氏ということだが、選挙戦術と絡めて露骨に自派の勢力拡大を狙うあたり、これまで何度も政党を壊してきた小沢氏らしい動きと言える。
「戦後80年談話」の閣議決定見送りは適切な判断である。安倍晋三政権期に出された「70年談話」は、国内の保守派、リベラル派双方にある程度納得感を与え、同時にある程度不満を抱かせた、絶妙なバランスで組み立てられている。この談話を決定版の「落としどころ」とし、日本は前へ進まなければならない。この国には、将来に向けての課題が山積している。 したがって、80年談話の内容も、首相個人の意見表明にとどまるとはいえ、70年談話との整合性を配慮したものであるべきである。
野田佳彦氏にしても前原誠司氏にしても、旧民主党政権の関係者は、財源論なき分配政策が、よしんば選挙を勝つために有効だとしても、政権獲得後に自らの首を絞めることを重々承知のはずである。特に野田氏は財政規律派として知られ、最後の民主党政権首班として、自民党・公明党と消費税上げなどで三党合意を結んだ当人である(前原氏は当時の民主党政調会長)。 与野党いずれにおいても、党内の減税派・積極財政派による突き上げを受け、執行部は党内ガバナンスに配慮して、バラマキ的政策に流される構図となっている。だが、各党および各政治家の従来の主張からブレた政策を選挙直前に訴えても、有権者の広い支持を得られるとは思えない。
近年の政治学の知見によると、加入者数が減少しているのは自治会・町内会に限らず、PTA、労働組合、農業団体、宗教団体など、ほとんど社会のあらゆる団体・組織について当てはまる。こうした日本人の「脱組織化」ないし「孤立化」は、1990年代以降に顕著になった傾向である。 なお、90年代以降における投票率の低下など政治参加の減退は、この「孤立化」現象と無関係ではないと見られている。一般に有権者は、身近な人に動員(お誘い)されると政治に関与しやすくなるのであるが(特定の宗教団体の信者が、こぞって特定の政党に投票に行こうとするのはその一例)、そうした契機が日本社会から失われてしまっている。
イギリスは二大政党制の国と考えられがちであるが、じつのところ、すでにその形は崩れつつあった。2010年総選挙では、保守・労働両党がともに過半数議席を獲得できず、保守党が自由民主党と連立を組んでようやく政権を成立させた。2017年総選挙でも、政権党の保守党は過半数議席を失い、「ハング・パーラメント」状態を招いている。 とはいえ、それにしても今地方選の結果は衝撃的である。一般に、惰性的で無難な(中道的な)政策を掲げがちな既存の大政党は、有権者の不満が強い時代には、魅力的に映らない。日本で昨今、自民党や立憲民主党の党勢が低迷する一方、大胆な人気取り政策を掲げる小勢力が伸びているのも同じ構図である。
政治献金制度のあり方を検討する上では、政党助成制度との関係性という観点も重要である。外国の例を見ると、ドイツでは、政党法の中に政治資金に関する規定が置かれている。そこでは政党に対する国庫補助について、総額規制である「絶対的上限」が定められているだけでなく、補助金の配分額が自力で調達した資金額を超えてはならないという「相対的上限」も決められている。後者の規定は、政党たるもの、自力で社会から支援を集め、国家から一定の自律性を保つべきだとの思想から置かれたものである。政党法制定を検討するなら、この際、矮小な制度設計にとどまるのではなく、「政党とは何か」という本質論について議論を深めるべきである。
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境家史郎
東京大学大学院法学政治学研究科 教授
東京大学大学院法学政治学研究科 教授
【注目するニュース分野】日本政治、憲法、選挙、世論調査
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